第4話 ~決断~
「どうしても今すぐ決めなきゃいけませんか?」
『ふむ。決断するのに時間が欲しいという事かな?』
「いえ。最終的にはアルテナシア様の管理する世界で生きようと
思ってます。ただ、生前?の俺はただの学生でしたから技術も
知識も大して持ってません。ましてや新しい世界の歴史も常識も
知らないんです」
そこまで一息に言い切った後、本題とも言える要望を纏める。
正直、自分に都合が良いだけで許されないかもしれない。
ダメならダメで開き直るしかないだろう。と覚悟を決めて告げた。
「しばらくこの世界で、新しい世界の勉強をさせて貰えませんか?」
これが考えた末に出した結論だった。
こういう所は決断できない日本人だな、と考えながら反応を待つ。
『いいですよ』
聞こえてきた声は予想を裏切って軽いものだった。
「…へ。いいんですか?」
『あなたが望んだのでしょう?』
「それはそうなんですけど、余りにも自分勝手すぎるお願いだと
分かってたので断られるかと…」
『あなたは娘のお気に入りのようですし、この世界で過ごすなら
娘の希望にも叶いますから』
『お兄ちゃんと一緒に居られるの?やったー!』
そんなやり取りで無謀かとも思われた要望が叶ってしまった。
こんなにすんなり行くとは正直思ってなかったので拍子抜けだ。
『それでは、あなたが生活できるようにしなくてはなりませんね。
あなたに力を渡しますから、私に触れて下さい』
言われたとおりにアルテナシア様の鼻先に手を触れると、冷やり
スベスベだった。思わず撫でてしまったのは仕方ないと思う。
『あら、本当に撫でるのが上手なんですね。気持ち良いですけど
ちょっと集中しなきゃいけないので大人しくしてて下さいね』
褒められたけどやんわりと怒られてしまった。
しかし後悔も反省もしてない。
撫でたい誘惑を堪えていると、温かい何かが触れている箇所を伝って
体内に流れ込んでくる感覚があった。
『はい、終わりましたよ』
またまた軽い感じで終わりを告げられたのだが、仮にも神様(代理)が
こんな軽くて良いんだろうか?
触れている手には先程の暖かさはなく、冷やりスベスベに戻っていた。
『力の説明をしますから撫でるの止めて下さいね』
「すみません」
また無意識のうちに撫でていたらしい。
手触りが良すぎるのが悪いと思う。
『今あなたに与えたのは「創造」する力です。この世界限定ですが
想像した物を創造できます』
「創造する力ですか…。なんでも創れるんですか?」
『そうですね、生物だけは創造できません。生物は神様にしか
創造が許されていないんです』
「なるほど。流石神様ですね」
『ええ、あんなのでも一応神様ですからね』
あんなの扱いされる神様って…
まあ、世界創るだけ創って丸投げするような神様はあんなのでいいのか。
『それでは、まず住居から創ってみましょう』
「具体的にはどうすれば良いんですか?」
『頭の中で具体的なイメージをして下さい。あとは「創造」と
唱えるだけで大丈夫です。失敗してもやり直しできますから
あまり気負わずにやってみましょう』
(家のイメージ…具体的にって難しいな)
どうにかイメージしようとするのだが、外観も内装もとなると
具体的にイメージするのが非常に難しい。
『自分の知っている物を想像するのが一番楽ですよ』
(それならなんとかなるかな)
思い描いたのは長年住み慣れた祖父宅。
純和風住宅で冬場の隙間風には参ったが、落ち着ける雰囲気だった。
外観を思い出し、玄関から入って各部屋を描いていく。
「…創造」
呟いた次の瞬間には目の前に祖父宅そのものが出来上がっていた。
「おお!すげー!」
余りにもびっくりしたのだが、それを表す言葉を持ち合わせていない。
トリックでもない魔法としか言いようのない不思議な現象に心踊った。
『外観は無事成功したようですね。それでは中の確認をしましょうか』
浮ついた気持ちでいた所に聞こえてきたのはそんな言葉だった。
目の前に現れた家と隣に佇むアルテナシア様を見比べてみる。
うん、どう見ても家の数倍の大きさだな。
中の確認などできようも無い。
「あの、アルテナシア様。中の確認は俺だけでも大丈夫かと…」
せっかく創った家を破壊されては堪らんと恐る恐る提言してみる。
『大丈夫ですよ。あなたの考えている事は分かってます。
そしてそれを解決する方法もね』
そう言うとアルテナシア様の体を光が覆った。
光は段々と小さくなり、あっという間に人型を取り始めた。
そうして光がおさまると、そこに居たのは見たこともない美女だった。
腰まで届こうかという長い髪はパールホワイトの不思議な色合いで
美しく、顔立ちはロシア系とでも言えば良いのか非常に整っている。
睫毛は長く、目はパッチリ、鼻筋はスッキリしていて少し薄めの唇。
スレンダーな体だが出る所は出ている、謂わばボン・キュッ・ボン
「ふぅ。人型をとるのも久しぶりですね」
その姿と言葉に哲也は何度目かも分からない驚きを隠せなかった。