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ヒーローは遅れて登場したい!  作者: 白珠シロ
いつか終わる火遊び
2/7

◇二音は僕を置いて

三重奏は重なった────────。


僕らはただ笑いあった。そして、その一瞬の温もりを胸に、リゲル塔と呼ばれる大摩天楼の入口の捜査を開始した。

摩天楼って言うくらいだ。勿論入口も壮大なのだろうと、勝手にそう思っていたが、


「……これ入口、って言うには窓過ぎるって言うか……。」

レーナはボソッとそう言った。

細身のレーナでさえ入れるか曖昧な大きさの入口だったんだ。


「それじゃあ、今までで此処に来た兵士たちって、めっちゃ体細かった説推奨してみます?」

「しない。」

パルドがおそらく冗談を抜かすも(冗談であって欲しい)、僕、ステアはそれを頑なに否定した。


と、その時────レーナは何かを発見したようだった。

「此処の壁、なんかズレてない?」

彼女は外壁をぽこぽこと叩く。

「言われてみれば…他の煉瓦と比べても配置が不自然だな。」

「レーナさん、よく見つけましたね。」

本当に、凝視しないと分からないレベル。彼女は、目が良いのか。それとも、責任感を感じているのか。


「…ぉお、開いたわ。」

その後もレーナが壁を叩いていると、今度は何かに信号が送られたらしく、煉瓦が横に開き、地響きと共にかなり重い音が耳に刺さる。


「レーナ、よくやったな。」

僕はそう言って彼女の頭を撫でる。

「あのさ、私子供じゃないんだけど。あと撫でて良いなんて言ってないし。」

「良いだろ、別に。だって────誰が何時死ぬか(・・・・・)なんて、分かったものじゃあない。」

「む、極端な話ね。」

「ちょっと、重い空気になってますよ。ほらほら二人とも、お互いにごめんなさいして。」

パルドは表情さえ動かさずにそう言ったが、それでも優しさ、…彼なりの愛情とやらが伝わってきた。


「だだだって、ステアが……!」

「だってだって言えるのは、子供までですよ。」

「ンガッ……!………悪かったわね。」

「すまん、僕もまるで慎みのない発言をしてしまった。」

結局、その場はパルドが何とか収めてくれたが、本当に何時も、何時も、喧嘩ばかりだったなぁ。


そして僕らは、漸く入口に一歩脚を踏み込む。


しかし途端、僕らは揃って立ち止まった。

「…………惨い。」

最初にそう口にしたのは、パルドだった。

彼の家系は僧侶だったから、生を一番身近に感じていたのかもしれない。


また、彼がそう言うのも無理はない。何故なら、

あの壮大で絢爛な外見とは裏腹に、邸内には様々な兵士が息絶えた痕跡が多々あったからだった。

壁に埋まり、身動きが取れなくなった人や、骨が露出した人、

何より一番『死』を感じさせられたのは、黒く染まった血の足跡だった。


「あの、さ……何で骨魔人は最上階に居るはずなのに、一階層で既に死人が出てるわけ…?」

レーナは若干声を震わせながらそう言う。

加えて彼女は、ここまで多くの死体を見たことが無かったから、恐らく死臭等を含めて恐怖していたんだと思う。


「そんなの単純な話だよ。此処を住処にしているのは、骨魔人だけではない(・・・・・・・・・)。」

「でも、一見しただけだと分からな────」

「確証はあるさ。見ればわかる。」

僕はパルドの話を途中で遮り、そう言い切ってやった。


「天井に穴は空いていない。それってすなわち、上からの、骨魔人からの攻撃は一切受けていないと言うことになる。だったら、彼等は何故死んだ?何故あの様に埋まった?……不謹慎な話にはなってしまったが、何者かに吹っ飛ばされなければあぁ(・・)はならないってことだ。」

