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挨拶
よく晴れたとある春の日……。
「こんにちは」
その人は、私たち家族の前に正座した。
「はじめまして」
はじめましてなんかじゃないのに、その人はちらりとこちらを見て、爽やかな笑顔で素敵な声で言った。
「―です。このたびは―」
その瞬間、私は泣きそうになった。
「―馬鹿」
私は客間を飛び出して自分の部屋にこもった。
「お姉ちゃんの馬鹿……」
私はスマホのその人の写真を消そうとした。
大切な思い出が指先ひとつで消えていく。
私はそれに耐えられないから、だから1つも消せなかった。
その代わりに写真立てを倒した。