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Ceremony

Aniの協力に感謝


「内山くん!何してるの!」


彼女の声は俺には届かない。俺は今、夢の中にいる。すべての俗物を外野に押し留めることが可能になった俺の精神は常人のそれとは異なった次元に到達していた。頭を下に、足を上に、ゆっくりと注ぎ込まれるお茶に精神を研ぎ澄ます。来るべき時は必ず来る。急ぐ必要などない。


彼女が俺の両親を呼んできたらしい。父親が必死に俺を止める。なぜ止める!お茶はもうすでに注がれ、水分は大腸で吸収されてしまったんだ。匙は投げられたんだ。お前の玉から射出された微生物がこんなにも立派に育った、喜ばしいことじゃないか!


俺が今生きているのは、この世界。だけど俺にはまだ早すぎる。


「ごめん。ちょっと手が滑って、勉強続けよう。」


「ならよかった...」


「母さんも父さんも、もう大丈夫だから。ごめん、心配かけて。」


母さんは最後まで心配そうな顔をしていたけど、なんとか説得して帰ってもらった。せっかく女子と一緒に勉強しているんだ。申し訳ないけど、邪魔だからね。


それから3時間は勉強した。かなり集中できた、今までにないくらい。


「そろそろ5時だね。遅くなるとあれだから、もう帰りな。」


「え~、もう少しいたいな。」


「また明日学校で会えるだろ。」


「あ、そうだ。LINE交換しようよ。」


LINEか..友達と交換するのは初めてだ。俺のアドレス帳には家族の名前だけが並んでいる。I


「ID送っとくよ。」


「..LINE持ってないから送れないよ。」


「アッ..そうだった..」


「ふふ..面白いね、内山君。」


「ウン...」


今日は人生最良の日だ。女の子を家に呼ぶなんて、陰キャラの俺からしたら夢のような話だ。彼女が帰った後も、胸の鼓動が止まらない。この喜びを誰かと分かち合いたい。飲み水にも事欠くアフリカの子供たちにこの喜びを分け与えることができたら、どんなに素晴らしいか。


その日の夜、12時前、携帯が鳴った。


「誰だよこんな遅くに...」


携帯を見ると東雲さんだった。ど、どうしよう。すぐ返したら気持ち悪がられそうだ。かといって返さないのも良くない。メッセージを見たいけど、既読が付くとヤバい。


すぐ返したら、明日”ずっと携帯見てるんだ~”とか馬鹿にされる、絶対。


「寝たふりをしよう。明日謝ればいいんだ。」


また携帯が鳴った。


東雲さんだ、見るしかない。


”もう寝ちゃった?”

”暇なんだけど:(”


.......


"起きてるよ"


暇なら...話してあげなきゃ、だよな。


"今塾終わったばっかで、疲れてるんだ"


疲れてる?ならなんで寝ないんだよ...。夜更かしをするのは楽しいけど、寝ろなんて言うのは興ざめだよな。偉そうなこと言う権利、俺なんかにはない。


何を返そうか悩んでいると、もうすでに10分が経過していた。仕方ないだろ、女の人と喋った事なんてほとんどないんだ。宿題の事なんかや、事務連絡レベルの話しか。


電話が鳴った。


「内山君、いるの?」


「...内山君?」


「...アッ...ウン。」


「なんで返事してくれないのよ。」


怖い...電話ってなんだか緊張する。きっと彼女は俺を見てる。電話は、特別な意味を持つ。彼女は俺を見ている。


「ごめん。突然だったからさ。」


「あなたが悪いんでしょ!寝ちゃったのかと思った。」


「なんて返せばいいのかわからなくて...」


「なんでもいいのよそんなの!友達でしょ、固くなる必要ないよ。」


「ウン...」


わかってるだろ。僕は君を友達としては見ていない。君は賢いのに、肝心なところで鈍感だ。


「東雲さん...今何してたの?」


「来週のテストの勉強。」


「来週の?」


「当たり前でしょ?週末は好きな事を楽しみたいし。」


案外真面目なんだな。テストは前日に徹夜して勉強するタイプだと思ってた。道理であんなに点数がいいわけだ。


「内山君は週末何してるの?」


何て答えようか、本当のことを言うとラノベを読んだり、ソファーに寝ころびながらアニメを見ているけど、そんなこと言ったら軽蔑されやしないだろうか?そしたら、もう学校で話しかけてくれないかもしれない。いや、それは言いすぎだとしても、恋愛対象として見てはくれなくなるだろう。ってことは...もう授業も邪魔されないわけだ。


「ラノベ読んだり、アニメ見たりしてるよ。」


「え!待って!なんていうタイトルのラノベ?」


東雲さんは急に興奮した口調で話し始めた。何があったんだ?


「いや..."検見さんは喋れないとか"...」


「私も見てるよ!」


「え?」


「主人公と検見さん、見ててじれったくなる。わかる?ほんとに見ててドキドキする。」


「いやそれな!それな!早く結婚しろ!ってカンジ。そしたら終わっちゃうんだけどさw」


「ふふ...あはは!」


「どうしたの?東雲さん。」


「好きな物話す時だけめっちゃ饒舌じゃん。」


「アッ...アッ...イヤ...ゴメン...」


あぁ、オタクの良くないところが出ちゃったよ。恥ずかしい...。


「もう遅いし、検見さんの話はまた明日しよ!じゃあおやすみ!」


電話は切られた。ったくもう...自分勝手だな。


でも大丈夫。


明日話せる、こんなに嬉しいことはない。




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