「ステア、何か今日やけに頭が良いわね。」

「何だ、その普段は頭悪いですみたいな言い方。お兄さんはレーナに嫌味の言い方なんて教えてないけど?」

「当たり前よ、独学だもの。」

レーナは得意げにそう言う。何だよ、嫌味の独学って。


「ちょっとお二方、此処で言い争いはまずいですって。何かに存在が知られたらどうするんですか。」

パルドが僕らにそう忠告した刹那、フラグは直ぐに回収された。


「屈め!」

僕は二人にそう命令する。直後パルドは辛うじて動けたが、レーナは頬に切り傷を負ってしまった。


「レーナさん、もうちょっと周りを見てください。あなたは一流魔法使いと言っても、立ち回りはまだ習得しきっていないのですから。」

パルドは彼女にそう言いながら、頬に手を当て回復の呪文を唱える。



そして僕らが目を離した隙に、眼を光らせた何者かは仲間を連れてこちらに歩み寄ってくる。

「………骨人だ。」

僕は二人にそう知らせる。

「やっぱり、骨魔人の眷族だったわね。」

恐らく、底辺層から()の眷属は張り巡らされているのだ。


「こりゃ思っていたよりも、重労働になりそうだな。」

そう言って僕は、革帯に付いている鞘から、剣を抜いた。

僕は此剣が、命と仲間の次に大切なものだったからなるべく、消耗させないように極力鞘から抜くのを遠慮していた。

何故ならそれは、

────僕の”特殊能力”を最大限に引き出してくれるものだったから。


でも、今回ばかりは仕方がない。

「皆、気を張────」

「っ氷の牙(アイスファング)!!」

「大結界。」

僕は何時でも、仲間を心配しすぎなんだと今、思い知らされた。

もう少し、彼等を過信してみても良いよな。


「それじゃあ、中央の一番デカイ奴!二人は彼奴の気を引け!」

「他のちっこい骨達はどうすんのよ!」

「諸共吹き飛ばす!…パルド、僕に結界を張れるか?」

僕がそう言うと、パルドは何も言わずに結界で僕を包んでくれた。

僕らパーティーはこうやって日々連携を重ねていたんだ。


そして、僕の戦略。それは────────



*特殊能力、『レイターヒーロー』を活用したものだった。



名前の通り、『遅れる』程、身体や剣先が強化、鋭くなる能力だ。

まぁ言ってしまえば、溜め技ってところなのかな。

故に、能力を溜めている時間は、何も出来ないから二人には時間稼ぎをしてもらわなければならない。

………この能力のせいで、一体何度パーティーが壊滅しかけたか。

それでも、使い方次第によっては『一撃必殺』ともなり得るのだ。


────そろそろかな。

《バリンッ!》

僕は、勢い良く結界を割って出る。

「レーナさん、一旦身を引きますよ。」

「ん、りょかいッ。」


そして僕は、剣を横に身構えてから────

「………っっぅりゃ!!」

空気に楕円状の切り込みを入れた。

刹那その衝撃は、いくらか旋回して此階層にいる全ての骨人に的中した。


「……ちょ、ちょっと!今頭に当たりそうだったんだけど?!」

