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「この世界」

前回と話が繋がってないように見えますが、まあ、後でわかるということでひとつ。

四人の少年少女が出てきます。

漢字の読み方

・健吾……けんご

・室戸真乃……むろとまさの

・室戸真道……むろとまさみち

・鶴賀七海……つるがななみ

 突然だが、俺は今、森の中でロボットと戦っている。

 俺の武器は、電撃を放つ棒状のモノ。柄の部分が精密な電子部品のようなもので作られているのが特徴だ。

 お相手は……やや形容しづらいが、おおむね人の形をしたロボットだ。そいつが今まさにリアルタイムで俺を攻撃してくる。

 敵が握りこぶしを作る。そして、それを俺に向かって振りかぶるが、俺はその攻撃を余裕をもってバックステップで回避する。

 敵の行動そのものはパンチ、キックなどといった格闘技であるが、動きは非常に緩慢だ。ごく普通の運動神経しか持たない俺でも、落ち着いて回避に専念すれば、一度も攻撃を食らうことは無い。

 とはいえ、恐怖が全くないわけではない。金属質のその拳を受けたら、いったいどのくらいの痛みを感じるのか、それは未知数である。

 つまるところ、俺はさっさとこの戦いを終わらせたい。

(次の攻撃を回避したら、こちらから動こう)

 敵は、先ほどとほぼ似通ったフォームで腕を振りかぶる。こちらもまた、全く同じ体制で回避する。……このタイミングだ。

 すかさず右手の親指をひねる。武器の柄に装着されているスイッチを押したのだ。すると武器の先端から電撃が瞬間的に空間へ放たれ、目の前にある機体へヒットした。

 ヒットした瞬間、思わず耳をふさぎたくなるほどの轟音が鳴る。それは、このロボットの断末魔の叫びを意味していた。

 俺の足元に機体が横たわる。プスプスという音と、焦げ臭いにおいを放っている。微動だにしない。もう俺を襲うことは無いようだ。

 一仕事終えた俺は、腕時計を見やる。夕方の五時半だ。

「もういい時間だし、帰るか」


 俺は、森の外で、仲間と落ち合う約束をしている。目印も何も残してはいないが、この場所は森の入り口から五分ほどで着ける場所であるから、迷う心配はない。

 この森には違和感がある。うまく言葉にできないが、普通の森が持ち合わせる生物的、地理的な性質の多くを持っていない気がした。虫の音も、鳥の音も聞こえない。落葉もない。木漏れ日も無い。動物も住んでいない(少なくとも俺は一匹も見ていない)から、まるで空き家のように寂しい。そんな場所だ。

 この森の住人は、もっぱらあのロボットらだ。彼らはなぜここにいるのだろうか。

 

