01
俺は周りの騒がしさによって、意識が浮上していく。
目が覚めると多少の息苦しさと寒気を感じつつも、どこかで仰向けに寝ていることが分かった。
瞼の向こうから強い光を感じ、ギュッと目を閉じる。
―――君は誰だい?
頭の中でそう聞かれたように感じた。
俺は・・・
自分のことを考えると、まさに思考を読まれたかのように、また何かが聞こえてきた。
―――なるほど。自動車や化学が何かはわからないけど、素晴らしく僕たちの文明とは全く違う文明を持った世界からやってきたことは理解したよ。
何の話だか分からず、混乱してしまう。
―――なにはともあれ、君が悪人でなくてよかったよ。
なんのことだ?
さっぱりわからず、頭を抱えるばかりだった。
もっとも、体は一切動いていないのだが・・・
―――さて、手短に用件を話そう。
先ほどとはなんだか違う雰囲気に聞こえた。
―――落ち着いて聞いてくれ。まず初めにヤマグチ、君は元の世界で一度、
不思議な意識のようななにかはそこで間を置くと、
―――死んだ
衝撃的な事実を告げられた。
その時、頭の中にあったごちゃごちゃとした情報が、全てまとまっていくのを感じた。
それと同時に、全てを思い出す。
さらに、まとまった自分の情報とは違う、全く別の記憶があることにも気づいた。
―――記憶が定着したみたいだね。僕の記憶も読めるようになったみたいだし、これで安心だ。
俺の見たことも聞いたこともない記憶が、突然現れるのは不思議な感覚だったが、この世界の常識や必要な情報を確認していく。
―――流石にやることが早いね。目を通しておくようにと忠告しようと思っていたのに。
どうやら仕事を奪ってしまったようだ。
―――手間が省けただけだから、気にすることはない。
記憶の確認を終えると、大体のことが分かった。
さっきから話してる(実際は魔法によるものだが、内容が複雑なので便宜上そう呼ぶことにする)やつはこの世界では賢者と呼ばれ、魔法の研究により様々な功績を上げていた。
肉体的には人間と同じだが、魔法により不老不死となっていた。
不老不死に飽きたが、ただ死ぬのは面白くないから、という理由によって今まで実際に使用されたことのない机上の空論であった魔法を使い、異世界の死者の魂を自分の肉体に憑依、定着させた。
この世界では魔法が劇的に発展し、生活の一部として魔法が使われるようになっている。その反面、科学技術は全くと言っていいほど発展していない。せいぜい金属を魔法で加工し、アクセサリーとして使うくらいだ。よって、ゲームのような娯楽は多くない。
常識の部分は元の世界となんら変わりはない。作法に関しては中世ヨーロッパに近いとだけ言っておこう。俺自身もかじった程度なのでよくわからない。
こんな感じだった。
名前は?
―――あれ? 読み取れなかったかい? おかしいな、一番最初にわかるはずなんだけど…
数瞬の間が過ぎ、答えが返ってきた。
―――僕の名前はリュージュ・マギ・ハインだ。ちゃんと聞きとれたかい?
ああ、問題ない
―――それはよかった。ほかのみんなにはリュージュって呼ばれていたけど、この世を去るって伝えてあるから、元の名前か新しく自分でつけるといいよ。なにか問題があったら、僕の名前を出せば大抵のことは解決するはずだよ。魔力も同じだから、すぐに信用してもらえるはずだ。
なら、リュウキ・マギ・ハイン・ヤマモトって感じか?
―――リュウキ・ヤマモトで十分だと思うよ?
元とは言え自分の体の持ち主だ。それくらいはするさ
―――わざわざそこまでする必要もなかったのに
死者の魂を呼び寄せたってことは、本当なら死んでいたんだろ? ならそのお礼としてって感じだ。いやならやめるぞ?
―――悪事以外で自分の名前が残ることを嫌がる人なんていないさ。まあ、目立ちたくないって人なら結構いるけどね。
それならよかった。
―――あれ? もうこんな時間か
どうやら時間の制限のようなものがあったらしい。
―――本当はもっと話していたかったけど、仕方ない。お別れの時間だ
そうか…
―――そうだ。一つ言い忘れていたけど、僕の肉体のポテンシャルは君よりも高いよ。魔法を使って強化もしてあるからね
もしかして、人類の中でも高いほうってことか?
―――高いほうじゃなくて、高いんだよ。まあ、どう使うかは君次第だ。自由にこの世界で遊んでくれ
―――最後に君の世界みたいな面白い文明について知ることが出来てよかったよ。ありがとう
リュージュの声はそれっきり聞こえなかった。
こんにちはyoshikeiです。
今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。
次回は4月10日(月)午前9時に投稿します。