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第三話

●水瀬邸 縁側

「――あんた、いい所に住んでいるのねぇ」

 応接を兼ねた広い縁側に通された理沙は、出されたお茶を飲みながら感心したように言った。

「ったく、世の中理不尽よね」

「よくわかんないけど、お姉さん、これ何?」

 自分の前に広げられた数枚の写真を手にした水瀬が首を傾げた。

「すごく食欲なくすんだけど」

「現場写真。貴重でしょう?」

「見たくない」

「そう言わないで。助けると思って」

「……まぁ、いいけど。これじゃ、何が何だかわかんないよ」

「でしょうね」

 当然という顔で頷く理沙は言った。

「下にパトカー停めてあるから、現場、見に行ってくれる?」

「タダで?」

「当然でしょ?」



●加納萌子の日記より

 ルシフェルお姉様が教室に通って下さった最初の日。

 とても嬉しい。

 何より着物姿がとてつもなく似合う。

 すっごい綺麗!!

 着物は青。遥香様がお決めになった柄だという。

 さすがにいいセンスされている。

 けど、やっぱり素材よ素材!

 お姉様が髪を結い上げているの、初めてみたけど、もうスゴイ!

 綺麗!きれい!キレイ!!!キレイすぎ!

 褒める言葉がとっさに思いつかなかったもん!

 こんな綺麗すぎるお姉様と、横を並んで歩けるだけで、私、幸せ!

「きっと男の人なら絶対惚れますよ」と心の底から思う。

「―――今、オトコの人については忘れたい」

 ポツリと言うお姉様。

 気になる。

「どうしたんですか?」

「ちょっと、色々あって」

 うーん。噂では、あの秋篠先輩と付き合っていると聞いてはいる。

 あのゴツい朴念仁の何処がいいのか、私にはわかんないけど、まさか、あの人と何かあったわけじゃないよね?

 

 気になりつつ、茶室へ。

 居合わせた全員の視線がお姉様へ集中!

 すごい!居並ぶ他のお弟子さん達が霞んで見える!

