ニッチ
退屈な一日が今日も始まる。
”なに浮かない顔してんだよ、超能力者”
寝起きの頭にタケルの声が響く。
”朝っぱらから、テンション高めで電波飛ばしてくるなよ”
当たり前のように、テレパシーで返すレイス。
”おっ、やっぱり。さすがは俺の友。完全に自分のものにしてるな”
揺れる木々が並ぶ通学路を振り返ると、大男が手を振って近づいてくる。
”俺はお前の彼女じゃないだよ。”
”ちぇ、冷てえなぁ。それが師匠に対する言葉かぁ。”
進行方向に向き直ったレイスに対し、小走りで肩を叩くタケル。
「それよりも、今月号のMYUみたか?」
意気揚々と声を弾ませるタケル。でたな、むっつり武士め。
MYUとは、女子大生を中心に毎号発行部数30万部超を誇る
大人気のファッション雑誌のことである。
「どうせ、颪東だろ?」
「さすが。友よ!!」また、スカートの丈が短いだの、このポーズがいいだの
まるでアイドル扱い。確かに美人だが・・・
「見てない。」
「と思って、ほら。」おもむろにタケルは合皮の黒の通学鞄に手を突っ込み、
パステルカラーの雑誌を差し出す。
「今回のアユ嬢はさらにすごいぞ!!永久保存版だ!!!」いつもながらのセリフなのだが、
いつもどおり期待する自分がいる。
「いいよ、俺興味ないから・・・」ここで、
「そんなこと言うなよ。鼻血ものだぞ!」そうそう
「・・・いや、やっぱりいいや。もう学校着くし。」あと一押しが来るはず、
「そうだな、やめとくか。」ここで折れるなよ。がんばれタケル、俺の友だろ。
”あ~ぁ、レイスは能力に目覚めても不幸体質だけは変わらないかぁ、・・・アユ嬢の水着姿を見逃すなんて・・・”
ミ・ズ・ギ?!衝動には勝てない。
”すまん、俺が悪かった。見せてくれ。”と懇願する。
差し出されたパステルカラーの雑誌がモノクロに変化する。なんだ?
よく見ると、タケルは蝋人形のように塊り色あせていく。
「どうしたんだ!タケル!!大丈夫か!!!」
その巨躯の両肩をつかみ揺さぶってみるがびくともしない。
「なんなんだ!」
ふと正門に目を向けると遠近感のないモノクロな校舎・世界が広がっていた。