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第2章 護り石の再会(2)

 ―その『異変』は突然だった。


 シンがヴィルヘルムの居室を後にし、丁度統合本部の出入り口付近まで差しかかった時のことだった。


 そこでシンは見覚えのある少年の面差しを残したままの、一人の人物の姿を認めた。


 思いがけずシンと僅かに目線が合った時、まだ容貌にあどけなさすら残るその少年は自ら視線を逸らし、ひどく怯え動揺したような表情を見せた。


 まだ年端もいかぬ、その少年と至近距離でそうして互いにすれ違いかけた時だった。


「……! 」


 瞬間的に、シンが少年兵の襟元を掴み、引きずり倒しながら、そのままその身体を床に叩きつけた。


 次の瞬間、強烈な閃光が貫き、鼓膜を破るような壮絶な音が響き渡った。


 もうもうと砂煙が立ち込め、一瞬にして視界の全てが奪われた時、少年は何が起きたか全く分からぬまま、這いつくばりながら無我夢中で反射的に頭を押さえ震えていた。


「……こんなところにまでか」


 少年兵は自分の身体を押さえ続けていた、青年の低い声を聞いた。


「カ……カルヴァート中尉……! 」


 少年がうわずった声と共に、思わず顔を上げた。


「俺を知っているらしいな。無事か? 」


 端的にシンが目の前の少年に訊いた。


 少年は思ってもいなかった人物からのその問い掛けに、戸惑いながらもおずおずと頷いた。


 たった今の突然の被弾に驚いた者達が、一斉にこちらへと集まってくる。


 周辺は騒然とし、怒号が鳴り響いていた。


 砂煙が風に流され、次第に周囲の様子が露わになるにつれ、目の前の壁が無残に(えぐ)れているのを目の当たりにし、少年はただ茫然と成すすべもなくそこを見つめた。


 強い火薬の臭気が、拡散しきらず未だ強く残り続けていた。


 シンはその中でひとり身軽に立ち上がると、鋭い眼差しを四方へとくまなく向けた。


 そして爆発ではなく外からの砲撃なのではないかと疑いながら、崩れず残った壁際に寄って外の様子を伺った。


「西側の砲撃か……? 」


 その時、ふたりの背後から一人の男の声がした。


「あなたの悪運の強さには感心させられるばかりですね」


「……」


 シンは背を向けたまま、唐突に背後から掛けられた声に振り返らずに答えた。


「俺はお前と話すことなど無い。去れ」


 シンの口調は冷ややかだった。


 少年が驚いてそちらに目をやると、そこには目つきの悪い痩せた男が立っていた。


 その男の顔にも、少年は見覚えがあった。


 確か、名はリオン・グレーデン、と。


「私を含めた此処にいる多くの者達と、あえて自ら不和を招くかのようなその態度……。更にクリューガー元帥閣下への不遜な振る舞い、それでいて懲罰対象にならないどころか、階級を上げ続けるのはあなたくらいのものでしょうな」


 目つきの悪い男リオンは、シンの胸の階級章を舐めるように見た。


「俺は階級に興味は無い。こんなものは欲しい人間に全てくれてやる」


 シンは吐き捨てるようにそう告げると、階級章に手をかけ、それを振り返りざまにリオンに向かって容赦ない力で投げつけた。


 階級章はそのままリオンの脇をかすめるように飛び、背後の壁にぶつかり、石の床を転がっていった。


 それがリオンにとっては余程予想外の行動だったのだろう。


 目を大きく見開き、それとはっきりと分かるほど表情を硬直させた。


「愚かな……」


「だから何だ? 」


 シンは口調と同様に冷ややかな眼差しを目の前の男に向けながら、そう言い放った。


 そうしてシンはリオンの存在を完全に無視し、その場を立ち去ろうとした。


 足を踏み出しかけたシンの肩を、リオンが掴んだ。


「離せ! 」


 シンは肩を掴んできた腕を力の限りに払いのけ、リオンはその衝撃で数歩、背後に後ず去った。


「軍の中において、西の異端者と称される、規律と秩序を乱すあなたを快く思わない人間は数多い。それがいずれ寿命を縮めることになりませんよう……」


 リオンが冷笑を浮かべながら言った。


「誇示するものが旧態依然の血筋しか無い、お前のような無能な人間を入れた軍に期待することなど俺には何も無い。戦力の足しにもならない奴に用は無い。何度もは言わん……消えろ」


 シンは再び冷え切った眼差しをリオンへと向け、その場を後にした。


 残されたリオンはわなわなと肩を震わせ、自らの腰の銃を強く握り締めながら、去ってゆくシンの背を見送った。

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