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第2章 護り石の再会(18)

「は……? お前、今何て言った……? 」


「俺の親はこういう仕事をしている人間でした。最近の軍の悲惨な財政事情を考えると、金になるものは少しでもあったほうがいい。富裕層が多い西側との力の差は歴然ですから。だから役に立つかどうかは別としても片手間にこの周辺に埋まっている鉱物の類いを調べていました。成果はまるでありませんでしたが」


 シンは淡々とそう説明を続けた。


「お前の父親は国の直属機関の人間だったのか? それなら、お前は西側の人間の中でも……」


 ジークが驚きの表情でそう言い掛けた言葉を、シンが遮った。


「今の俺とは関係の無い話です。利用できるものは利用できれば、と考えただけで他意はありません」


 ジークは何とも言えぬ表情で、シンの顔を見た。


「お前が、俺が今まで考えていた以上に変わり者だということだけは、よく分かった」


「……」


 剥き出しの壁に手を当て、ジークは更に言葉を続けた。


「それはいいが、下級兵と同じ部屋に何時までいるつもりだ? お前がいるべき場所じゃないだろう、ここは」


「俺には広過ぎるような空間は苦手なんですよ、このくらいが俺には一番ちょうど良い。それに個室なだけまだ恵まれていますから」


 シンはジークにそう言った。


「そんなもんか。俺はこんな薄暗いところは御免だがな。……そういえば、内部じゃお前が(さら)ってきた例のお姫様の噂で持ちきりのようだな」


「はぁ……。そうなんですか。連中も相当暇なことですね」


「まあ、そうも言ってやるな。あの砲撃以来、悲観的な感覚が蔓延し始めた今、現実逃避する為なら何でもいいんだろうさ。その(くだん)のご令嬢は、元帥閣下に食って掛かるような物言いまでしたそうだな。深窓のご令嬢らしい、大した娘だな。俺にはそんな血を見るような恐ろしい真似は出来んが。しかも兵舎で飯まで他の奴らと一緒に食べてると聞いた。……何というか、随分変わった姫君だな。いっそお前も参加してやったらどうだ。勿論、飯の話の方だぞ」


 茶化すようなジークの言葉に、呆れたようにシンが言葉を返す。


「大尉……それは俺が同席した場合、他の人間達がろくに喉に飯が通らなくなると知った上での妄言ですか。連中が気の毒になるな」


「お前がそういう冗談の類いも言える奴だと、末端まで知れ渡ったら、かなり印象も変わるだろうに。惜しい話だ。まぁ、お前は目立たないように自分からすればするだけ、更に目立つという稀な男だ。そうでなくては面白くないからな」


 うんうんとジークは、独りでに完結したように頷いた。


「こうして俺に話し掛けてくるのも、あのリオンを除けばあなたくらいのものだ。誰も俺には近付きたがらない。俺は余程異様に映るらしいですから」


「……それを体よく利用して、軍の上層部はお前一人に何もかもを負わせ過ぎている。特にここ最近は目に余る程にな……」


 ジークはシンの顔を暫くじっと見た後で、口を開いた。


「お前は軍を抜けろ。ここを出て行け」


 シンはジークの言葉に、僅かに眼を細めた。


「……正直言って驚きました。大尉から直接その言葉を聞く日が来ることになるとは、想像もしていませんでした」


「確かにこんなことを、上層部の連中が知れば俺は間違いなく銃殺ものだろうがな。だが、それでも何度でも言ってやる。ここを出ろ」


 そうしてジークは、更に言葉を続けた。


「近いうちに大規模な戦闘が、必ず再び起こる。その時引き合いに出されるのは確実にお前だ、今やお前は軍の切り札同然だ。そうなる前に抜けろ。軍に義理立てする必要もない。これは俺からお前に下す最後の命令だ」


 シンはジークの言葉に対して、深く息を吐き出してから口を開いた。


「俺は義理など感じていません。これは俺自身の意志です」


「お前がそう言うだろうことも、俺には充分過ぎるほど分かってはいるが、それでもあえて言ってやる。お前は生き残れ、殺してきた人間の数が、そのまま罪の全てになるというのであれば、俺もとうの昔に地獄行きだ。お前はその『護り』にかけて生き延びろ」


 ジークはそう言いながら、自らの人差し指でシンの胸元を指し示した。


「……あの流星群の晩以来、あなたがこれについて何か言ってくることはなかったが、あれから随分経ったがまだ覚えていたとは思わなかった」


 シンはそう言いながら、自らの首に掛けられた、古びた革紐の先に結わえられた硬い塊に、軍装の上から触れた。


 それを何度手放し、捨ててしまおうと思ったかしれない。


 持ち続けることに意味を見出せぬまま、それでもどうして手放すことが出来ずにいた。


「俺は戦闘で引き裂かれる人間が出ることに荷担するのは、もうご免だ。俺が唯一守りたかった女は西側の侵入者に殺され、そうして俺は此処へ来ることを自ら志願した。……だが、結局は何ひとつ得ることなど無かった。俺が殺した見知らぬ他人の数だけ、更にそこに憎しみが生まれ続ける。未来永劫その繰り返しのみ……。俺以上の血を浴びたお前は生き残れ。全てを記憶の中に留め、それを先の世まで持っていけ」


 シンはジークのその言葉を、沈黙したままじっと聞いていた。

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