「すまん、室内だったから加減が分かんなくて。」

あいにく、邸内には何の柱も立っていなかった故、障害物は何も無かった。


「さて、すぐに進みますよ。次の階層ですっ。」

恐らくパルドのこの言葉の裏には、「自分に任せて」という意味合いもあるのかもしれない。

彼になら────、いくらでも背中を預けられるな。と、そう思ったのである。


◇ ◇ ◇

「っふぅ、……これでやっと百二十階層ねぇ。」

レーナはほぼ息を吸いながらそう言う。

また、彼女がそうなるのも無理はない。

……………疲労で死にそうだったからだ。

「ちょ、ちょっとさ、一旦休みたい。」

「ステア、冒険者たるもの……目標を成し遂げるまで休んじゃいけないのよ!」

「いや、僕らって冒険者じゃないし、……それに、何だよその謎の理屈。」

「良いですかっ、ハァ、レーナさん。……もしかしたら…ハァ、死戦になるかも、しれないんです。……此処で少し、休みましょう。」

「……パルド、限界そうね。いいわ…私も丁度お腹が減ってたところだし。」

そうして、僕らは一旦摩天楼内で休憩をとることにした。……と言っても、正直いつ襲われるかなんて分かったものじゃないから、気が気ではなかった。


*リゲル塔攻略割合、八割。


「じゃん、今からお魚を焼きます。」

ふとレーナは、そんなことを言い出した後、懐から木の枝を何本か出した。

彼女のそんな光景に、僕とパルドは唖然とするしか無かった。

そして、いつか襲われるかもといった不安は、彼女のおかげか、彼女のせいでか分からないが、不意にも消え去ってしまったんだ。


「…ファイヤ。」

レーナは控えめな声でそう魔法を唱える。


「「あの、その魚は何処から。」」

直後僕らは二人、全く同じことを口走った。

「…魔法で川から。」

………本当、彼女が言うと危うく魔法って概念軽く捉えてしまう。唯彼女の能力が優れているだけなのに。

にしても………………美味そうだな。


「……それ、一口貰ったりって────あづっ!」

レーナは、魚の腹の部分を少し千切り、手をで僕の口に突っ込んできた。

刹那僕は、魚の熱さとそういう(・・・・)熱さで火傷しそうになった。

「……そんな美味しいとこ、貰って良かったのか?」

僕は純粋な疑問で意図せず彼女に尋ねてしまった。自分でも何故そんなことを聞いたのか全く分からず呆然としていた。

そして、直後レーナの口から出た言葉に、僕はより頭を悩ませることになる。


「…食べて欲しくなきゃ、あげないでしょ。」

そんな彼女は、口を尖らせ、暗くても分かる程に頬を赤く染めていた。

「神の祝福をお祈りします。」

パルドは、なんか空気を読んでくれていたようだった。


「さぁ、気を取り直してここから攻略も気を張るぞ────っっ゛、!」

刹那、僕は途轍もない吐き気を催すようになった。……あの一口が当たったか、いやそうじゃない。だったら疲労か、いやそこまでじゃない。

………だったら何だ…っ!


