#02.たまたま偶然、奇跡的に...嘘つけ!
「すまんな、話を逸らしてしまったわい。今日はそういう事を話すために集まった訳ではなかったんじゃが。あぁ、楽しみにさせておったのにすまんな。どうしても、立場上把握したくなってしまうんじゃ」
「時空様、先程、地球の創造主様からいただいた"カヌレ"というスイーツをいただきましょう。お飲みものは何に致しますか?」
「わし、フルーツティーで」
九十九を見てニヤニヤしている時空神。
とても、楽しそう。
「私は、アップルティーでお願いします」
「承知致しました。地球の創造主様の従者さんは、何に致しますか?」
「あ、いや。えっ、えっと。すみません。取り乱しました。ありがたいことでございますが、ご遠慮させていただきます」
「承知致しました。では、少々お時間をいただきたますので、それまでの間こちらを」
「あら、お美しいお花」
「じゃろじゃろ。これはのぅ! リンが種から一生懸命育てたお花なんじゃ! わしの娘、天才かも知れぬ。なんでもそつなくこなしてしまうリン! もう、最高じゃ!」
「それは結構な事で」
娘の事になるとついつい熱弁してしまう時空神をとても温かい目で見守っている地球の創造神。
表情には出していないものの地球の創造神の従者も心なしかとても温かい目になっている。
「時空様、こちらフルーツティーでございます。地球の創造主様、こちらアップルティーでございます。それで、何をお話しておられてたのですか? なんとなく予想はつきますが」
「リンの事じゃよ」
「わたしの根回しがきいたのですね」
「やはりか。すっかりはまってしまったわい。お主、手を上げたのう」
「いや、時空様が単純なだけでは?」
「右に同じく」
「ぶふっ………。し、失礼いたしました」
この場でのやりとりに耐えれなくなったのか吹き出して笑ってしまった地球の創造神の従者。
しばらく時空神は彼女を見つめていた。
「公の場でのわしとは全然イメージが違うじゃろう」
「いえ。そのようなことはございません。私達のような下っ端なものにも、気をかけてくださる慈悲深く、お美しい姿そのものでございます」
「買い被りすぎじゃ。わしとて、過ちも犯すし、全ての者を気にかけれるほど人……まぁ、神ができておらぬぞい。変な期待をされて勝手に落胆されるのも癪に触るしのう。ということで、そのフィルターを剥がせ」
時空神は、手をわしゃわしゃさせて、愉快そうな顔で近づく。
「こんなところにタライが」
九十九の本の些細な呟きだった。
空からタライが降ってくる。しかも、金属製でなかなかに重量のあるやつ。
時空神の頭に見事に落下した。
凄まじい音が周りに響く。ただし、ダメージはない。
「何をす! る! の! じゃ! つ! く! も!」
「いえ。私のせいではありません。タライがたまたま偶然、奇跡的に時空様の頭の上に落ちたまでです」
「何が、偶然じゃ! 全く! いいか、お主、よく聞け。失礼とはこういうのを指すんじゃ。よう覚えておけ。あと、そこで笑い転げてるアス! あとで、覚えておくんじゃな!」
そう時空神が、言ったのを聞いた地球の創造神は、立ち上がり埃をはらって、急いでアップルティーを飲み干した。
「あぁ、急用を思い出しました! それじゃ」
「ま、待ってくださーい」
そして、時空神と九十九が残された。
なんとも、形容し難い雰囲気だ。
九十九は、時空神が喋り出すのを待っているようだ。
「九十九。お主、何をやっておる………と、普段ならば言いたいところじゃ。まぁ、許しておらぬがな」
「えぇ。器が小さいですね」
「つーくーもー?」
「はいはい。わかりましたから」
「全く。おぬしとレイぐらいじゃぞ。わしをこんなにぞんざいに扱うのは」
「あの場は仕方なくですよ」
「いやいやいや。やり方があるであろう。仮にもわしはおぬしの主人じゃ」
「これはこれ。あれはあれです。今回の事は水に流しましょう」
「じゃ! か! ら! それは、こちらのセリフじゃ! 反省せい!」
「すみませんでした」
「ほんと、神経図太くなりおって………はぁ………。この件は一旦保留じゃ。話が進まぬ」
先程のやりとりで疲れたのか、机に膝をつけて手で頭を押さえている。いわゆる、不貞腐れている人のポーズ。
「まぁ、感謝するわい」
時空神は、九十九がいる方とは反対を見つめながら呟いた。ポツリとつぶやいた発言だったが、九十九にははっきりと聞こえたようだ。先程の発言を聞いた後、顔を上げて時空神の後頭部を見ている。
「そういうところですよ。人(?)のために感謝を言えるところ」
(そういうところに私は、憧れたんです)
「も、もうよい」
九十九の明らかに変わった態度に戸惑いつつも、照れくさかったのか、それとも恥ずかしかったかその場の空気を壊すかのように告げる。
顔面を真っ赤にしており正直弄りがいがあったが、それを九十九は望んでいないようで、ただ傍観しているだけだった。
「さて、これからどうするかのう。あやつ、帰りおったし」
「もうそろそろ、リン様も帰ってきますので、一度家にお帰りになってもよろしいかと」
「ナイスアイディア〜じゃ。晩御飯でも作るかへ」
「私がお作りいたしますので、リン様とお過ごしください」
「ならぬ。わしも、母親としてリンにいいところ見せたいんじゃ! 今日も、わしが作るわい!」
「それじゃあ、私の立場がないんですけど。時空様は一度決めたらまげないですからね。わかりました。お手伝い出来ることがあれば言ってください」
九十九も大変だ。
だが、その表情はどこか嬉しそうでもある。
「少しお待ちください」
そう言って、九十九は急いであちらに向かう準備を始めた。準備と言っても、九十九の眷属にこちらの邸宅の維持や管理などの時空神が留守にしている間の事を命令するだけだ。もちろん、眷属達には衣食住全てが充分すぎるほどに保障されている。お給金も時空神から直接ではないが九十九経由でかなりもらっているはずだ。
「では、行きましょう」
「いってらっしゃいませ」
九十九の眷属達が、表に集まり深々と頭を下げた。
なんと、見事なメイドそのものな姿。
惚れ惚れとしてしまう。
彼女達が次に頭を上げる頃には音もなく九十九と時空神は消えていた。
これはいつも通りの光景なので、九十九の眷属達は驚くこともなかった。
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