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六話 再起動

 風が吹き荒ぶ中、ついに俺はたどり着いた。

 ノースレンド。多くの魔物に溢れ、その原因ともされる魔王。広大な大地でついに魔王の居場所まで俺は、いや俺たちはやってきた。

 俺のすぐ後ろには、狂戦士「ケチャパチャン」、変態紳士「ユーキー」、ひきこもり「リューヘー」がいる。いやひきこもりに関してはさらに20mほど後ろのダンボールにこもっている。相変わらずかわらないやつだった。

 だが、俺は気にしない。これまでにも色々あったのだから。あの存在は無視するのが最善だと。


 ケチャパチャンは最後の戦闘前に業務用のケチャップを飲んでいる。平然と手を止めることなく。見てるこっちが気持ち悪くなってくる。このケチャップは俺持ちである。金があまりにも必要でスーパーに盗みに入ろうかとさえ本気で考えた。やっていたら今頃は牢獄だろう。


 ユーキーは相変わらず全裸。いや最初は脱ぐたび服を購入していたのだ。安いうちは良かったが、装備が強くなるたびに装備を買いなおすのも馬鹿馬鹿しいと思い、なら最初から全裸でいいじゃんとあっけなく決まった。ユーキーは誰よりも異質かもしれない。服が脱げるのはまだ分かる。まったく分かりたくないがそれでも常識の範疇だ。たぶん。だが服が消えるのがおかしい。本人も気がつかないうちにどこかに消えているのだ。魔法か何かだと睨んでいるが正直どうでもいい。

 こっちに普通の町が無くてよかったと俺は思う。町に入るたび服を着せるのもめんどくさいし、だからといって服を着せずに町に入るのは、常識の話ではなく、俺が変態と仲間だと思われたくないからだ。

 

 ここまでの道中は常に死線だらけだった。なにせこっちにまともに戦えるのはケチャパチャンぐらいだ。俺らが足を引っ張るくらいで役に立っていなかった。

 まぁその俺も勇者の剣をレンタルし、魔物をオーバーキルできるくらいの実力を得たのだ。

 レンタル料金? そんなこと聞かないでくれ。俺のあれが犠牲になったのだから。今でも後悔してる。泣きたい。

 実際のところ、魔物を倒せば金が手に入ると思っていたんだ。なのに倒せど倒せど、実感の湧かない経験値はあるかもしれないが金は一向に手に入らない。素材が手に入っても人がいないんじゃ売ることもできない。

 魔王の宝とか、その後テレビの出演料とかのギャラで返すしかないだろうな。


 俺がそうつぶやいていると隣で、この寒い中よくもまあ裸で堂々としていられるユーキーが近づいてきた。やめてくれ。

「皮算用は先に魔王を倒してからの方がいいのではありませんか」

 そう言ってユーキーは目の前を指差す。

 そこに、俺らの話や、ここまでの回想をずっと聞いていた魔王がいた。よくもまあ暴れずに待っていてくれたもんだ。


 まさに魔王というに相応しい禍々しさの姿――竜。

「魔王も暇でな。たまに勇者が着たと思えばすぐ殺そうとするし。こうしてここまでの経緯なんかきけば暇つぶしくらいにはなるだろう」

 ずいぶんと余裕をみせてくれるが、もう遅い。

 俺らは何が何でも魔王を倒さなければならない。わざわざのんびり話をしていたのは時間稼ぎに過ぎない。

 こそこそとあたりで動いているダンボールが準備完了のサインを出した。


「そろそろ戦おうか。ここで終止符を打つ!」

「ほざけ勇者。今回も返り討ちにしてくれる」

「よしいくぞ。みんな離れろ」

 全力で離れ、もっていたスイッチを押す。


 カチリ。


 その瞬間魔王の周囲百メートルが大爆発を起こした。余波の爆風で俺らも立っていられないがずいぶんと離れたので問題なかった。それでもとんでもない音と熱量が伝わってくる。無事でいられるはずが無い。

「GRRRRR」

「まだ生きていたか。よしとどめをくれてやれ」

 ケチャパチャンが常人の限界を超えた速度で魔王に迫り、屠っていく。魔王はついていくことすらできない。視界の隅ではやはりダンボールが動いている。つまりこちらに分があると言うことだ。

 負けそうになったら間違いなく逃げるからな。


 魔王は体力尽きたのか、地に伏せる。だがここで終わらない。変身とかされたら厄介だからな。

 落とし穴を掘っといたのだ。方法は分からないがあのひきこもりがやったのだから大丈夫だろう。そして魔王は穴に落下していく。相当深い。

 俺らは一斉に爆弾を大量に投げ捨てる。俺にも母親の血が流れているのかもしれない。鬼畜村の血が。

 勝ったやつが正義。アイテムだけで勝とうがいいのさ。あれだ、頭脳プレイというやつだ。


 こうして俺らは紆余曲折を経て魔王を倒すことに成功した。

 魔王を倒した俺たちを向かえたのは盛大なパレードだった。王自らが俺達を出迎え、これまでの業績を褒め称えている。さらに新聞社が俺たちに殺到し伝説を根掘り葉掘り聞いてくる。それらには脚色しつつ俺の偉大さを説明してやった。