「ステア、急にどうしたの?!」

「……身体の回復(ヒール)!…………効かない?、どうして………。」


二人の、仲間の声が遠く聞こえる中、僕にはとあるものが見え始めていた───────。


『骨魔人の実体』、要するに…場所が分かった的な。

存在が目に見えてるって言っても訳が分からないと思うが、何やらぼやけた視界の中で、本能が方向を指し示すような、そんなよく分からない現象が今起きて………………た。


「あれ、………病んだ。」

これは……もしかして、能力(レイターヒーロー)覚醒(・・)、とやらなのか。


「…どうやら、僕の運命は本日をもって、大きく変わるようだ。」

「……は、具合が悪いかと思えば、急に何言っちゃってんの。」

「やはり、もう少し休んだ方が良いかと。」

二人は、僕の情緒不安定さに呆れていた。まぁでも良い、取り敢えずは視えたからな────


本日の目玉(骨魔人)の場所が。』


……

……

「……っと、ちょっと、ステア。」

「んはっ!」

「全く、ステアさんは本当、直ぐに自分の世界に潜るのですから。」

「ごめんて、…って!そんなことより!分かったんだよ…!」

僕は目を見開いてそう言う。しかし、二人の顔にはポカンと、そう書いてあった。


「ステア、主語。」

「────骨魔人の居場所!」

「ステア、述語…………って、ぇ?!」

「それは、……能力ですか。」

毎回、重要なところで彼等は大袈裟な反応をするから、先を話せない。


「はいはいはい、皆さん静粛に。…えっと、確か此処はリゲル(摩天楼)の七分目程に位置するよな。そんでもって、骨魔人ってやらは最上階に居ると、そう言われたな。」

レーナ、パルドは二人して首を傾げながら疑問そうに話を聞く。


「ギルドの人は、そう言ってたわ────」

「実はそれ、大間違いです。」

「で、では、一体何処に居ると………」

僕は無言で上を指差した。


「……?…やっぱり最上階────」

「一階層、────上。」

その言葉に、二人は「はぁ?!」と声を出しそうになったが、直前で口を手で押さえた。


「故に、……僕らは見られている(・・・・・・)可能性がある。決して軽率な行動をとらないように。」

僕は小声で二人にそう忠告した。

「そ、そもそも、何でそんなことが分かるのよ。」

「そんなの僕だって知らない。…とにかく、もう次期”死戦”が始まるってことだ。覚悟を持()。」

……

………

…………

……………

僕が満を持してそう言った後、振り向くとそこに仲間は”居なかった”。

「…っ!、パルド!!レーナ!!………冗談はよしてくれやぁ…。」

本当、笑えない冗談だった。見つけ次第ブチ切れてやろうと、そう心に誓ったまである。


僕は、直ぐに階段を駆け昇った。正直、ここまで一歩一歩を長く感じるのは初めてだった。

早く会いたい、今まで喧嘩ばかりしてたのだって、時々怠くて任務サボったのだって、レーナが不在の時にカットステーキ一つ摘み食いしたのだって、もう全部洗いざらい話して、謝るから…………!


でも、運命はそう甘くなかった。


「ッステア!!!」

「ステアさん!!!」

皆!みん……………な………


僕は目の前の光景に、絶句した。

『ステ、ア?…あぁ此奴がステア?アハハハハ!!!!…みっともねぇ名前だな。もし、ファミリーネームが「アドラ」とか「アドラス」だったらお前、《逃げられねぇ復讐》って意味だぞ?……此奴ら攫った復讐、出来っかなぁ!!』

そう偉そうに語るのは、────骨魔人だった。此奴はもはや「骨」というか、「ミイラ」に近い形相をしていた。

そしてそんな(骨魔人)は、レーナ、パルドを鷲掴みにしていたんだ。

人を、それも僕の大事な仲間を、こんな扱いをして僕が許すわけないだろ。

背中はとっくに沸騰していた。いや、もう蒸発寸前ってところだな。


「その二人を離せ、……って言っても、お前みたいな奴が従順なわけないよな。」

『んだお前、気味悪ぃな。』

しかし僕はもう、話したところで無駄だと見越して始めていたんだ。


────────レイターヒーロー(遅れる救世主)をな。


すると、骨モドキは会話に飽きが来たのか、

レーナとパルドをそこらに放り投げ、自身の()を構え好戦状態へと突入した。


「二人ともっ!…まだ動けるか!!」

僕はそう彼等に問いかける────も、二人は無言で首を横に振った。

恐らく、骨モドキに体力等を吸収されてしまったのだろう。

ここまで来ると、本格的にまずい状況になってきた。

しかし、僕は一度でさえ剣を抜くことは出来ない。

何故なら、一度でも剣を抜くとあの(・・)能力は時間と共に薄れていくものだからだった。


その後、僕はひたすら、ただひたすらに、骨モドキの攻撃をかわして、パルドやレーナの元に辿り着こうと死に物狂いだった。

顔に切り傷を負って、肩に深く斬撃を食らって、それでも僕は、這いつくばってでも攻撃を避けていた。

しかし此奴は死角を見せず、どんな動きでさえ見透かしてくる。


此奴の能力が知りたい。


刹那、また”あの”吐き気が身体を襲い始めた。

それでも、攻撃を避けなければならない。

傷を負う頻度だって、数分前に比べても多くなった。

「……あの景色。」

その時僕が視えたのは、骨魔人の特殊能力を始め、動作のパターンだった。

それでもまだ、具体的には掴めない。でも、もう大丈夫だ。行ける…………!!