 森の出口へ出た刹那。

「あ、健吾さん」

 女の子が声をかけてきた。

「よう、真乃。調子はどうよ」

「えへへ、バッチリです」

 この子は室戸真乃という。俺は高校一年、彼女は中学三年なので、俺の一つ下だ。

「いい運動でしたー」

「俺はいまだに怖いんだがね」

 彼女は俺よりもロボット狩りの経験は長い。俺はまだ一か月くらいなのに対し、真乃は一年以上経験しているのではなかろうか。

「やっぱり私が一緒にいた方が良いですか?」

 真乃の気遣いに、俺の心が微かに反応した、ような気がした。

「いや、大丈夫だ」

「うーん、ちょっと心配です……」

 本当は俺も真乃と一緒に行動したいと思わなくもないのかもしれないが、それを口にしては多少情けないような気がした。

「大丈夫だ、心配するな」

 とにかく、そう答えることにした。

「そういや、あの二人は? 遅いな」

「そうですか? うーん、多分もうすぐで来ると思いますよ」

 あの二人、とは室戸真道と鶴賀七海さんのことだ。二人とも俺と同い年で、真道は真乃の兄だ。その兄というのが……。

「よう、真乃、健吾! いやー二人とも今日も可愛いなあこの野郎!」

 ベッタベタに引っ付いてくる。真道とはこんな人で、それ以上の説明は不要だ……多分。

「兄さん、あんまり引っ付かないでくれませんか」

「嗚呼、わが妹は冷たい! でもそれが可愛い! これを一般的な言葉で表すなら……冷た可愛い!」

「勝手に言葉を作らないでくれませんか」

 また兄と妹のやり取りが始まった。真道の妹への愛は猛進のごとくだ。そして妹さんは、あっさりとその進行方向と垂直に回避しているような、そんな構図だ。

「健吾! お前も可愛い奴だのう。こんな弟が欲しかった! 俺は!」

 もっとも、真道の愛の矛先は俺にも向けられるので、他人ごとではないのだが。

「弟って……、俺はお前と同い年だろ」

 俺も、彼の愛の突進を横方向へひらりと回避することにした。

「何言ってんだ健吾。お前が真乃と結婚すれば弟になるじゃないか!」

 回避したつもりが、彼は方向転換して再度向かってきた。

「そ、それは、ええと」

 しまった。すぐに言い返す言葉が見つからない。

「健吾さんと私が結婚するなんて、寝言も休み休み言ってくださいよ、兄さん」

 真乃のストレートな物言いに、俺の方が動揺してしまう。正論だ。確かに正論だが、俺が男としてレベルが低いように聞こえてしまう。

「いいじゃないですか結婚! 私は盛大に応援しますよー」

 何者かが背後からいきなり話に入ってきた。振り返ると……。

「なんだ、七海さん、いたの」

「今来たばかりですけどねー」

 七海さんは、隣のクラスの女の子だ。みつあみがよく似合う。性格は……、一言でいえば天然だ。適当な性格の真道とは、気が合うのではなかろうか。

「今、失礼なことを考えなかった? 健吾君」

「いえ、何でもありませんよ、七海さん」

 精一杯の笑顔を作ってやり過ごすことにした。七海さんは、怒らせたら恐ろしいキャラだ、というほどではないが、時々こちらの思考を正確に当ててくるので、ちょっと怖い。

「聞いてくれよ七海、健吾が俺の弟になるのを拒むんだ」

「そりゃあ拒むだろ。なあ七海さん?」

 七海さんは、真道と俺の方へ向く。どんな判定が下されるのか。

「まあ、健吾さんが弟になってくれたら、毎日が楽しそうですね」

 やはり真道との方が気が合うようだ。

「だろう? やっぱお前ら結婚しか道はないぜー」

 七海さんが真道に同意してしまうと、このメンツでは意見が二対二で引き分けになってしまうので、恐ろしい。

「はあ、まあそうかもな」

「まあ、そうかもしれませんね、兄さん」

 よって、俺たち二人はとりあえず同意しておくことにした。

「ところで、今は何時?」

 七海さんがそう口にしたので、俺は時計を見た。

「五時四十五分」

「マジか! 早く帰ろうぜ! うおおお!」

「ちょっと兄さん、そんなに速く走らないでよ!」

 真道は切り替えが早かった。

「なんであいつは早く帰りたがってるんだ?」

「えーと……うちの兄はよくアニメを見るんです……」

「何時から?」

「五時から……」

「そのアニメは普通に三十分のみの放送だよね?」

「はい、三十分です……」

 ただのアホだということが再確認された。

「私たちはゆっくり行きましょう、健吾さん、七海さん」

「はい、真乃ちゃん」

 こうして俺たちは、「この世界」の中心、かつ出口に当たる場所へ向かった。


 「この世界」は薄暗い。空は墨を流したように黒くて、星も雲も存在しない。かといって目の前が真っ暗なわけではない。視界は十分に確保できる。

 俺は一か月ほど前に、初めて「この世界」に来た。「この世界」は今までいた現実世界と全く違っていた。「この世界」を構成する空気、生物、物理法則、概念などといったものが、すべて等しく簡略化されているようだ。この地面の下に微生物が存在しているのかどうかすら、分からない。

「なあ、この世界って元からこうだったのか?」

 俺は二人に尋ねる。真乃と七海さん、そして真道は、俺よりもはるかに「この世界」について詳しいと思ったからだ。

「『こうだった』とは、どういう?」

「えっと、例えばさ、空に星は全くない割には、そこそこ明るいじゃないか」

「確かにそうですよね。太陽も月も見当たりませんし……。何か知ってますか、七海さん」

「えーと、それは、私たちそのものが光を発しているからよ」

 光を発している……?