 母親は俺に崇拝してくるがどうでもいい。他にも役所のオッサンやギルドの店員も今までの非礼を詫びてくる始末。

 俺はまさに英雄扱いだった。勇者の剣をレンタルどころか買い取った頃、王国の姫との婚約まですることになった。

 ちなみに。ユーキーはなにやら広い土地を借りて、そこでは全裸でいなければいけないというルールを作ったそうだ。幸せだろう。捕まる心配はないだろう。ただ他に人がいるか定かではない。

 ケチャパチャンはケチャップの工場長になったとか。仕事よりも味見専門らしいが、彼らしいだろう。

 リューヘーという名のひきこもりは、当然の如くひきこもっているだろう。だが場所は分からない。そもそも魔王を倒した時点でいつの間にかいなくなっていたのだから。どうでもいいな。

 まさに俺は幸せ最前線だった。これが噂に聞くリア充らしい。俺以外にいないであろうこの愉悦。

 こうして俺の勇者冒険は締めくくられ王国の平和と共に幸せな日々が続いていくのであった。


記録

戦闘関連

 戦闘回数 通算1750回

 最多使用 爆弾

 最多戦闘者 ケチャパチャン(1700回)

 最小戦闘者 シュン・リューヘー(5回)

 コンボ回数 計測不能(爆弾+ケチャパチャン)


その他

 最終資金 7万yen

 最多使用 ケチャップ・ダンボール・ガムテープ

 疎まれ度 48パーセント

 勇者度  7パーセント

 非貢献者 リューヘー


     END


「……リア充……ばん、ざい……はっ! ここは一体?」

「ようやく起きてくれたか?」

「ユーキーか。なぜかずいぶんと長い夢を見ていた気がする」

 何を言っているんだと怪訝な顔をしたユーキー。

「気絶していたのは一瞬だぞ。落とし穴に落とした魔王に爆弾を投げたのはいいが、その余波でお前が気絶したんだ。だが魔王もさすがに二度の爆弾攻撃で絶命しただろう」


 俺はリア充になったような気がしたが気のせいらしい。それももうすぐのことだろう。それよりもユーキーがおかしくないか?

「どうしたんだ? おまえはもっと慇懃無礼いんぎんぶれい鬱陶うっとうしい感じのキャラだろう。そのいかにも相棒ですづらはやめておけ」

「頭でも打っておかしくなったのか? 俺は昔からこんなもんだろう」

 ユーキーの最もおかしい箇所に気がついた。ユーキーの存在意義といってもいい。

 そう全裸じゃないんだ。普通に甲冑とかなんだよ。その下が裸ではなく、裸甲冑ではなく服を着ている。

「ユーキー服はどうしたんだ? どうせ服は無くなるのに全裸じゃなくていいのか?」

「オイ、本当におかしいぞ。外で全裸になる奴かいるわけないだろう。ましてや魔王に挑むんだぞ。狂気の沙汰としか思えないだろう?」

 まるで俺がおかしいみたいだが、それこそがいつものユーキーだろう。たしかに普通の人がいきなり全裸になるはずが無いし、言っていることはまったくもって正しいのだが、それをユーキー、お前が言ってはいけないだろ。


「GRRRRR」

「ち、まだ生きてやがったか」

「そういえば、ケチャパチャンとダンボールは」

「なに言ってやがんだ? ここには俺とおまえと、それから魔王しかいねーだろ」

 俺は頭が混乱しそうになった。これまで四人で、冒険してきたはずなのに。このユーキーが偽者なのだろうか?

 確かに怪しい。いや普通に考えればいい奴だし。俺が本当に頭を打ったのだろうか。


「おい、早く避けろー!!」

 考え事をしていた俺は、想像よりもダメージを与えることができなかった魔王がこちらに来るのを見逃してしまっていた。

 急いで回避行動に移るが、魔王の速度に敵うはずも無く、頑強な爪で心臓を突き破られ絶命させられた。



「……うわ!」

 白いシーツ。白い壁。白い床。消毒液の匂い。どうやらここは病院らしい。

 俺は前進包帯まみれでまともに動けそうに無かった。

「お目覚めですか?」

 すぐ近くのパイプ椅子に座っていた男はユーキーだった。さすがに病院だから自重したのかコートを羽織っている。羽織っているだけで着てはいないしその下は当然の如く全裸だった。


