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 教室に戻ると、僕の机に早苗が座っていた。入り口近くに居た男子が、「滝、彼女さん来てるぞ」と笑った。周りにいた他数人も合わせて笑う。

「…………」

 すぐ近くにくると、早苗は弾けたように立ち上がった。

「今回のテストこそ、あんたに勝てたわね、あたし」

「そう」

 早苗が立ち上がって席が空いたので、僕が座った。

「英語は88だったけど、社会90で、数学は97点だったわ」

「そう、よかったね」

 机の中から文庫本を取り出して読もうとすると、上から早苗が邪魔をしてきた。

「ちょっと、あんたの点数教えてよ」

「なんで教えなきゃならないんだよ」

「あたしが教えたから」

「別に僕は教えてなんて頼んでないよ。NHKの集金かよ」

「ちょっと、どういう意味?」

 うるさいな。

「全部早苗に負けてますよ。ほら、もういったいった」

 しっしとハエを払うように早苗を追いやるジェスチャーをする。

「なにそれ、ホントのこと言ってよ。ずっとあたしより頭の良かったあんたにそう簡単に勝てるわけないでしょ」

 うざい。

「もう、子供みたいに競争して恥ずかしくないの? 僕は恥ずかしいし、そもそも早苗は僕の彼女でもないんだから、付き纏わないでよ」

「か、彼女とか関係ないでしょ? な、なに言ってるの」

 なぜどもる。

「いいから、お帰りくださいな」

 丁度その時、坂井さんが隣の席に戻って来たので、声をかけた。

「ねえ坂井さん。次の授業何だっけ?」

「え? えーっと、社会だけど」

 急に話しかけられた坂井さんは、びっくりしたように恐る恐る言った。反対に、無視された早苗は大きく鼻を鳴らした。

「あっそ。無視するならならもういいわよ。じゃあね、亮太!」

 荒い歩調でずかずか去っていく。「夫婦喧嘩かー?」と言う野次を飛ばした男子生徒が去り際の早苗に一瞥されてびびっている。恐れるくらいなら最初から言うなよ……


「よかったの? 前原さん何だか怒ってたみたいだよ」

 席に着いた坂井さんが横から言ってくる。僕は、机から本を取り出して読みながら答えた。

「いいんだ。早苗が怒るのはいつものことだよ」

 だけど、坂井さんは何だかどんな言葉を選んで良いか分からないみたいに、迷いがちに言った。

「そうじゃなくてさ。なんだか残念がってるっていうか」

「残念がってる?」

 思わず本から目を上げて坂井さんの方を向いてしまった。坂井さんは口調通り、何だか自信がなさそうな様子だった。

「うん。前原さん、がっかりしてるみたいだったっていうか」

 そうなのだろうか? 僕は早苗の方を見てなかったから分からなかったけれど、いつもの血の気の多い早苗だった気がする。

「いつも通りだよ、あれで」


 5時間目のテスト返しでは社会が89点で返って来た。やはり早苗には及ばない。僕はテストをくしゃりと丸めて、無造作に鞄に突っ込んだ。



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