VR世界の「死神」と呼ばれた俺、実は冷却ファンが故障したせいで、俺の周りだけ物理演算がスローになってるだけだった
「っ、、、今日も重いなぁ」
リュウトは、苛立ちのあまりVRゴーグルを床に投げ捨てかけるが、何とか自我を保つ。
フルダイブ型VRMMO『エターナル・レジェンド』。
その最前線、難攻不落と言われる第七階層。
愛剣を握りしめ、階層ボスである『永遠なる骸骨』を睨む。
「いや、冗談抜きで重いが、こんな状態で勝てるのか?」
画面の右上端に目を見やる。
ピン値は真っ赤に点滅し、警告音が鳴り響いている。
「おい、来たぞ、、、」
周りの面々が道を開けていく。
「関わるな、あいつの周りだけ『時間』が止まっている、、、」
いや、重いだけなんだって。
リュウトは心の中で突っ込みを入れる。
あの金髪ロン毛のやつとかギルドマスターじゃなかったっけ。
……失礼な奴らだ。こちとら型落ちのfromメルカリPCと調子の悪い回線で必死になってプレイしてるだけなのに。
その時、永遠なる骸骨が大きく吠える。
この第七階層が難攻不落たる所以、それは永遠なる骸骨による不可視の広範囲攻撃。
予備動作はほんの一瞬、攻略したものはまだいない。
「くっ!総員退却!」
あのギルドマスターの声がする。
俺の視界は、永遠なる骸骨のその剣の動きを、完璧に捉えていた。
自分でも分かる。俺は今、数多のガチ勢達が立ったことのない場所にいる。
その瞬間、あまりの重さに世界から音が消えた。
斬撃は、遅い。
カク、カクと動く剣は、容易によけることができる。
「さっさと終わらせて再起動するか」
適当に愛剣を2,3回ふるってみる。
ゲームの処理が追いついた瞬間。
永遠なる骸骨の体力バーは一気に消滅。
咆哮を上げる骸骨の背後では、岩山が塵と化していた。
周囲の人がざわつく。
「見たか、、、?」
「あぁ、あいつのリーチに入った瞬間、全ての事象が無くなる、いや、全て吸収されている、、、」
ちげぇよ。
俺のラグの中で降った3回分のダメージが、サーバー側にかなりの遅延で届き、過負荷によりなぜか数百倍の連撃となって出力された。
恐らくそういうことだろう。
きっと。
リュウトの右腕は剣の斬撃のエフェクトがまだ残っている。
ギルドマスターたちの動きは完全に固まり、本来なら表示されるはずの第八階層の解放は表示されていない。
「そろそろ落ちるな」
【エラー:サーバーが応答を停止しました】
リュウトはヘッドセットを脱ぎ、現実世界に戻る。
PCの電源を切ろうと、PCケースに手を伸ばした。
だが。
「あっつ!?」
机の上のPCケースが触れないほど熱くなっている。
この瞬間、リュウトはすべてを理解した。
冷却ファンを見てみると、やはり完全に停止していた。
ファンに埃が詰まり、熱暴走寸前の異常高温。
その熱がCPUの演算を狂わせたのだろう。
「奇跡的な『ラグ無双』だったってわけだな」
島崎龍斗は苦笑した。
その頃、運営チームは。
【運営チーム・緊急会議室】
「……報告しろ。例のプレイヤー『リュウト』のログ解析はどうなった」
チーフエンジニアが、青ざめた顔でモニターを見つめる。
冷や汗にまみれ、如何にも不安そうな表情。
一人の女性エンジニアが叫ぶ。
「ダメです! 彼のデータだけ、サーバー内のどの座標にも固定されていません!」
「なんだと?」
「正確には、『常に未来の座標を先取りし、過去の判定を現在に上書きしている』ような……」
「簡単に言うと、未来を現実に持ってくるだけでなく、過去を繰り返しているということか?」
「そうです!」
「未来と現実と過去の相互干渉、、、これは、VRMMO界の歴史が変わるぞ」
エンジニアたちは知らない。
それが、埃の詰まった安物の冷却ファンによるただのラグだということを。
「彼は一体、どんなスーパーコンピュータを使ってこの世界に干渉しているんだ……!」
「これは、休みがなくなりそうですね、、、」
その頃、島崎龍斗は――。
「あー、ファン、Amazonで1,200円か。意外と高いな……ずずっ」
冷めたコーヒーをすすりながら、ネットショッピングに励んでいた。
彼は知らない。
自分のあの3回の振りによって、エターナルレジェンド界に伝説を残し、そして運営チームの休みを奪っていることを。




