1話 勇者誕生?
一応勇者物ではあるんですが、普通ではありません。でも勇者物を現代の現実と言う視点で見るとどう写るか、そういうところを表現していこうと思っています。
ある意味では普通すぎる小説になるのかもしれません。登場人物が普通ではありませんが。
良ければ今後もお付き合いください。
素晴らしい朝がやってきた。
今日から16歳になったばかりの俺はニヤケ顔が抑えられなかった。
なんたって16歳だ。ラノベ的にはそろそろ力が解放される時期だろう。今まだは隠されていたが、実は勇者の子孫で秘められし力とか、伝説の武器とか、右目の封印されしなんたらとか、いろいろ。
昨日だってクリスマスイブにサンタが楽しみで中々寝付けない子供のように、ずっと起きていたし、あまりにもやることが無さ過ぎて、無駄に腹筋したり、伝哲の勇者の伝哲を読み返してしまったぐらいだ。
だが寝不足など気にならない。
今日から俺は勇者なんだから。くくく、今の俺ならなんだってできるのさ。魔王の一体や二体、ぶっ飛ばしてやんよ。
「シュン、さっさとおきな!」
誰だ? 勇者のやる気に水を差すのは?
扉を開けて入ってきたのは母親だった。汚いものを見るかのように部屋を見回した母親は、とっとと配達しちまいなと吐き捨てて、去っていった。
俺の家は昔から新聞配達をしている。そのため俺も小学校の高学年から自然と手伝うようになった。最初こそ面白がっていた俺だが、アレ、何で俺こんなことしてんだろと疑問を持つようになった。
だって給料もらったことないし。お小遣いと言うのも最近少しだけ、ほーんの少しだけ貰うようにはなったが、明らかに割に合わない。
だが今日からは違うさ。なんたって勇者だからね。平然と人の家に邪魔してつぼ割りと引き出し探索してやるのさ。
とりあえず着替え配達に行く前に、部屋を振り返る。
「さすがに掃除はした方がいいな」
俺室には大量のラノベ(勇者物)や勇者になるための資料が多くある。勇者と言うかサバイバル用品が多い。後は模造刀やエアガンなどが飾ってある。
ものが乱雑においてあるので見た目は狭いが、使いやすい配置になっている。
なぜ母親があのような視線を向けるのか理解できない。ま、俺が勇者となり、世界を救ったならば崇拝してくることだろう。
朝早くから働いている『配達員A』から必要分の新聞を受け取ると、俺は自転車を漕ぎ出すのだった。
ルーノルア州は広い。到底俺一人で回りきれるものじゃないし、新聞社だって一つじゃない。自転車で回れるところなど、たかが知れているので、俺の配達分はあっという間に終わる。
俺が帰ってきた時、ようやく日が昇ってきた。この時期は朝でも暖かいが、冬になると寒さで凍えそうになる。雪でも降ってる日には泣きそうになる。涙が凍るけど。
俺が家まで戻って気がついた。平然といつもの癖で配達してしまったが、そうじゃないだろう。俺は今日から勇者だったんだ。なぜ一般人の仕事をしなければいけないのだ。普通ギルドとかだろ。
「何ぶつぶつ言ってんだい? 気色が悪いね」
実の息子にそこまで言うとは、相変わらずの鬼畜ぶりだ。おそらく母親は東方の鬼畜村出身に違いない。しかし俺は偉そうな貴族どもと違い、勇者だ。一般人の無礼に寛大な措置をしてやるのが真の英雄というやつだ。
まずは俺に目覚めし力を聞くとしよう。試行錯誤してもいいが、忙しい勇者には時間がいくらあっても足りない。
「今日で俺も16歳になるわけだが、俺にはどんな力が隠されているんだ?」
「なに、馬鹿なこといってんだい? とっと朝飯食っちまいな!」
な、なんだと?
「そんなはずは。では勇者の武具とかあるんだろう?」
「あるわけ無いだろ。そんな役にも立たないもの買わないよ」
「先祖が勇者だったとか」
「代々新聞配達人、それより前は農家だよ」
勇者ではないだと? そんなばかな。何を言っているんだ? いや、そんなはずは無い。俺は勇者だ。そうに決まっている。
「くそー、絶対勇者になってやるからな」
俺は家を飛び出した。
「あ、シュン! 夕方も配達しないと晩御飯抜きだからね!」