モノクローム・ワルツ
この世界のルール
一つ、立ち止まらないこと。らしい。
背中がイテー。白と黒で目がチカチカしやがる。
「ねぇ、あんた聞いてるの」
軽く息があがるアユが併走している。
「・・・あぁ、聞いてるよ。」
廊下には2年B組の標識が見て取れる。
さっき襲ってきた赤色カマキリは"mantis<マンティス>"っていうらしい。
「どうして、あんたがここにいるの?」
吐き捨てるようにアユが言い放つ。
「どうしてって言われても・・・こっちが聞きたいくらいだよ。」
とりあえず、よくわからんが、たぶん背中腫れてるだろうな。
走りながらレイスは右手を後ろに回しさすってみる。
はやく時計の針を進めないと・・・ぼやくアユ。
「まぁいいわ。いい、あんたは私の言うとおりにするのよ。本当に死にたくなかったらね。」
「へいへい、わかってますよ。」
先ほども釘を刺され、文句も言わず走り3年A組の前の階段を下り
今は2年F組の前の階段を駆け下りている。
白と黒のコントラストが強い廊下を1年A組まで走りぬけ校庭へでる。
その際、これってなんかのゲーム?と問いかけてみたが返答はなかった。
校庭の南東に位置する正門付近のトタン屋根の駐輪所にはまばらだが自転車らしきものがあった。
その一台を指差すアユ。
「なんだ、これに乗って逃げるのか?」
不意に自転車のハンドルを持つレイス。重い。
「あんた、バカじゃない。時間が止まった世界で物なんて動かせるわけないでしょ!」
馬鹿とは、教えられたことができないことが出来ない奴に使うべきだと思いますよ。アユさん。
僕は何もわからないだから仕方ないじゃないですか~。っていうか今時間が止まった世界って言った?
「スミマセン。」
眼力だけで小動物くらいなら殺してしまいそうな、美女が睨みをきかせている。
「半径1m以内。動かないで。いい、わかった??」
再び、レイスがもつ自転車を指差す。
「・・・了解です。オロシさんはどちらへ?」
その場を立ち去ろうとするアユに対しおそるおそる声をかける。
「あいつをぶちのめすよ。」我が校のアイドルは仮の姿か。
普段はお嬢様っぽいイメージが、強かったのに朝錬以来、まるで鬼だな。
・・・いってらっしゃい。と軽口を叩こうかとも思ったが、目が怖い。
踵を返し、長い歩を進めるアユ。後ろ姿はやはり超美人。
背中の腫れ物に意識を集中させる。
骨折れてなければ良いけど、っていうか折れてたら俺死んでるか?などと思いつつ、
うっ血している患部の細胞を活性化させ、分裂を促し完治させる。
「それにしてもギフトって便利だな。」と独り言をつぶやいてみる。
固まった自転車に背中を預け、所々穴のあいたトタンの屋根を仰ぐレイス。
時間がとまる。そういえば何時だ?左手首にはめたデジタルの腕時計を確認する。
”LI:MT”
なんだこれ?こわれたか?結構高かったんだよな。
”こわれてない、契約。出現時間、時計細工。”
ふと、目線を落とすと一匹の黒の子猫、フェリがいた。
「フェリ、おぉヒサシブリ。」
”はやく、マンティスを。そのための契約。”
焦点が合っていない、瞳孔が開いた猫は硬直した。
「フェリ、なんかへんだぞ。これどうなってるんだよ!やっぱりお前の仕業か?」
レイスはフェリの所まで歩みより、頭を強く撫でてみるが、反応はなく置物のようになっていた。
なんか、息苦しくなってきた。酸素が薄い。”半径1m”
ゆうに数m離れてしまっていたレイスの脳裏に言葉が浮かぶ。
飛びのくように自転車の下へ。「はぁ、はぁ、なんなんだよ。ここは!!」
欠乏した酸素を吸い込むように叫んだ。