3人の面接官
面接会場に入ると、3人の男が待っていた。
「はじめまして、クライツ・ミューゲンスターくん」
真ん中の鼻の高い男が気さくに声をかけた。
「私の名前はピート・ロナルド・ラツィオ だ。君から見て右がハミュエル・デットーリ。左がリ・シャオピンだ」
ピートは金髪に眼鏡の長身細身、ハミュエルはシルバーの髪で、背丈こそ普通だが肩幅ががっちりしている。リ・シャオピンは黒髪に黄色い肌で背は小さい。ハミュエルだけが青い警察服で、後の二人はきちんとしたスーツを着ている。
外見からは少々傲慢そうに見えた3人だが、立ち上がって一礼をすると、クライツに席をすすめた。運転手の男との扱いの違いにクライツは面食らった。
「ああ、運転手の男はすまなかったね。君達はこれから自身を売ろうというだけで、まだあくまで一人の立派な人間なんだ。粗雑な扱いはするなと運転手にも言ってあるんだが、いかんせん雑な男で」
ピートはおしゃべりな男で、相手が知りたがっている情報は先にベラベラと喋る傾向があった。
「それとね、ここに来る人は勘違いしている人が多いけれど、君たちは人間じゃなくなるわけでも、価値がないという烙印を押されるわけでもないのだよ。ただ、買い手に自己を売り渡すだけだ。だから、買い手以外の人間とは対等な関係にある、わかるね」
学校で習った通りだし、今までも何度も聞いてきた言葉だ。クライツは全てを把握しているわけではないが頷いた。
「よろしい。では、はじめよう」
3人の男も席に着く。クライツの提出した書類を見て真っ先に反応したのはリ・シャオピンだった。
「あれ?あなたは命を売ろうというのかね?」
クライツは小さな声ではい、と言った。シャオピンはリオが言ったのと同じように、それがどれだけ悲惨なことかを説明した。シャオピンの説明は学校の先生より明瞭で分かりやすかった。
「もちろん例外はある。心理実験用に買われる場合などは殺されず衣食住も最低限保証してくれることもある。ただ、命を売った場合の1年後の生存率は3%程度と言われている」
クライツはまた頷いた。
「覚悟をしているんだね、OK。で、あなたは自分を売って得たお金はどうするんだい?他人の所有物になるわけだから、そのお金をあなた自身で使うことはできないよ」
「家族に…」
「了解。家族は…ええと…母と妹、あとは弟だね。妹と弟は二人とも12歳以下で財産の管理能力がないから、保護者の母へということになるが、いいかね?」
クライツはまたこくりと頷いた。
「一応聞くけど、買い手に条件はあるかい?」
「ありません」
そうクライツが応えると、シャオピンが頷き、次に右のハミュエルが話し始めた。
「えー、では、次に私から質問をさせてもらう。私は見ての通り警官なので、犯罪の可能性がないか質問する。不快な質問もあるかもしれないが、犯罪抑止のためだと思って答えて欲しい」
ハミュエルの声はがっちりとした外見に似合う太い声だった。
「まず、君は誰かに自身を売れと言われたり、そのようにほのめかされたりはしなかったかい?」
クライツは首を振る。
「では、学校で自身の売買については学習したかね?」
「はい」
「何にのっとって自分を売るんだい?」
「自由と自治と自己責任の名の下に」
「…プライバシーなので言いたくなければ言わなくても良いが、家族は君からもらった金を何に使う?」
「…妹の手術のため」
「いくら必要なんだい?金額によっては命まで売らなくても足りるかもしれないぞ」
「300万ルーン…」
「えらい高いな、一般成人男性の平均生涯賃金に近いぞ。なんの手術だい?」
ピートがハミュエルにそれ以上は…と目配せをした。
「わかってる、これが最後だ」ハミュエルが小声で応えた。
「えっと…心臓です」
「…ふむ、分かった。君の場合は売るものが大きいので、少し調査をさせてもらう。実際に君の買い手を見つけて家族にお金が入るまで1ヶ月ちょっとほどかかると思うが、大丈夫だね?」
クライツは最後にコクリと頷いた。妹の病気はそこまで急を要しない。
ハミュエルが手でOKのサインを作る。ピートが頷いた。
「では、最後に少し法的な話をしよう。まず君は自己の所有権を売るという契約の相手方を公募する。公募は2週間。その間に興味を持って君を買いたいと申し込んできた申込者の間で競りを行い、その中の最高金額を提示した者が君を落札する。落札された後は君は落札者の所有物だ。君を使って犯罪をさせるなど第三者に害をなす行為は認められないが、それ以外は全て君は所有者の命令に従う。ここまではいいかい?」
クライツはよく分からないながらもまた頷く。
「君の所有者となった者はその所有権を他者に譲渡できる。譲渡は我が国の民法の物の譲渡に関する項目を基本的に準用する。難しい言い方だけれど、つまり、君の所有者は君を誰かにあげることもできるし、所有者が亡くなったら相続した者に所有権が移る。まあそういったことだよ。多少の手続きはいるがね」
「ええ…」
「あと、所有者の元から脱走したなど、契約違反があった場合は、君の家族には君からもらったお金を君の所有者に返す責任が発生するよ。もちろん君は見つかり次第極刑だ」
「はい」
ここだけはクライツにもよくわかった。
「話は以上だ。最後にもう一度確認するんだが、君は本当の自分の命を売るんだね」
ピートの表情は厳しかった。
「はい」クライツは迷わず答えた。
「よかろう。では、調査と手続きが終わるまで、待っていなさい。この建物の中に寝泊まりする施設があるから、そこで寝泊まりするといい」
ピートのお喋りが終わったのを確認し、最後にシャオピンが言葉を発した。
「一応、君は買い手が決まるまでは自由な人間だから、自由に外出していいし、死ぬのが嫌になったら逃げてもいい。ただ、逃げたらここまでの交通費と安くない迷惑料が君及び保証人である家族に請求されるよ」
これで面接は終わった。クライツは言われた通りに施設で寝泊まりをし、3週間後にクライツの買い手の公募が始まった。