第拾話 無抵抗の真相
今回もどうぞよろしくお願いします。
俺こと焔新太は、油断していた。敵が一人、更に大した能力ではないと踏んでいたのだが・・・。
違った。あの後すぐに、析華さんが叫んだ。
「二人とも!こいつの仲間は近くに居るわ!周りに気をつけて!」
「気づかれたか・・・チッ・・・だが、もう遅い!」
気づいたときには、発斗の裏に敵が回り込むのが見えた。
「発斗ぉ!」
あいつは腹部を貫かれた。内容物が漏れてきている。放っておいたら死ぬだろう。
俺の裏にも敵が居たことを、気付けなかった。
俺の左肩口から血が噴き出す。腕の感覚が無くなってくる。
「・・・・!っぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
思わぬ奇襲に、俺は絶叫した。だが、ここで諦める俺ではない。発斗との違いを、析華さんの目に焼き付けてやる。
俺は、右手の炎で、傷口を焼いた。
「うぐ・・ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」やっぱり効くわ。俺の炎。
「止血しただと!?」俺は、怯んでいる後ろの敵をなぎ倒すと、返す拳で「痛み分け」をぶん殴った。やった。コレで一人。
だが、違った。ダメージを負ったのは、俺の方だった。
突如右頬に衝撃が走り、飛ばされる。その先に、あいつが居た。
俺の右腿を貫く。痛い。痛い痛い痛い痛い。
でも。析華さんが居る。俺が守らなくちゃ。俺が。
「守るんだ!」体から炎が吹きだした。熱とショックで後ろの一人が倒れる。
「おいおい頑張るじゃねーか。ほら。もっと楽しませてみろよォ!」
「その前に、俺に何をしたぁ!?教えて欲しいんだけど!」
腿の傷口を焼きながら訊いた。
「・・・まあ、いいだろ。俺の痛み分けは、敵にダメージを返却する能力だ。さっきお前が焼いたのが貫通、殴り倒したのが切り裂きだ。これくらいでいいか?」
「・・・分かったよ。今の俺じゃ絶対お前を倒せないって事がな」悔しいが、今の体力とダメージじゃ、限界がある。
「ふむ。馬鹿って程でもなさそうだ。なら取引だ」
「取引?」
「お前と後ろの二人にはこれから手を出さない。だから印を全部渡せ」
「法外だな。でも・・・応じるしか道はなさそうだ」
俺は印を全部渡した。
「おお、二つは持っていると思っていたが、まさか三つとは。嬉しい誤算だね」
「俺等にとっちゃ誤算も何も損しかしてないがな」
「まあいいだろ。俺等の作戦勝ちって事で」
そう言ってあいつは、二人を一本の腕で引きずっていった。
そのまま倒れ込むと、析華さんが駆け寄ってきた。
「ありがとう。見直しちゃった」
「そこは冗談でも『惚れ直した』って言ってくださいよ」
「それはない、と言いたいところだけど、すこしはあるかもね。まあ、ありがとう」
彼女の笑顔を久々に、もしかして初めて見たかも知れない。
「俺等。負けたんですね」
「まあいいじゃない。命があっただけマシよ」
「それもそうですね。発斗は?」
「一応処置はしておいた。けど、病院での治療が必要だわ」
「・・・良かった・・・」
俺は痛みも忘れて一時の幸せに浸りながら、ゆっくりと意識を失っていった。
ありがとうございました。