表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

第3話 ~俺死んでた~

『まだ寝てるのかな?』

誰かの声が聞こえる。

『そろそろ起きるはずよ』

いや、違う。耳から聞こえるのではなくて頭の中に直接響いている感じだろうか。

まるで夢を見ている様な不思議な気分に目を開けた。

目に飛び込んできたのは、いつもの見慣れた天井ではなく真っ白な空間だった。


「…ここは?」

『目が覚めましたか?』

『起きた~?』

またもや聞こえてきた声?に周りを見渡した哲也は一点で目を止めた。

何度も瞬きし、目を擦り、まだ夢を見ているのかと頬を抓ると痛みを感じた。

「ドラ…ゴン?」

哲也の目に映るのは、パールホワイトの鱗を持つ所謂西洋竜だった。

真っ白な空間で比較対象が無い為、はっきりとは分からないが物凄い大きさだ。

『そうですね。私はあなたがた人間が言うドラゴンという存在です。

 ですが、あなたに危害を加えるつもりはありませんから安心して下さい』


そうは言われても普通なら恐怖を感じそうなものだ。

踏み潰されれば圧死するだろうし、あの大きな口なら人間など一飲みだろう。

それなのに何故か不思議と恐怖は感じなかった。

聞こえてきた声が優しそうだったから。

危害を加えないと言われたから。

意思疎通が出来るようだったから。

考えれば理由はいくつでも出てくるのだろうが、何処か理屈ではない部分で

相手の言葉を信用している自分が居た。


『私は時と空間を司る竜。名前をアルテナシアと言います。

 竜なのですが、ちょっとした神様もしていたりします』

「はぁ…神様ですか」

突拍子もない神様発言に理解が追いつかない。

だが、そんな事はお構いなしに言葉が続けられる。

『はい。端的に言いますと、あなたは死にました。そしてその魂を私が

 この世界に呼び寄せたのです』

「え?俺死ん…」


突然の爆弾発言に動揺した哲也は必死に記憶を辿る。

いつもの様に買い物を終えた帰り道、バスに乗っていたら突然の衝撃。

それから落下していく感覚。そして体に受けた強い痛みの記憶。

慌てて体を確かめるが、傷一つ無く痛みも無い。

自分の記憶と現在の体との矛盾に納得せざるを得なかった。


『どうやら理解したようですね。話を続けますが、通常肉体が死ぬと魂は

 天界へと上り輪廻の輪に加わる事になります。ですが娘の希望があった

 ので、魂をこの世界に連れてきて仮初の肉体を与えている状態です』

「娘の希望?」

『この子の事ですよ』

疑問を呟くと、ドラゴンは哲也の目の前まで首を伸ばしてきた。

視界一杯に広がる大きな頭の上から、チョロチョロと降りてきたのは毎日

出会っていた白いトカゲだった。


『お兄ちゃん、私の事わかる?』

「あ、ああ。バス停でいつも会ってたトカゲだよな?」

『むぅ。トカゲじゃなくてドラゴンだもんっ!』

小さな口を目一杯大きく広げて威嚇するような様は相変わらず可愛らしい。

「そっか。ドラゴンだったのかー。ごめんな」

酷く驚きながらも、日常に戻ったかのようでつい頭を撫でてしまったが、

白いトカゲこと娘ドラゴンは気持ち良さそうに目を閉じてされるがままだった。


『この子が「お兄ちゃんのご飯もっと食べたい。それともっと撫でて欲しい」

 なんて言うもんですから、連れてきてしまったのです』

『だってお兄ちゃんのご飯美味しいんだよ!?撫でるのもすっごく上手なの!』

『はいはい。あなたは本当にこの人が好きなのね』

『うんっ!』

なんだろう、このほのぼの空間は…。

素直な好意を寄せられると照れてしまう。


「えっと…それで俺はこれからどうなるんでしょうか?」

『あら、ごめんなさい。そうですね、あなたには三つの選択肢があります。

 一つ目は仮初の肉体を破棄して天界へ上り輪廻の輪に加わる事。

 二つ目はこの世界で私達と共にほぼ永遠に生きる事。

 三つ目は私の管理する世界に降りて残りの生を全うする事。

 娘の我侭で連れてきた訳ですから、どれを選んでも構いません』

突然突きつけられた選択肢は哲也を混乱させるものだった。

内容が突飛すぎて想像すら難しい状態だった。


「あの…質問しても良いですか?」

『ええ、構いませんよ』

「一つ目を選んだ場合、もう一度死ぬって事ですか?」

『そうですね。でも私が作った肉体を破棄するだけですから痛みを感じる

 事はありませんので安心して下さい』

それは安心して良いものなのだろうか…。

「わ、わかりました。では二つ目を選んだ場合の、ほぼ永遠に生きるという

 のはどういった事なんでしょう?」

『言葉のとおりなのですが、先ほども言ったように今のあなたの体は私が

 作ったものです。そしてこの世界も私が作りました。ですから、この世界に

 いる限り、肉体的な死は訪れません。私が死ねば話は別ですが、恐らく

 千年単位での生となりますね』

正直スケールが大きすぎて付いていけない。

不老不死のような状態になるのだろうか?

しかし、この真っ白な空間だと精神に異常をきたしそうな…。

「では、三つ目のあなたが管理する世界とはどういった世界でしょう?」

『そうですね。昔神様が作られた世界なのですが、飽きてしまったのか

 「あとの管理よろしく~」と言われて丸投げされたのです。

 仕方がないので私が管理しているのですが、面倒なので出来るだけ諍いの

 無いように定期的に干渉するようにしています。

 そういう訳ですので、人間一人ぐらい送り込むのは問題ありません』

世界作るだけ作って放置とか、神様適当すぎるだろ…。


しかし参ったな。どれを選んでも後悔しそうな気がする。

せっかく生き返った?のに、また死ぬのは真っ平御免だ。

何もない世界で生きるというのも恐ろしい。

かと言って、何も知らない世界に放り出されるのも勘弁願いたい。

どうしたものか…としばらく考えていたが、一つの考えが閃いた。

それが可能かどうかもわからないし、ただの時間稼ぎかもしれない。

ただ、少なくとも一番マシな答えだと思うのだ。


意を決して哲也は口を開く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