三話 お役所仕事
自宅に荷物を取りに戻った俺は、母親に執拗までに嫌みを言われたが、すべて無視して部屋に入る。
とりあえず必要なのは金、サバイバル道具一式、服や便利グッズを鞄に敷き詰める。
本当は色々持って行きたいが、勇者はいつ何時でも動けなければいけないので、軽いに越したことはない。
こういうことがあるんじゃないかと思って、中学時代に部活に入らず、訓練しておいた俺、よくやった。
何となく母親に見つからないように、周囲を窺いこっそりと家を飛び出した。
俺とてなにも考えずに出てきた訳じゃない。
勇者と名乗ったところで相手にしてもらえないのは当たり前だ。まずは役所に届け出をしなければいけない。
さらにギルドに登録し実力に見合う仕事を提供して貰い、報酬を手に入れる。
金も実力も手に入れて、魔王に挑む。
完璧な計画だ。
パーフェクトプランだ。
「番号483番の方」
役所にて、俺の番号が呼ばれた。これで勇者になれる。
「はいはい」
「本日はどのような御用件で」
「勇者登録したいんですが」
俺の国では16歳になると、役所で仕事登録をする。学校に行くものはまずいない。
「では、写真付き身分証明書と印鑑、未成年なので親の同意書をお願いします」
……え? なになになんなの?
親の同意書、だと。あいつが同意するわけないから一人で来たんだろうが! 馬鹿なこと言ってんっじゃねーよ。
結局、同意書だけ貰い、筆跡を誤魔化し翌日再び役所に訪れた。
「はい、同意書確認しました。では登録料15万円になります」
……え? なになになんなの?
登録料15万、だと。高すぎる。最近勇者になる奴少ない理由がわかった。昔はタダだったのに。
この金もおそらく役人Aの懐に入るに違いない。
だが、背に変えられない。勇者になるのは運命なのだ。幸い今まで貯めた分を入れれば足りるのだ。
こうして俺は勇者になった。
まず勇者になってやらなければいけないことがある。
「おい役人A、王様に挨拶したい」
「そんなことできると思うのか?」
「出来ないのか?」
勇者といえば、王様との謁見は当たり前だろう。王様からむしろお願いされる立場だろう。わざわざこっちから出向いてやろうというのにその態度、万死に当たる。
「何バカなこと言ってんだ。平民ごときが恐れ多いわ。不敬罪で牢に入れるぞ」
なんか王とかより、この役人Aが鬱陶しい。こいつんち燃やしてやる。
城の宝もいつか盗む。
「今日はおとなしく帰ってやろう。おまえはいつか今日の日を後悔することになるだろう」
俺は走った。逃げたわけじゃない。
こうして俺は勇者になることができたのだった。この国の腐敗ぶりにはがっかりしたが、俺が勇者となって王に土下座をさせる。
これは、もう現実でも何でもないような。役人の腐敗をイメージしてみました