福島県白河市
福島県白河市は、福島県と栃木県との県境に位置する閑静な城下町である。この地はかつて戊辰戦争・白河口の戦いの舞台となった。奥州街道を北上する新政府軍(西軍)と、会津藩、仙台藩などを中心とする奥羽越列藩同盟(東軍)との戦では、多くの若者の血がこの地で流されたであろう。当時のままの地名が多く使われているこの白河市は、城下町といってふさわしい街並みが現在もまだ残っている。
東北自動車道を利用すると千葉からの所要時間はおよそ3時間。東北新幹線、新白河駅の駅前は近代的なホテルが建ち並び、およそ田舎町とはかけ離れた様相を呈している。
私は、合宿教習所というと短期間で卒業できるという観点から、つい、田舎の、信号もない道をひたすら教習車で走るだけだと思い込んでいた。しかし、それは大きな間違いであることを路上教習で思い知らされた。確かに信号だらけの大都会を走るわけではない。
しかし、
『信号の無い、田舎道ばかりで路上教習をするのではない』
ことだけは確かである。
入学手続きは午前10時30分から。
私は、10時に南湖自動車学校に無事到着。直ぐにも受付に行き、本日入校予定の合宿教習生であることを事務員に告げた。
「はい、お待ちしていました。えっと、今田さんですね。ではこちらにどうぞ」
私は緊張した。いよいよ始まると思うと、今までの教習所では感じたことのない緊張感が、私の身体を幾分硬直させた。
「はい…っ」
私は喉がカラカラになったせいか、掠れたような返事をしてしまった。
事務員は、書類の束を手に取り私の前に座り、卒業までのスケジュールや教習所内での食事の方法、合宿所での生活における順守事項等を、丁寧に分かりやすく説明してくれた。
その時に、私の宿泊する、
『シュプレーム』
の場所を聞いたが、右も左もわからない福島県白河市。
帰りの暗い道で、果たしてシュプレームに無事辿り着くことができるのか…
それだけが心配でならなかった。