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恋慕
ドライヤーで髪を乾かしている時間が大好きだ。
乾かしてくれる彼の手は優しい。
「朱里、好きだよ」
風に遮られないよう耳元で囁いてくれる声で満たされる。
「私も」
湯船に浸かり過ぎたせいか、顔が赤らんでいく。
風が止む。
心臓は締め付き、痛む。
誰も望まない、誰も認めない。
そんな関係。
でも、二人だけは違う関係。
「柊くん、明日会える?」
「明日?明日は……予定が」
「そっか。いいの。楽しんでね」
彼は私からのお誘いを受け取ったことがない。
「朱里。こっちおいで」
彼は優しい声で私を誘う。
夜景に見惚れ、魂が抜けていく。
すると、彼の両腕や顔が私の肩に乗り、胸元で繋がる。
彼の体温や鼻息が近くで伝わってくる。
「この景色を一緒に見たかったんだ」
鼓動が早まる。彼のも。
「柊くん」
「朱里」
私たちは見つめ合う。
彼の瞳には、私は映っていない。
柊。
私の声は、彼には届かない。