「ユーキー、魔王との戦いはどうなったんだ?」

「妄想はほどほどにしておいてください。魔王も何もあなたは普通の雑魚魔物にやられて瀕死の重体だったんですから」

 笑いながら言うなよ。しかしどういうことだ? たしかに魔王と戦っていたはずだが。

 ユーキーにそれを話してみた。俺たちの伝説の数々を。

「妄想でないとしたら、それは」

「それは?」

「夢でしょう」


 ザックリだった。かなりリアルなだけに信じがたいが、あまりにもご都合主義だったのは事実だろう。あのひきこもりやケチャパチャンが活躍しすぎだと思う。現実的に考えればもっと俺の出番があるはずなんだ。

 だから俺は夢だと思いのほか早く受け入れることができた。シミュレーションと思えば都合がいい。今のうちに色々と準備ができるからな。

「おっと、ではそろそろお暇いたしましょう」

 いまの、おっとは何だ?

 ユーキーは足早に帰っていった。急いでいるようにも見えたが気のせいだろうか。


 夢。魔王を倒した夢。いや、これは未来視という奴じゃないのか? 俺の邪気眼が開花したのか?

 コツコツ。コツコツ。

 ドン!

「シュン、あんた起きたなら連絡ぐらいよこしなさいよ」

 扉を壊しかねない勢いであけたのは、母親だった。今の俺にとって見れば魔王よりも恐ろしい存在だ。なにせ連絡を取らず勇者になり、気がついたら入院しているんだし。

 俺も多少は反省していたのだ。夢の中でちょっとモブキャラ扱いにしてしまったことについては。

 母親は俺が謝ろうとするとその前に「シューン!!」と抱きしめるという名のプロレス技を仕掛けてきた。

「ギャー!!」

 俺はあわててナースコールを押し、看護師に母親が抑えられるまで地獄を味わっていた。物理的にも精神的にも死ぬところだった。

 苦笑いをしている医者によると、俺が病院に運ばれ緊急手術となった。手術は無事成功したが意識は戻らず一ヶ月経ったそうだ。

 目が覚めて特に問題なければ、そのうち退院できるはずだったが、先ほどの母親の攻撃で入院期間が延びるらしい。わざだったのかもしれない。

「一つよろしいですかな?」

 俺は息の飲んだ。医者の顔があまりにも真剣だったからだ。

「病院内に露出狂が出ると言う噂があるのですが、何かご存知ありませんか?」

 目が覚めたばかりの奴に聞くということは、あの変態が俺と知り合いであると分かった上で聞いているのかもしれない。違うのかもしれないが。

 だが俺の答えは一つだ。

「何も知りません。そんなやつがいるなんてとても信じられない」

 少し変な返しになってしまったが、しらばっくれればいい。もうユーキーをここに来させなければいいだけのこと。そもそもユーキーはただ変態なだけであって露出狂ではないのだから、間違いでもない。


 病院というのは最初こそ新鮮だったが一日も経てば飽きてしまうような場所だ。動けないのも辛い。

 美人の看護師? 仮にいてもここにくるのはなぜか違う。そんな生活をいつまで続ければいいのか。

 最近は本を読んで勉強している。魔王関連だ。他に薬学や地理学も学んでいる。何が役に立つか分からないからな。それに夢で見た爆弾作戦。下手に魔王に切りかかるよりよほど理に適った手段だろう。近代兵器と不意打ちが出来れば魔王もあっけないかもしれないな。


 ユーキーには不本意ながら携帯で連絡することとなった。携帯と言うのは数年前から普及し始めた携帯する電話機のことで、いつでも連絡ができる優れものだ。


 話しているうちに俺が入院するきっかけとなった事件の全容が見えてきた。

 何故あんなところに大量の魔物がいたかといえば、どうやら生物保護団体が魔物との友好を図ろうとお茶会を用意したらしい。そこに俺が現れてしまいあんなことに。

 生物保護団体は入院費用と慰謝料を多額に支払ってくれたらしく、母親が何も言わないのが納得言った。余った分は奴の懐の中というわけか。

 暗くなり母親は帰っていき俺はホッとした。二人で話すことなんかないのだから。気まずさしかない。これが明日も続くとなると神経に異常をきたしそうだ。一体いつになったら退院できるのか。

 おそらく長くても二、三週間程度だとは思うのだが。


 一ヶ月後。

「あの、いつになったら退院できます?」

「まだです」

 

 二ヵ月後。

「まだですか?」

「まだです」


 三ヵ月後。

「まだで「まだです」……そうですか」


 結局、半年もかかって退院となった。母親のせいだと考えると非常に苛立ちを覚えるが、どうしようもない。

 遅れたが再び勇者として冒険に出かけよう。

 勇者再起だ。

結局あまり進みませんでしたね。文字数は最多かもしれませんが。

そろそろ終盤かもしれません。一応考えてはいますがどうなるんでしょう。


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