難関のコース
鋭角というコースがある。
これは、普通二種、大型二種免許を取得する者にとっては、鬼門と呼ぶにふさわしい教習所内の難関コースである。
暫く教習所内のコースを走っていると、春川教官が口を開いた。
「今田さん、運転を変わりましょう」
「はい…」
私は返事をして教習車を停めた。
春川教官は颯爽と助手席を降り運転席に乗り込む。
「これから、鋭角というコースに入ります」
「えいかく…」
これから何が始まるのか…私は、春川教官の運転を、その一挙手一投足を、固唾を呑んで見守った。
ゴクリ…
唾を飲み込む音が春川教官に聞こえたのか、その薄い唇が開いた。
「今田さん、鋭角は卒検にっ含まれっます」
もう、福島弁も気にならない。
「では、鋭角に入ります」
鋭角コースとは、簡単に言えばV字をした狭い道である。
道幅は車体より少し広く、普通免許を教習した人は分かると思うが、S字やクランクが、Vの字になったコースと言えばわかり易い。V字になった狭いコースを、3回までの切り返しで、無事教習車をコースから出さなければならない。
私を乗せた教習車が鋭角に入る。
「いいですか今田さん、まず右側から入るコースは車体を沿線に沿って進ませ、この位置でまず止ります」
「はいっ」
「この位置ですよ。その次にハンドルをめいっぱい左に切り、そのままゆっくり前に進むのです。いいですか?」
「はい…」
「あまり前に出すぎると脱輪します。はいっ!この位置です。この位置で止めて、ギアをバックに入れて安全確認っ!」
「はぁ…」
「車体をバックさせる時も、後輪に要注意っ。はい、この位置で止め、ハンドルをめいっぱい切り、前に出ます」
「おおっ!」
春川教官の眼鏡がキラリと光る。
「2回です。やりようによっては、2回で鋭角を出ることが出来るのです。やってごらんなさい」
「はい…」
私は自信なく返事をし、助手席を降り運転席に座った。
鋭角コースを何回か練習し、かろうじて3回の切り返しで車体を出すことが出来たが、2時間の技能教習終了後、
(あんな鋭角のような道が日本にあるのかなぁ…)
と、不思議に思った。