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シュプレームのオバチャン

合宿教習生の食事は、朝食以外、教習所内の食堂で摂ることになる。夕方の食事は定食と決まっているが、昼食は定食以外にも麺類などがあり、日々のメニューはバラエティに富んでいる。

食堂内の食券機に、入校時に与えられたカードを入れて食券を購入する。

調理場には、優しいおばさん達の溢れる笑顔。

夕食の予約は、所定の用紙に時間帯の記してある欄にに自分の氏名を記入する。教習スケジュールを見て、空いている時間帯に氏名を記入することになる。

夕食の時間帯は17時から18時30分まで。教習の合間をぬっての食事となるが、その様な煩雑なシステムも食事の予約表の書き方も、分からなかったら全て調理場のおばさんが丁寧に教えてくれる。

このように、南湖自動車学校では、完璧な教習以外にも、教習生に対する温かな家庭的な環境をも兼ね備えており、すべての面に関して安心感を与えてくれるのだ。

教習生が、安心して、のびのびと教習に打ち込めるのは、そうした学校側の教習生に対する配慮が行き届いているからである。それも、意識してではない。自然なのである。

意識するということは、ある意味大切なことであると私は思う。

しかし、意識するということは、自然体ではないとも言える。

人間とは、感情を持った生き物である。


(ああ、この人は私に対して意識して接してくれているなぁ)


と、敏感に感じ取ることが出来る。

意識して他人の気持ちを慮ること。それは、生活していくうえで非常に大切なことであるが、その意識が、かえって仇にとなり、ぎこちなくなったり、気を使わせてしまう事もある。


南湖自動車学校の職員の教習生に対する配慮は、まさに自然体と言えた。それは、教習生が教官に対する接し方を見ても一目瞭然であった。また、見た限りの卒業生の全員が、感謝の念を持って南湖自動車学校に別れを告げる。中には涙を流す若者もいた。

そこには、意識という言葉はないように思えた。



初日の教習が終わり、クタクタになって食堂で夕食を食べていたら、数名の若者から声をかけられた。


「お疲れ様です」


私は咄嗟に、


「あっ、お疲れ様です」


と答え、


「兄さん達は、卒検はまだ先ですか?」


と尋ねてみた。


若者のひとりが笑いながら、


「ええ、来週なんですけど、なんとか合格したいと頑張っています」


と答えた。


私は、


「大変ですな、いや、私も今日入ったばかりですが、叱られてばかりでした」


と、苦笑し、


「これから、飯食ったら、宿舎の場所を探さなきゃなりません」


と嘆いたら、30代前半位と思わしき青年が、


「どこに宿泊するんですか?」


と聞いてきたので、シュプレームの名前を告げると、


「僕と一緒です。一緒に帰りましょう」


と、助け舟を出してくれた。



青年のあとを追って、夜の白河市を車で走った。

飲食店やショッピングモールが並ぶ町並みから逸れ国道4号線に入ると辺りが急に暗くなった。その国道を北上するにつれ田畑が多くなり、辺りはもの寂しい雰囲気になる。

10分ほど走ったか、青年がスピードを落とし、左にウインカーを出して建物の敷地内の駐車場に入った。私も後に続き、空いている場所に車を停めて、改めて、この建物が私の宿泊するシュプレームか。と、思った。

その建物は、洋館と言ってふさわしく、大きな時計台があり、軽井沢辺りの(軽井沢など行ったことはないが…)テニスコートのあるお洒落なペンションといった趣きがあった。


荷物を降ろし青年と中に入る。


「オバチャンっ、ただいまっ!」


と、大きな声で青年が奥の管理人室に声をかけた。


すると、管理人室と思しき部屋の中から、


「おかえり、お疲れさん」


と、笑みを浮かべながら、管理人らしきオバチャンが出てきた。


私は、


「これから、1週間ほどお世話になります今田です。よろしくお願いしますっ!」


と、気合を入れて挨拶した。


オバチャンは満面の笑みを浮かべ、


「遠いとこから、ご苦労さん」


と、労いの言葉をかけてくれた。


歳の頃は、私の母親くらいか。

私は、初対面のオバチャンに対して、何か、懐の大きさというか、深い温もりのようなものを感じ取った。


オバチャンが、館内の説明をしながら、


「今は、教習生が少ないから骨休みだ。年が明けたら、ここも、若いモンで溢れる。ワイワイガヤガヤ大変だ」


オバチャンは大変だと言っていたが、きっと、自分の息子や孫のような気持ちで多くの教習生を受け入れているのだろう。


大変だと言うオバチャンの横顔は、なんだか嬉しそうに見えた。



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