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売る人間

クライツの乗る車の荷台には、他にも自身を売る人で溢れていた。クライツはその中で一番若かったが、似たような年代の少年少女もいた。かと思うと、腰が曲がった老人もいた。ホロがついているため荷台は薄暗い。それが売られ行く人達の不安をより一層煽っているようだ。

 クライツが周囲を見回すと、1人の女性と目があった。歳はクライツより少し上、20を超えたくらいだろうか。決して美人ではないし、身なりもクライツほどではないが汚い。だが、その目にはどこか惹かれるものがあった。髪は黒く、女性にしては大きな体の持ち主だ。女性はクライツと目が合うと、近づいてきて声をかけた。

「あんた、自分を売ろうって割りに余裕があるね。名前は?」

「ミューゲンスター…」

 話すのが苦手なクライツは消えいるような声でファミリーネームを伝えた。

「なんだい、小さな声で。ま、こんな状況じゃ声も小さくなるか。あたしの名前はリオ・ブラーナ。リオって呼んで」

 サバサバとした物言いだった。元来の性格なのだろう。

「余裕があるってことは、期間が短いか大したものを売らないってことだね、ミューゲンスター」

 クライツはどうともとれない顔でおどおどとするだけだった。

「なんだい、トロそうなやつだなあ。そんなんじゃ高く買われないよ。ところで、ミューゲンスターって長くて読みにくいね。ファーストネームは?」

「クライツです…」

「クライツか、そのほうが呼びやすくていいや。で、あんたは何を売るんだい」

クライツはモゴモゴとしながらも答えた。

「全部…」

リオは顔をしかめた。

「全部って、それは奴隷になろうってことかい?」

クライツは喋りがうまくないため、なんと言っていいかわからなかった。ただ、なんとか伝えようとして言葉をひねり出した。

「奴隷でも…いいし…」

「まさかあんた、命を売ろうってんじゃないだろうね」

 リオの声はよく通るため、周囲の人間もクライツを見た。クライツは周囲の視線が集まって恥ずかしかったが、小さく頷いた。

「おお…」リオより先に、近くにいた老婆が声をあげた。

「わしみたいな年寄りならまだしも、あんたのような若い人が命を売るとはねえ。一体、なんのために」

「家族のため…貧乏だから…」

「貧乏って、ミューゲンスターだろ?昔は貴族だったファミリーネームじゃないか」リオが尋ねた。

 クライツは自分の家族が貧しくなった経緯を話せるほど頭が良くなかったし、話すのも苦手だった。

 その様子を感じ取ったリオはクライツからそれを聞き出すのを諦めた。それでも、クライツは頭を絞って自分の命を売る理由を答えた。

「俺…あんまり…出来が良くないから…。妹はできがいい」

「だからって…」

「妹…病気で…手術に大金がいる。俺、16歳になったから…やっと家族のためになれる」

 クライツに話せるのはこれが精一杯だった。クライツの境遇をよほど不憫に思ったのだろう。気がつくと、クライツの話に荷台の人間みんなが耳を傾けていた。

「まったく、確かに若い身体は頭が悪かろうが需要はあるよ。高く売れるだろう。ただ、そうやって命を売った奴がだいたいどうなるか知ってるか?死ぬだけなんてならまだいい。玩具かモルモットだよ。殺人欲求のある奴に買われて凄惨に殺されるか、人体実験の結果殺されちまうだけさ。まともな死に方は出来ない」

 クライツは分かっている、といった様子で頷いた。

 リオはため息をついた。

「そりゃそうか、自身の売買がどういうことかは義務教育でもしっかりやるもんな。悪かったな、覚悟ができてるのにもう一度脅かすようなことを言って」

 また荷台に重苦しい沈黙が流れた。みな自身のことについてまた考えてしまったのだ。クライツほどではないにせよ、みな理由を持ってここにいる。借金が積み重なって臓器を売る者、身体に障害があり働けないので娼婦になる者、クライツに声をかけた老婆は家族が食うに困ったため口減らしとして家事を行う奴隷になる予定であった。

「リオさんは…なぜ」

 クライツが尋ねた。

「あたし?私は女中としてよ。5年間ね。奴隷じゃなくて女中だから、あんまり不当な扱いはNG。正直この中じゃ恵まれてる方ね。でも、若い女ってだけで需要はあるのよ。もちろん買い手によっては危険もあるけど、うちの国では人間を買う際の契約の違反は罪が重いからね。何かあったらすぐ警察に駆け込むつもり」

 周囲はリオを羨むような目で見た。女中や使用人は奴隷と違い、賃金と休みがもらえるし、鎖でつないだりなどの身体的拘束などはされない。住み込みの仕事を探しに行くに近い。

 だが、クライツはそれが嘘であることを見抜いた。リオの握り込んだ拳がわずかに震えていたのだ。クライツは勉強も運動もできなかったが、嘘と真を見分けることは得意だった。ただ、それをどうしてか伝えるのが苦手だったので、それを指摘することはなかった。

「降りろ!」

 車が止まり、運転手の男が銃を持って荷台の人間に命令をした。街に着いたのである。

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