「私たちだけじゃない、そこらにある草や土、木などからは、現実世界のそれとは比較にならないほどの強い光を発していて、それで視界が確保されているのよ」

「へえ……」

 確かに、ほかに光の源となるような物体は存在しなさそうだ。ならばあえて「この世界」の物体ひとつひとつが光を発していると考える方が、よほど妥当かも知れなかった。

「でも、なんで七海さんがそんなこと知ってるんですか?」

 真乃が質問する。俺もちょうど気になっていたことだ。

「そ、それは……、えーと、ほら、それしか考えられないじゃない?」

「まあ、そうだわな」

「考えれば考えるだけ、謎ですね、『この世界』というのは」


 「この世界」については、真乃が言う通り、謎が多い。でも、少なくとも俺にとっては心地良い空間だった。

 俺たちは学校が終わると、「この世界」に来る。「この世界」には生命がいない代わりに、ロボットが多数徘徊していた。だれが何のために用意しているのかは分からない。しかし、俺以外の三人は、かねてからこのロボットたちと戦っていたようだ。

 俺は約一か月前、それを初めて聞いたとき、真道にこう質問した。

「なんであんたらは毎日ロボットと戦ってるんだ?」

「実はな……健吾。今、このロボットたちは皆、現実世界へ侵食していこうという腹づもりなんだ。ロボットの侵略。それを止めるために、俺たち三人は人目につかないように、陰でこいつらと戦ってるんだ。そう、俺たちは言わばこの世界を救う……」

「違いますよ健吾さん、私たちはただ娯楽目的で動いてるだけです」

「おいこら真乃! 兄ちゃんのセリフを奪いやがって!」

「娯楽?」

「ほら、いい運動になるじゃないですか、これ。ボクシングでいうサンドバックみたいなものですよ、あいつらは」

「へえなるほど。この空間そのものも、なんか秘密基地みたいで楽しそうだな」

「やっぱりそう思いますか、健吾さん」

「思う思う」

「ちょっと、皆さん僕のことを無視しないで……」

 そう、「この世界」の意味するところは、ただ俺たち四人専用の秘密基地であることだけで、おそらくそれ以上でもそれ以下でもない。ということで、「この世界」に対する考察は、ひとまずここまでとしておくことにする。


「ようやく来たか」

 俺たち三人が「この世界」の中心に来ると、真道があくびを噛み殺しながら待っていた。

「遅いぞ」

「すまんな、真道。お前の楽しみにしてたテレビが遅くなって」

「たく、分かってるなら早く来いよな」

 とっくに放送が終わってることはまだ気づいていないらしい。

 「この世界」の中心部分の床は石造りとなっている。裏を返せばここ以外はすべて砂地であるため、この石造りの部分は結構目立つ。ここに、「この世界」の出口がある。

「とりあえず、さっさと開けますね」

 真乃が片手を掲げると、瞬間的に彼女の前方に質素な扉が現れる。そこそこ大きく、仮に身長二メートル半の人間がいたとしても、容易く通り抜けられるくらいはある。

「ありがとう真乃ちゃん。それじゃあ帰りましょうか」

 七海さんはそう喋りながら扉を開けた。扉から淡く白い光が放たれる。扉の向こうはもう「この世界」ではなかった。扉は「この世界」と現実世界との接続部であり、ここから世界間の行き来がなされるのだ。

 この扉は、真乃しか出現させることができないみたいだ。それも、謎といえば謎である。

 七海さんは扉の向こうへ身を投じる。それに真道が続く。二人はこの空間から消えた。いまだに慣れない。今までの約一か月間の経験上、彼女らは無事に現実世界へ着いているはずなのだが、それは「この世界」からは確認することができない。

 もし、彼女らが本当に消えてしまっていたら? おそらくそれはない。しかし、百パーセントありえないとは言い切れないのではないか。

「どうかしましたか、健吾さん」

 そんな俺に、話しかけてくれるヤツがいた。真乃だ。

「……いや、何でもない」

 また気持ちを隠してしまった。

「なら、早く帰りましょう?」

 彼女は俺の方を見ながら、手招きする。扉から溢れる白い光のおかげで、やたらとまぶしく映った。

 そうだ、俺はこのままではいけない。

 そう、俺は「あの人」とは違う。一か月前、そう心に決めたのだから。

「今行くよ」

 俺は真乃と並んで、「この世界」としばらく別れた。


日本語の使い方とか改行の仕方とかいろいろ間違ってるような気がしてなりません(汗

間違いがあれば「ここ間違ってるよ」と丁寧に指摘していただけるとめちゃくちゃうれしいです。

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