表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

第2話 ~プロローグ②~

(流石にいないか)

走り去るバスの音を聞きながら、夕焼けに染まる山肌を見るが

朝方見かけた白いトカゲはいなかった。

いないものは仕方ないと気分を切り替えて、指に食い込む

買い物袋を手にして家路を辿る。


「ただいまー」

玄関を開け声をかけるも返事はない。

どうやら祖父は外出しているようだ。

いつもの如く、近所の爺様と碁でも打ってるのだろう。

部屋に鞄を置き、制服を着替えると台所にむかう。

買ってきた食材を冷蔵庫にしまい込み夕食の準備を始めた。


しばらくすると玄関の開く音が聞こえたので祖父が帰って来た

のだろう。

「哲也、今日は筑前煮を貰ってきたぞ」

そう言いながら台所に入ってきた祖父の手には、宣言どおりの

筑前煮が入った皿があった。

「じいちゃん、また相沢さんとこ?いつも貰うばっかりで気が

 ひけるんだけど…」

「いつも言っておるだろう?勝負に勝ったから貰ったまでよ」

そう言って呵々大笑しながら出て行く祖父を「仕方ないなー」

と言う表情で見送る哲也だった。


「「いただきます」」

揃った挨拶で始まる二人だけの夕食は、貰い物の筑前煮が増えた

おかげで、いつもより少しだけ贅沢な食卓だった。

「相変わらず相沢さんの奥さんは料理上手だね」

「うむ。あやつには勿体無いぐらいだな」

そんな取り留めのない話をしながら夕食は続く。


哲也はそんな中で今朝方の不思議な白いトカゲについて祖父に

聞いてみようと思った。

「じいちゃん、今朝バス停で白いトカゲを見かけたんだけど、

 そんなトカゲ知ってる?」

「白いトカゲか…」

「うん。ちょっと光沢がかって凄い綺麗だった」

「白いトカゲというのは見たことも聞いたことも無いが、昔から

 白蛇なんかは神の化身だとか言われておるの。もしかしたら

 その白いトカゲも神に関わる者かもしれんな」

「神様の化身かー。神々しい感じはしなかったけど、すっごく

 愛嬌のある可愛い奴だったよ」

「ふむ。次見かけたら儂が100まで生きられるようにお願い

 しといてくれ」

「じいちゃんは、ほっといても100まで生きるよ…」

調子の良い祖父をあしらいながら夕食を終えた。

後片付けをしながら、「明日も会えるかな?」と考えながら

いつもの様に特にする事もなく夜は更けていった。


翌日、いつもの様にバス停に向かうと昨日出会った白いトカゲ

がいないか探す哲也の姿があった。

すると数分の時を置いて、目的の白いトカゲが現れたのだ。

「昨日は驚いて悪かったな。じいちゃんが言ってたけどお前は

 神様の関係者か?」

語りかける哲也だが、勿論返事などない。

白いトカゲは昨日と変わらず逃げる素振りは見せず、こちらを

見つめている。

哲也は弁当箱を取り出し、少量のご飯と昨日の残り物である

筑前煮から鶏肉を取り出してトカゲの前に置いた。

「まあ、神様云々はどうでもいいか。今日は相沢さん家特製の

 筑前煮をお裾分けだ。美味しいぞ?」

すると昨日のように置かれたご飯と哲也を見比べるように何度か

首を動かすと、素早い動きで鶏肉を咥え藪の中に消えていった。

しばらくすると、もう一度現れて今度はご飯を咥えて同様に

藪の中に消えていく。

警戒心の強い動物さながらの動きに哲也は思わず微笑み、今日も

いい気分で一日をスタートする事ができた。


翌日以降も白いトカゲは現れるようになった。

毎回弁当の中身を分け与えるのだが、その様は毎回哲也を少し

だけいい気分にしてくれる。

数日後、ついに目の前でご飯を食べてくれるようになった。

小さい口には少し大きいご飯の塊を、一生懸命に飲み込もうと

する様はいつも以上に愛らしく哲也を癒した。

警戒心が解けたのかと、触ろうとしたら逃げられた。

その日は嬉しいけど悲しいという微妙な気持ちを味あわせた。


更に数日経つと、ついに触ることを許された。

その肌触りはスベスベとしてとても心地よいものだった。

その日の哲也はいつも以上にいい気分で過ごす事ができた。


ある日の帰り道、いつもの定位置である最後部の真ん中に座り

バスに揺られていた哲也は、「明日はアイツに何をやろうか」

などと考えていた。

少しニヤつきながら虚空を眺める男子高校生は不気味なものだが

車内には哲也一人なので問題はない。


そんな哲也を衝撃が襲った。思わず座席から投げ出される。

一体何が起こったのか?などと考える余裕もなく、上下左右の

感覚が狂ったように、バス前方に向かって落ちていく感覚。

哲也は知る由もなかったが、実はこの時運転手は心筋梗塞を

起こし、バスは制御不能となっていた。

そしてガードレールを突き破り数十メートルの高さがある崖から

落下していたのだ。

数瞬後に、強い衝撃が哲也を襲い意識を手放した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