5.最終話
お久しぶりです。
「えへへへ〜。お母さんも可愛いよ」
ソラはさらに強く抱きしめた。
なんとまぁ、素晴らしい光景が広がっていることやら。素晴らしい親子愛を見せてもらった。敬意を祝して拍手を送らしてもらおう。ぱちぱちぱちぱち。
それはそうと、後ろの光景が酷い。
あお向けになって幸せそうな顔で寝ている。かける3人。何やってんだよ。お花でも添えてあげようか。ちょうど胸の辺りで手を合わせているわけだし。
「さて、餃子作り再k...。何しておるんじゃ?」
「起きてみんな。おーーーい」
リンが顔をぱちぱち叩いている。なかなかの威力だ。
九十九や十六夜が神様だからそれに合わせての威力なのだろうが、そんな威力でやられたらレイが可哀想だ。
ほら、頬が腫れている。
「リンいたい。もう、起きてるからやめてね」
「もう。早く餃子作り再開するよ」
「ソラほっぺ治して。いたい」
「反省せい。全く。………バレてないと思っておったか? 十六夜、九十九」
「「ギクっ」」
「罰として、明日の業務は倍じゃ。それと、後で頼みたい事もあるのでのう」
「「ブゥブウ」」
両者からのブーイングが止まらない。
こんな些細なことでも、信頼し合っていることがよくわかる。
「最後の1個できたーー!!」
「ほら、見るが良い。リンは黙々と作業を進めておったのだ。少しは見習わんか」
「お母さんも、説教しながらちゃんと作ってたじゃん。だから、お母さんと私の力作です。ふんす」
ドヤっている。とてもドヤっている。
さすが、ソラの娘。やっている事が同じだ。
「焼くのもやるー!」
「十六夜さん、九十九さん、僕らは他の準備をしましょう」
「冷蔵庫の中勝手に使わせて頂きますね」
「では、先に戻っておきます」
レイ、十六夜、九十九がこの空間から離れた。この空間にいるのは2人になってしまった。さっきまで、何かと騒がしかったのに少し静かになる。
「お母さんあのね」
「なんじゃ?」
「私ってこれからどうなるのかなぁ……。なかなか言い出す機会がなくて今になっちゃったけど」
(そんな顔をするようになって……。少しずつではあるがちゃんと成長しておるのう。リンには重たい運命を背負わしてしまったわい。母親として不甲斐ないばかりじゃ)
少し複雑そうな顔をしている。無理もない。リンは他とは一風変わっている。そもそも、リン以外に神様と人間との間に子供が生まれたという前例がない。リンは非常に稀有な存在だ。だから、この先何があるのかわからない。神様となるのか。人間として生きていくのか。それとも、若いうちにその命が……。ソラは時間、空間を司るものなのだから当然、未来だろうと過去だろうと覗くこともできる。だが、何故かリンの事だけはわからなかった。
実は、ソラが高校に上がる前にこのことを伝えていた。リンにしか伝えていない。
それから、何かとぼうっとしている事が多くなった。
今、それから1ヶ月くらいたっている。
少しはリンの中で整理がついたのかもしれない。
「いっぱい悩んだんじゃな。正直、わしにもよくわからん。じゃがな、リンにはたくさんの頼れる者がおるだろ。わしとかな」
「うん! お母さん……餃子焦げそう」
「見ておれよー。ほれ! どうじゃ! ドヤ!」
餃子をひっくり返した。綺麗な羽ができている。いい匂いだ。
ソラはリンの頭を撫でた。
「わしも母親としてまだまだ不甲斐ないばかりじゃ。娘にこんなことを背負わせてしまって……」
「そんなことない……っ!」
リンが力強く否定する。
「リンよ。これもわしの先を見通す事が甘かったからじゃ。すまんかった。……じゃがな、諦めることは絶対にするでない! リンが生きたいように生きなさい。生きることを楽しみなさい。辛いこともあるでしょう。ですが、逃げてはいけません。自分に何が出来るのか模索しなさい。困ったらいつでも言ってください。あなたの母親なんですから。絶対にあなたを助けます。絶対です。だから、笑ってください。にしし」
リンを抱きしめて悲しそうに謝罪をした。
その後、リンと顔を合わせて真剣に伝えた。
「お母さん…っ! うえーーーん! 怖かった。怖かったよ。私どうなっちゃうのかわからなくて……ぐす。怖かった! 他の子逹みたいに普通の子でいたかった。お母さんの事を恨みそうにもなった。でも、お母さんはお母さんで。私が大好きなお母さんで。うえーーーん」
「怖い思いをさせてすまんかったな……。絶対に守るからのう……」
「ありがとう。ありがとう。あとね。あとね。お母さんの口調がやっぱり違和感だったよ」
リンは涙をたくさん流した。それはもうたくさん。
しばらくして、泣き止んだ。目元は少し赤くなっている。
リンもどうやらソラの口調に違和感を感じていたらしい。ソラは、いつもは「のじゃ」と言った老人らしい言葉を使っている。だが、そのような言葉を使わなくても実は喋れたらしい。
「ふふっ。じゃろ。わしとて、あまり使わん口調じゃからな。少し自分自身でも違和感があるわい。この口調を使う事を知っておるのわレイしかおらんぞい。リンが2人目じゃな」
「お父さん知ってるんだ。さっきの口調ね、凄い威厳があるというか近寄りがたい感じがしたんだ。だからね。今のお母さんがいい」
「ありがとうのう。さっき言ったレイ以外には秘密じゃぞ。さて、3人のところに行くかのう」
「そうだ! お母さん、餃子冷めてない?」
「大丈夫じゃぞい。わしがな、ほれ」
「さっすが、お母さん」
「はっはっはっはっはー」
ソラが調子に乗っている。無いお胸を思いっきり張って偉そうだ。これではどちらがお子様か……。
一方で、リンはソラ褒めbotと化している。今も褒めちぎっている。調子に乗るからやめて欲しい。
「お母さん、目の周り大丈夫かなぁ? 流石に泣いてたのがバレたら恥ずかしいな。あはは......」
「これで大丈夫じゃ。鏡もほれ。確認しておくれ」
「ありがとう。お母さん,さっきの話ね。どうなるかわからないけどね、私は、人間として生きたい」
「なんじゃ。もう答えを出したのか……。その答えは、少し寂しいが、リンが決めたことじゃ。頑張るんじゃぞ」
「うん」
ソラの「頑張るんじゃぞ」、リンの「うん」にはどのようなことが含まれていたのかは知らない。言葉通りにも他の含みもあったのか。
だが、2人の目はお互いを捉えて離れようとしない。
この話は今回で最後になります。
一応、完結です。
カクヨムの方で設定とか甘い部分が多かったので練り直してからあげなおします。
準備できしたいカクヨムに上げていきます。
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でもし興味があればお願いします