 茶道教室を初めて60年の師匠が両手放しで褒めちぎっていたっけ。

 『萌子さんと二人で着物のファッションショーが出来る』とか何とか。

 でも、肝心のお姉様ったら。

「目立つのかなぁ」とポツリ。

「そりゃ、目立ちますよ。こんな美人なら」

「うーん」

「どうしました?」

「あんまり、目立つのって好きじゃないの。これから、どうしよう」

「っていうか、お姉様の場合、美人過ぎるから目立つなって方がムチャですよぉ」

「萌子ちゃんの方が可愛いと思うよ?」

「私がカワイイのは当然ですけど、カワイイと美人は別です」

「―――そういうものなの?」

「そうです。深みが違うんですよ。だから、どんなことしても、美人は美人なんです」

「よくわかんないけど、諦めろってことなの?」

「単純に言って、そうです」




 ●葉月市内警察署内

「やっぱり、わかんない?」

 現場となった部屋からの帰り、警察署で死体を確認してもらった理沙は、廊下のベンチに座る水瀬に、残念そうに言った。

「気になることがあるんだけどね。ありがと」

 コーヒー入った紙コップを受け取りながら、水瀬はそう言った。

「何?」

 理沙もコーヒーを手にベンチに座る。

「あのね?殺され方なんだけど」

 検死報告をめくる水瀬。

「検死報告に何か疑問点が?」

「これ、鋭利な刃物で切断されたってあるでしょう?」

「ええ。スパッと」

「ちがう。これ、別なもの」

「別のモノ?」

「うん。すっごく細くて強いワイヤーみたいなもので物体を締め付けて、それで切断したらこうなるよ」

 どこから出したのか、水瀬はソーセージをナイフで切断した。

「これが、刃物での切られ方。でも、あの死体はそうじゃない」

「何でわかるの?」

「切断する時、刃物があたった所には必ず痕が残る。インパクトした一カ所だけ。けど、この切断面、それが全面についている」

 ポケットから糸を取りだした水瀬は、一巻きソーセージに糸を巻き付けると、一気に糸を両手で引っ張った。

 糸の力に負け、ソーセージは二つに斬られた。

「こういう感じ」

 はい。とソーセージを理沙に手渡す水瀬。

「やっぱり、第三種事件?」

 受け取った、理沙はそのまま口に放り込むとコーヒーを飲んだ。

「そうなるね」

「実はね?この事件やま、京都でも起きてるのよ」

「京都?」

「茶道の師匠が細切れにされて殺された。その殺され方がそっくりなのよ。警察が同一犯の犯行と見るに十分」

「被害者に関係は?」

「全くの無関係」

「物取り?」

「京都で無くなったのは茶釜と壁に貼り付けられていたお面だけ」

「茶釜と……お面?」

「そう。お面は、関係者でさえ、今朝になって無くなっていることに初めて気づいたほど、どうでもいい代物らしいけど」

 理沙はコーヒーカップを弄びながら言った。

「不思議とね?さっき行った現場からもキツネの面が消えていたのよ」

「……物取りかもね」

 そんなもの、どうするのかはよくわかんなけいど。

 水瀬はそうぼやいて、コーヒーに口を付けた。

「そうでしょう?」

 理沙はまるで同情してくれと言わんばかりだ。

「まぁ」

 水瀬は言った。

「このテの糸は、普通の人間の使いこなせる代物じゃないから、犯人は推測がつくけどね」

「?」

「魔法騎士か魔導師、もしくは呪具使い」

「ってことは?」

「お姉さん達の部署の仕事だね。特殊事件捜査班―――だっけ?」

「ったく、冗談じゃないわよ」

 理沙は不平そうに言った。

「予算はないわ、権限はないわ。指揮系統ですら不明確。辞令受けた時、何て言われたと思う?「ついに出世がなくなったな」よ!?全く、どうして私が」

「でも、警察が第三種事件に本格的に介入するつもりになったってことでしょう?」

「あの戦争で、イヤってくらい妖魔見せつけられた宮内省と警視庁の妥協の産物よ。近衛軍がこれ以上、第三種事件で兵力を割かれたくないってね」

 チラリと水瀬を見た理沙は言った。

「―――この辺は、君の方が詳しいんじゃない?」

「知らない。でも、警視庁騎士警備部に対妖魔特殊戦闘班として創設したんだよね?確か、お姉さんと岩田警部が指揮を執るんだよね?」

「今のままじゃぁ、無意味に近いと思ってる。あの連中」

「なんで?」

 理沙はため息混じりに言った。

「キミ達見てるからよ」



●加納萌子の日記より

 だからこの教室は嫌い!!

 足が、

 足が痛いよぉ……。

「大丈夫?」

 心配そうに声をかけてくれた上に、さすってまでくれるお姉様。

 優しいな。

 やっぱり、あの暴力女とは全然違う。

「お姉様こそ、大丈夫ですか?」

「平気」

 すっと立ち上がるお姉様。本当にスゴイ。

 けど……。

「本当ですかぁ?」

 つんっ。

 軽くお姉様の足をつついた途端――。

「凸凹#rersew!?」

 声にならない悲鳴をかみ殺しながら、お姉様がへたり込んだ。

 痛そうに足を押さえるお姉様。

「だ、大丈夫ですか?」

 お姉様は、ただ無言で首を横へ振った。

 

 クールビューティーなお姉様。

 やっぱり、立ち振る舞いも洗練されている。

 そんなお姉様だから、やっぱり、我慢ってしてるんだなぁ……。

 悪いことをしたと思う。


 

 ●葉月警察署内

「糸?」

 理沙から報告を受けた岩田が怪訝そうな顔で水瀬に訊ねた。

「糸とは?」

「不明です。ただ、切り口からして、人間の髪の毛より細いワイヤー……いえ。ワイヤーソーを想像して頂ければ、凡そ間違いではないと」

「人間の技術でも作れるな」

「操作ができません。一本ならともかく、複数を同時にコントロールするなんて不可能です」

「なぜ、複数本と?」

「一本なら力をかける場所にどうしてもムラが出ます。引っ張る力の強弱が生じますから。でも、複数本なら」

「――成る程な。で、どんな呪具だね?」

「れい――」

 言いかけて、水瀬は口をつぐんだ。

 カマをかけられたことに気づいた水瀬だったが、後の祭りだ。

 岩田は何もないという顔で、

「―――ま、今日はゆっくりしていってくれ」

 真っ青になった水瀬の肩に手を置いた。

「カツ丼くらいだしてあげよう」

 


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