「ここからは……僕の地獄を味わえよ。」

”レイターヒーロー”、骨人の時に溜めた時とは桁違いに強化されている。

邸内故に、力加減がイマイチ把握できていないところもあるが、そんなの気にしている暇はない。

………摩天楼ごと、ぶっ壊すんだ。


そして、僕は鞘から剣を抜いた。

ザ・メタリックと言わんばかりの刀身は、今回まるで光り輝いているような赤褐色へと変貌した。

「仲間を攫った代償、ここでしっかりと払ってもらうからな。」

そう言って、僕は指を一本、二本、いや──十本と鳴らし、指を弾いて詠唱する。

「ファイヤ、ファイヤ、ファイヤ、ファイヤ、ファイヤ、ファイヤ、ファイヤ、ファイヤ!!」

刹那赤褐色の刀身は、真紅と言わざるを得ないような輝きを魅せた。

僕は、脚を縦に広げ、それから腕を耳裏にまで引く。

そうして────────渾身の一撃を放った。


斬撃は、無数の虚像に分かれ、それぞれ旋回しながら建物を破壊していく。いずれそれらは一つになり、流石に防御態勢をとっていたであろう骨魔人の首、心臓をあっさりと貫通した。


そうして僕は、僕らは、あの骨魔人を討ち取った────────のだが、喜びに浸っている時間なんてなく、何ならここからが”僕”の地獄の時間だった。


リゲル大摩天楼の上層部は既に崩壊が始まり、僕はここから『二人』を抱えての脱出をしなければならなかった。

「レーナ、パルド、大丈夫か……苦しくないか…?」

そんな二人の表情は、何処か嬉しそうで、何処か悲しそうに見えた。


「……ステア、君だけでも逃げなよ。私たち、お荷物になっちゃう。」

「僧侶の分際で、こんなこと言うのも難ですが、……私達は今、動けません。自分達を置いて逃げて、ステアさんだけでも生きていれば……このパーティーは不滅です。」

レーナは珍しく、弱々しい口調になっていた。そしてパルドは、…初めて笑顔を魅せた。

二人とも死ぬ気だ。でも、僕がそんなことさせない。


「………取り敢えず、パルドは背負ってレーナは抱えて逃げることにする。文句は後で言ってくれ。」

僕はそう言って二人を持ち上げようとするのだが────、肝心な右腕の腱が切れていて、力が一切入らなかった。

そんな時だった。


「…初めて出会った時から、今日この日まで、…ずっと恩返し出来なくてごめんね。だから────。」

レーナはそういった刹那、濡れた唇を僕、ステアに触れさせた。そんな彼女は、心做しか震えていた。

そして、そんな震えた彼女は、


────────僕のことを蹴って、その反動で”摩天楼から転落した。”


最期、レーナは小さな声で「大好き」と呟いたが、僕はそれを聞き逃さなかった。

「レーナッッ!!!!!!!!……レー、……」


……僕は膝から崩れ落ちた、摩天楼の崩壊と共に。

元はと言えば僕のせいだ、僕のせいだ、とあの短時間で何度も自分を責めた。

「ステアさん。これらは全て、あなたのせいじゃ」

「僕のせいなんだよ!!!!!…そもそも、こんなゴミ能力(レイターヒーロー)なんて、無ければ…………。」

「その能力と、これからあなたがどう向き合っていくかが重要なのです。……どうか、生きてね、”親友”────────小結界。」

パルドはそう言い残した刹那、自身の残り僅かだった力を僕に注ぎ、


───────彼もまた、摩天楼から転落した。


◇ ◇ ◇


哀しみと無力感に暮れているうちに、いつの間にか僕が包み込まれている小結界は、摩天楼の入口付近の地に落ちた。

《バリンッ》

結界が割れる音と共に、僕の心の何かが粉々に割れた音がした。


「……ッレーナ、パルド、何処だ!!」

正直、あの高さから落ちたんだ。もう生きていないことなんで知っている。それでも、僕は自分の責任を果たす為に、彼等を捜索した。


…………そもそも、”何で僕は、二人が死んでしまったという事象を受け入れられているのか。”

「………僕って、つくづく薄情な奴なんだな。」


人々は静寂と化す。すると、自然の音はより一層華やかになる。木々の粼、乾いた風、ぼやけた雲、そして、────その中で佇む(みず)の流れ。

僕が麻痺しているのか、それとも自然が僕を嫌うのか……あいにく、そういった自然の感覚は、僕には感じられなかった。

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