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#03 童貞はクズ宣言した



「昨晩は良く眠れましたでしょうか、異世界の方……?」


「その呼び方はやめてくれ、お姫さん。俺の名前は黒桐(こくとう)白哉(はくや)だ。ハクヤでいい。それとあんなに寝心地の良いベッドは初めてだった。流石は国王の住む城だな。壊さなくて正解だったわ」



 朝食が出来たと呼びに来たアンリエッタ姫の後ろを歩きながら、俺は改めて自己紹介する。あのビビリな国王なんぞより、このお姫さんの方がよほど話が通じるからな。

 〝勇者〟だの〝異世界人〟だのと記号で呼ばれるのはゴメンだ。



「わ、分かりましたわ。それでは〝ハクヤ様〟とお呼びさせていただきます。わたくしのことはどうぞアンリエッタとお呼び下さい。我が城をお褒め下さり、光栄ですわ」



 一度振り返った顔が引き攣って見えたのは、多分気のせいだろ。俺は俺の逆鱗に触れた国王を二度も許した、非常に慈悲深い男だからな。


 いくつあるのかも分からない沢山の部屋を通り過ぎ、どこまで続くか見当も付かない長い廊下を歩きながら、今度は俺から質問する。



「なあアンリエッタ。昨日も思ったんだが、侍従だかメイドだかは居ないのか? こんな道案内なんぞ、お姫様のアンタがすることじゃないだろ?」



 王族相手に言葉遣いが悪い? 何を今更なことを。

 こちとら転生召喚と同時に全裸を観られてるんだぞ? しかもそのままキレて大立ち回りまでしたオマケ付きだ。今更何をへりくだる必要があるってんだ。


 ちなみに今は普通に服を着てるぞ。

 別に露出癖がある訳じゃないからな。そこんとこ間違えんなよ。



「し、城付きのメイド達は皆怯えてしまっておりまして……。それに我等の都合で勇者として召喚したのですから、ハクヤ様は国賓……いえ、それ以上の賓客として(もてな)さねば非礼に当たりましょう?」


「ふぅーん? その割には出会い頭で大笑いしてくれたけどな?」


「うっ……! そ、その事は大変申し訳ございません……!」



 うん、やっぱりこのお姫さんは話が分かるな。悪い事を悪かったと素直に謝れるんだし、このお姫さんはきっと良い人なんだろう。だが国王、テメーはダメだ。



「もういいよ。城のメイドさん達には悪い事をしたな。人伝でもいいから、一言謝ってたって伝えてくれるか?」


「え、ええ……、お伝えしますわ。お任せ下さいまし」


「ありがとう。それにしても、貴賓室……っていうのか? 俺が泊めてもらった部屋や昨日の玉座の間に比べて、随分と他の場所は質素なんだな?」


「この〝グリフィオーネ王国〟は、魔王軍との戦さの最前線に当たりますので。いえ、正確には『最前線になった』と言うのが適切でしょう」


「……それまでの最前線を張っていた国は、いくつかは知らんが滅ぼされたということか」


「はい……。故に貴賓の目に触れない箇所の装飾や調度品などは換金し、国庫と併せて軍の強化資金に充当しているのです」


「戦時中の倹約策ってわけか、なるほどな」



 そんな風にこの国……グリフィオーネ王国を取り巻くあれやこれやを話しながら、俺はアンリエッタ姫に連れられて朝食の会場へと辿り着いた。





「……いや、おかしくないかコレ?」



 朝食の席に呼ばれたのは良いのだが、どうにも席順がおかしいと感じるのは、俺が異世界の日本出身だからだろうか?


 なんで俺が最上座に座らされてんだよ?

 あれだよな? 暖炉を背にした中央の席って、主夫人が座る最上位の席だよな? 普通のマナーだったら、たとえ俺が賓客だとしても主夫人の席の右隣りになるはずだよな?

 そんで国王アンタ、なんで対面の主人席に娘のアンリエッタを座らせて、自分は下座の左隣りに座ってんだよ?

 王位簒奪でもされたの?



「席次はこれで問題ございませんわ、ハクヤ様。魔王軍の驚異に晒されたこの国において、近衛騎士団全てを凌駕するお力を持ったハクヤ様が最上位となるのは、必然でございますから」


「う、うむ……! 王女の言う通りじゃっ。ハクヤ殿には伏して助力を請わねばならぬ身ゆえ、このような席次と相成ったのじゃ……っ」



 いや、悔しそうだな国王アンタ?

 こりゃあ昨日の失態を娘のアンリエッタに叱られでもしたか? まあ、知ったこっちゃないけど。



「そうか、俺の勘違いじゃないんだな。まあそれは置いといてだ、結論だけ先に言わせてもらうぞ? その魔王軍とやらの相手はもちろん請け負ってやる。ちょうど俺にもそれを果たさなきゃいけない理由ができたしな」


「まあ……!!」

「おおっ!!」



 そうとも。魔王軍をさっさと蹴散らしてこの世界〝ミドガルシア〟を滅亡の危機から救い、救済ボーナスで俺の祝福(ギフト)に付属する〝※童貞を捨てると消失する〟というデメリットを消してもらわないといけないんだからな!


 そうじゃなきゃ前世で29年も捨てられなかった童貞を、今世でも守り続けないといけなくなっちゃうもん!!

 うるせえ! 俺はセッ〇スがしたいんだよ!! 悪いか!?



「ただしだ!」



 頭の中でセルフツッコミを展開しながら、俺は対面に座る、身を乗り出しそうなほど喜んでいるお姫さんと国王に釘を刺す。



「いくら俺を国の最上位に置かれても、国政やら何やらには一切関与しねぇ。つーかズブの素人の俺に任せんなよ、絶対に。それと、もしアンタらの都合のいいように俺を扱き使おうとした時は……」


「し、承知しておりますわっ! 国のことはわたくしと国王に万事お任せ下さいまし! ハクヤ様には戦いに集中していただけるよう取り計らいます! そして誓って、わたくし共の勝手でハクヤ様の自由を損なわないことをお約束いたしますわ! そうですわよね、国王陛下!?」


「うえ!? う、うむ……! 娘の言う通りじゃ……っ!」



 国王……完全に娘にやりくるめられてんじゃねーか。

 ま、この国王なんかよりアンリエッタの方がよっぽど頼り甲斐があるから、良いとするか。



「それから……もう一つ」


「な、なんでございましょうか……?」



 もう完全にお姫さんが国の代表じゃねーか?

 まあいい。俺は昨日の決意と共に固めた願いを、今この場で宣言することにした。



「魔王軍を討ち滅ぼし、魔王を倒した暁には……。アンリエッタ、お前をもらう」





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