表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

開幕

初めての小説投稿です。しかも連載です。よろしくお願いします。

ジャンルはヒューマンドラマにしてるんですが正直よく分かりません(爆

 映像が再生される。

 真っ黒に塗りつぶされた世界に、淡い光を放つ白線が二本、画面の手前から奥へ向かって際限なく伸びている。道だ。

 少し時間が経過すると、画面の手前から女の子がゆっくりと姿を現した。ヒロインのお出ましに、心の中で歓声を上げる。隣でこの映像を見ていた夫も、嬉しそうに笑みをこぼした。

 女の子は道の真ん中から寸分もずれることなく、少しずつ画面奥へ直進していく。おぼつかない足取りで、マイペースに。ひとまず今は、静かに見守ることにする。

 何十分も経っただろうかというところで、今度は男の子が同じようにその姿を現した。ヒーローのご登場に、私と夫はますます興奮した。

 女の子と男の子は一定の速度・間隔を保ちながら前進していく。男の子のほうは、前を歩く女の子を視認できていないようだ。二人とも、ゆっくりと着実に、そして独力で歩みを進めていく。ふと再生時間を確認すると、開始から一時間も経過していた。彼女ら二人を知らない人がこの映像を見たら、今頃幸せな夢でも見ながら熟睡している頃だろうか。

 ふと、彼女らを映すカメラが回る。女の子の表情がアップで映し出された。――泣いている。今度はカメラが男の子の顔を覗き込んだ。こちらも同様だ。二人とも、静寂を一切破ることなく、涙を流している。

 夫が急にガタっと音を鳴らして席を立った。視線は映像へ向けたままで。そして、しばらく経つとゆっくりと座り直した。助けてあげたいという気持ちが先行して立ち上がったが、映像の中の彼女らを助けることは不可能だと気付き、仕方なく座り直した、そう表情にかいてあった。

 私たちが必死に見守っている中、女の子の眼前に分かれ道が現れた。一方は細く、もう一方は太い。この映像のタイトルにもなっている、「一と九の分かれ道」というものだ。細い道と太い道の道幅がだいたい一対九の割合となっている、ということが名前の由来だそうだ。

 女の子は突然の道の変化にたじろぐ。彼女は突如現れたこの分かれ道の、どちらかに進まざるを得ない。ここに来て、ようやく手に汗握る展開が来た。私はいっそう、画面に食いついた。隣の夫の動向を見る余裕もなくなるほどに。

 女の子は、我々が思ってもみない行動に出た。細い方、すなわち「一の道」を選んだのだ。この行動にはさすがの私も驚きあきれた。何故わざわざ好きこのんで「一の道」へ進むのか、到底理解できなかったからだ。夫も同じ気持ちのようで、目を思い切り丸くしていた。

 そしてまたしばらく静寂の時である。男の子は相も変わらず、ナメクジのようにのろのろと歩みを進めている。

 依然として分かれ道はそこにある。今度は男の子のほうがそこへたどり着いた。この子ならあるいは、とも思ったが、彼は、やはりというべきか、「一の道」へ進んだ。

 私の頭の中に、ますます疑問が立ち並ぶ。最近の若い者は、そういう思考回路なのだろうか。

 夫の方へ向き直る。「そこは普通太い道を選ぶわよねえ」と私の意識を飛ばした。夫にその意思は伝わったようで、彼は大げさに首肯していた。

 またさらに映像は続く。男の子のほうは歩くスピードが微量増し、女の子よりも速くなった。このままいけば、男の子が女の子に合流するだろう。その時をじっと待つことにする。

 徐々に二人の距離は縮まっていく。まだ男の子は前方の女の子を視認できていない。もう少し待つ。二人の体がぎりぎりまで近づく。やがて二人は同じ座標に立ち並んだ。

 男の子が、ようやく彼女を認識した。女の子の方もまた、然り。二人は一瞬だけ止まり、また前方へ歩調をとる。二人は横に並んで歩んでいた。なるほどこれが、二人の初めての出会いのシーンなのか、とひとり納得する。

 と、その刹那、二人は走り出した。止まっていた時間が動き出したみたいに。思わず目を見張った、と同時に、ずっととぼとぼと歩いているのを見せつけられなくて済む、という安堵の感情が去来した。

 二人は地面を蹴って、自分の存在を前方へ推し進めている。この、細く狭い道を蹴って。

 しかし、これは一体何なのだろうか。何が彼らを急き立てたのだろう。あの初めての出会いが要因だろうか。

 そもそもなぜ二人は「一の道」へ進んだのだろうか。

 疑問は絶えない。だが、そのおかげで、この先の映像も楽しく見れそうだ。


 再びカメラが彼らへ接近する。二人はいつの間にか手をつなぎ、そして全霊を込めて笑っていた。

とりあえずプロローグです。適当なタイミングで続きを投稿していこうと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