天使のお話。
おや。君かい。随分早かったね。
あなたは誰…?って…君の眼は見えているのかい?
僕は天使。ホラ、この真っ白な羽根を見てごらんよ。きれいだろう?
さて、せっかくだからお話をしてあげよう。
悲しいお話だからハンカチの用意をするんだよ?ティッシュも忘れずに。後、あったらで良いけれど目薬もあればいいな。泣き虫な君にはね。
じゃあ始めるよ。
むかし、むかし。獣と人がまだお話出来た頃の話だ。
…君、獣って分かる?
獣っていうのはね、人と違って毛むくじゃらで、四つの足で歩いて、鋭い爪や牙を持った生き物の事だよ。
まあ、ライオンとかトラみたいな感じかな。
そんな獣達は怒っていた。
「なんで人はわれらのように力も無いのにあんなにいばっているのだ!!」
獣とは別に人も怒っていたんだ。
「なんで獣は私たちのように賢くないのにいばっているのだ!!」
…僕からしたらどっちもどっちだと思うけどね。
だって獣は火をつける事が出来ないだろう?でも人も獣のように早く走る事はできない。
…君にも30秒だけ考える時間をあげよう。よーいスタート!
…はい30秒ー。答えは後で聞くからね。
どんどんいくよ?
そんな獣と人。まあ仲良くなんて出来ないよね。
遂にケンカが起こってしまったんだ。
獣は爪と牙で人を傷つけて、人は、剣や槍…武器で獣を傷付けた。
でも決着はつかなかった。戦いは続いたんだ。
世界は人と獣が流した血と涙で湿ってしまった。
悲しいね。
そんな世界で泣いている一人の女の子がいたんだ。
名前は『ハク』といって…お父さんがオオカミ。お母さんが人の、小さな女の子。
見た目は人なんだけどその頭にはふさふさの耳と、お尻にもふさふさのしっぽがついていたんだ。
…え?人と獣が結婚できるのかって?
むかしむかしの話だからできたんじゃない?僕に聞かないでよ。
ハクのお父さんとお母さんはとても仲良しだったんだ。
だから人と獣がケンカするのをどうしても止めたかった。
でもダメだった。
ハクのお父さんは人を守ろうとしたバツとして。
ハクのお母さんは獣を守ろうとしたバツとして。
それぞれの仲間に殺されてしまったんだ。
ああ…。そんな顔をしないで。僕だって悲しいよ。
ハクは泣いた。のどが壊れてしまうんじゃないかってほど。
声と涙が出なくなるまで泣いたんだ。
そして決めた。
獣と人のケンカを止めるって。
でも、ハクは獣と人の子。
獣と人、どちらからも嫌われてしまったんだ。
それでもハクは諦めなかった。
獣と人がケンカをしている所にいって、「やめて」って何回も言った。
でもね。
獣の牙。人の武器。
それぞれがハクを傷付けて、殺してしまったんだ。
…泣かないで。これからが良いところなんだ。ホラ、ハンカチで涙を拭いて。
小さな少女…ハクが犠牲になったのを見て、空の上の神さまは悲しくなった。
耐えきれなくなった神さまは、空から降りてきて地上に立ったんだ。
そして、冷たくなったハクを抱き締めて言った。
「…争いなどやめなさい。互いが傷つくだけだ。争いが続けば、この世界は滅びてしまう。そして…君たちも心を失ってしまう。」
神さまの言葉に目が覚めた獣と人は、ハクの死に涙を流した。
自分達が少女の命を奪ってしまったんだと。
そんな獣と人を見て神さまは悲しそうに微笑んだ。
そしてハクを連れて空に帰っていったんだ。
地上に残された獣と人はケンカをやめて、仲良く暮らしたんだってさ。
で、神様は毎年冬に「雪」という真っ白なものを空から降らす事に決めたんだ。
ハクの事を忘れないように、毎年毎年ふらせるんだって。
ハクの耳とシッポは雪みたいにふわふわしていたからね。
どうだい?いい話だっただろう?
じゃあさっきの答えを聞くよ?
獣と人…どっちが偉い?
偉いも偉くないもない…みんな同じ命なんだから…か。
…はは。君ならそう言ってくれるって信じてたよ。
さて、じゃあそろそろ神さまの所に行こうか。お母さんとお父さんが待ってるよ。
心優しい君の幸せを僕は祈ってる。
行こう。ハク。