旅立ち
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一夜明けた朝、目を覚ましたレオは窓から外を覗いた。そこは朝霧で一面真っ白だった。
レオは出掛けられるよう準備を調え、荷物を持つ前に机に向かった。村の人達へ向けての書き置きをしていた。
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シフル村のみんな オレは少し出かけます。
バグからみんなを守れるようになって
戻って来るので 待っていてください。
L E 0
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シンプルにそれだけ書いたのは、説明が面倒であったこともあるが、書いたところで信じて貰えない可能性や、危険だと止められることを恐れてだった。直接話をするのではなく、書き置きにしたのも同じ理由だった。
家族でもないのに自分に良くしてくれたシフル村の人々。バグの謎を少しでも解明して、バグの対処を迅速に出来るようになる、それがレオの思う恩返しだった。
―― 何も言わずに出ていくの、みんな怒るかな……。でもちゃんと戻って来るから、どうか待ってて。説教とか小言とかあるなら、戻ったとき全部聞くから……!
レオは思いを胸に、出発すべく扉を開けた。そこは早朝の静けさと、朝霧による真っ白な世界。
「……いってきます」
レオは誰もいない家の、閉まりゆく扉に向かって小さく呟いた。
四年前レオがシフル村に来たとき、空き家なんだから使っていい、と村の人々が用意してくれた小さな家。レオが一人で暮らすには十分だった。生活していく中でも、村の人々が何かと気にかけてくれたおかげで、レオは今ここに居る。
その場所を、一時とは言え黙って出ていこうとしているのだ。
レオは一度グッと目を閉じると、深呼吸をして、歩きだした。
昨日ヒト形バグを見た場所でルシウスと落ち合うことになっている。
道中は霧が濃く視界が悪かったが、四年暮らした場所なので道は分かるため、進むことに支障はなかった。逆にこの霧のおかげで村の人々に見つからずに出られそうだ、と思っていたその時だった。
「おい。……待て」
どこからか突然声をかけられ、レオは飛び上がる程に驚いた。辺りを見渡すと、少し後ろに深緑色の髪の青年が見えた。
「……なん、なんだ、サンか。脅かすなよ……。どうしたんだよ、こんな朝早く」
シフル村の村長の息子であるサンだった。
「……行くんだろう?バグを追って」
サンの口から出たのは、レオにとって思いもよらない言葉だった。
「……何で……? 何で知ってんだよ? ……ルシウスは言わないだろうし……アテナ? もしかしてアテナから聞いたのか? それで……止めに、来たのか……?」
レオは身構えた。止めに来たと言われた場合、すぐに逃げれるようにだ。
「ハァ……。馬鹿か。バグを追いかけるのにお前、バグに有効な修復魔法を使えないだろ。俺が一緒に行ってやるよ」
「!」
止められると思っていたレオにとっては意外だった。
「ほら、その腕見せてみろ」
サンは、昨日の蛾形バグとの戦いで負った火傷に気付いてそう言った。レオは見た目ほど痛くはないんだ、と言い訳のように言いながら腕を出した。
サンの使った修復魔法[リペア]により、白いふわふわとした光がじわじわと火傷を治していく。
「こんなんでお前、この先怪我したらどうするつもりだったんだよ……」
治しながら、サンはため息混じりに呆れた様子で文句を言っていた。
「おおー!! ありがとう、サン!」
レオは治った腕を見ながらサンに感謝を伝えた。
レオにとってサンがなんだかんだ文句を言いながらも治療をしてくれ、更に一緒に来てくれることがとても嬉しかった。
「あっちでルシウスと落ち合う予定なんだ! 行こう!」
そうしてレオとサンは、昨日ヒト形バグを見つけた小山へと向かった。
着くと、そこにはすでに見慣れた後ろ姿があった。黒髪を一つに縛った人物、ルシウスだ。
「ルシウス! もう来てたのか、早いな!」
「おう、レオ。……と、サン? 何でだ?」
ルシウスは振り返ると、サンを見て首を傾げた。
「一緒に来てくれるってさ」
サンが共に来てくれることを説明すると、ルシウスも喜んだ。「心強いな」と。「修復魔法の使えない自分達だけで行くのには不安があった」とも溢していた。
「でもよ、サン。村長の息子なのに出てっちまっていいのかよ? 俺やレオは家族居ねえからいいとしてよ」
ルシウスの問いにサンはそうだな、と前置きしてから答えた。
「まあ、村のために動くんだ。親父も皆も分かってくれるだろ。……こんなものだよ、俺のうちは」
いつも通りの無表情でそう言ったサンに、レオもルシウスもそう言うものなのか、とそれ以上は追及しなかった。
「さて、ヒト形バグの向かった方向なんだが、あっちの方には街がある。とにかくそこ行ってヒト形バグの目撃情報やら、あの時みたいなバグの大群が出たりしてねえか聞いてみようぜ」
「ああ、そうだな」
ルシウスの意見にレオ達も賛成した。
もう辺りは霧が薄れてきていた。誰かに見つかってしまう前に早くここから離れよう、ということで早速動き出そうとしたその時だった。
「……ちょっと待ってよ……!」
三人の後ろから声がした。
「…………アテナ。……俺は行くよ。止められても行くよ」
レオは振り返らずに答えて、前を見据えた。
「……違う。……違う!」
アテナの震えた声に、レオは泣かせてしまったのかと不安に思い振り返ろうとしたが、一瞬の後、レオの視界には地面が写っていた。
「私一人、置いてったりしないでよ!」
アテナの手には水魔法の鞭[Leviatano]が握られていた。それでレオ、ルシウス、サンに足払いをし転ばせたのだ。
三人は慌てて立ち上がると、「私も行くんだから」と怒ってバシバシと叩いてくるアテナから逃げまわった。
そうしてレオ、ルシウス、サン、アテナの四人の旅は始まったのだった。