02
「リュージュ様、リュージュ様」
俺は、体をゆすられる感覚で。目が覚める。
どうやらまた、寝てしまっていたようだ。
「リュージュ様、起床の時間ですよ」
リュージュの記憶にある言語で話しかけられていた。
同じように会話も出来る自信がある。どうやら生活に弊害はないようだ。
「起きてください、リュージュ様」
女性特有の高い声だ。
リュージュの記憶から考えると、この声はアディラ・ワンス・スメディリーことアディラだ。この屋敷に使えるメイドの一人らしい。
余談だが、リュージュの記憶には一部欠損というか虫食いのような部分があり、個人情報だから見せることはできない、ということらしい。
不老不死で肉体的には20台前半のため、ほぼ毎晩のように虫食いがあった。まあ、肉体は同じだとしても他人のことだ。そこまで深く詮索するようなことではないだろう。
「はやく起きないと、朝食が冷めてしまいますよ」
リュージュと話をしていた時と比べ気怠さや寒気も収まり、多少の疲れや違和感は残っているがおおむねいつも通りといえるだろう。
瞼の向こうから温かい光を感じ、朝だということを実感させられる。
「今起きる」
俺はそういうと、ゆっくりと目を開けた。
「はやく居間に来てくださいね?」
アディラはそう言うと、部屋を出た。
俺はグッと背伸びをすると、頭の横に手紙のようなものが置いてあることに気づいた。
「こんな物は記憶になかったはずだが…」
体を起こし、ベッドに腰掛けると、手紙を手に取った。
前略 僕の体を継いだ者、この手紙を読んでいるということは、しっかりとこの肉体に定着させることが出来たということだろう。
この手紙には特殊な魔法が込められており、この手紙を僕肉体が読んだとき、僕の魂にそのことが伝わるようになっている。作り方は記憶の中にあると思うが、必ず読んでもらうために書いているときの記憶は消させてもらった。
さて、僕も不老不死とはいえ人間だ。魔力の使い方は感覚として覚えているだろうが、初めて使う場合の注意事項などはとっくに忘れているはずだ。
そこで、使い方をここに記しておく。読み飛ばして制御できずに僕の愛する者が死ぬのは困る。そのため、必ずやるようにすること。ちなみに、推測ではあるが、僕の体も半分以上吹き飛ばされればたぶん死ぬから気を付けたほうがいい。実際にやったことはないが、不死とはいえ痛みもある。回復にも痛みを伴うから、試すのはあまりお勧めしない。
さて、使い方だが、魔法とは自身の体内にある魔力を使用し、世界へと干渉することを言う。そして、体の中心に意識を向けると、温かいものを感じることが出来ると思う。それが体内の魔力だ。
その魔力を放出し、制御し、現象とする。これが魔法を使う手順だ。
まずは小さな水の玉でも作ってみるといい。
初心者は出す場所を限定し、その場所へ意識を向けるとやりやすいと言われている。
それが出来たなら、僕の記憶を探れば魔法の使用に関することが分かると思う。
いいね? 必ずやるんだよ?
それが分かったら、この手紙に水を魔法でぶっかけてくれ。そうすればこの手紙に込められた魔法は終了する。
長い話になってしまったが、君がこの世界で何をするのか、楽しみにしているよ。
俺は読み終わると、この手紙に書かれていたように、小さな水の玉を作り出すことにした。
体の中心から指先に必要なエネルギーを持ってきて、それを水の分子だと考えながら外へ出したのだ。
すると、指先からちょろちょろと水が出てきた。その水をまとめ上げ玉の形にするが、なかなか指先に持ってきた魔力がなくならず、水が止まらない。
「ヤバい、止め方が分からん」
記憶を探ってみるが、普通なら少ない量しか水を作れない分量しか魔力は使用していない。
何度も確認するが、その結果は変わらなかった。
その間も指先から水は出続け、俺も玉になるようにと制御を続けていた。
「えっと、止め方、止め方」
そう言いながら記憶を探ると、なんのイメージも持たない魔力を送り込んで強引に魔法を停止させていた記憶を見つける。
その記憶にしたがい、魔力を指先へ移動させると、ぴったりと止まった。
「この水はどうするかなぁ」
思っていた以上に水が出ていたため、直径が60cmを超えそうだった。
予想では直径は10㎝にも満たないはずだったのだ。
「仕方ない。少しだけ手紙に当てて、残った分はどうすればいいかほかの人に聞いてみよう」
記憶を探っても出しすぎた水の処理方法なんてものはなかったため、ほかの人に聞くしかなかったのだ。
こんにちはyoshikeiです。
今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。
次回の投稿は4月13日午前9時です。