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いちたりない

妖怪「いちたりない」怖いですよね? 

きっと最強だと思って書いてみました。

「一歩足りないよお前」


驚愕に歪む顔、理解が追いつかない、そんなはずはないと言いたそうな表情、あーあ馬鹿だねー。そんなんだからお前は足りないんだ。あと一歩、あと一手、あと一秒、あと一点、それがどれだけ遠いのか、お前達は何にも分かっちゃいないんだ。その一を手にするためにどれだけのものを犠牲にしなければならないのかを理解していない。


「くそ!! くそぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 目の前の奴は強かった、そりゃあもう。きっとエリートって奴だろう、じゃなきゃそもそもここに来られない。足りないものをそうざらいして、ようやく見つけ出した、お前の「いちたりない」を。踏み込みの瞬間にある僅かなクセ、それを何百倍にも増幅して一歩の不足を生み出した。


「じゃあ、終わりだ」

「お前なんかにぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

「俺なんかで悪かったな、だが結局お前も「いちたりない」んだ」


 俺の貧弱な腕で顔を張る、それだけで奴は意識を失った。「いちたりない」状態は限りなく無防備、その状態なら俺がどんな攻撃をしても致命傷になり得る。まあ、いつか「たりる」可能性があるから殺したりはしないけれど。


「はぁ……なんだってこんな目に遭うんだ」


 何時だって思い出す、俺が妖怪「いちたりない」になった日を。


「うーん、妖怪「いちたりない」ね」

「は?」

「面白い存在だ、君はどう思う?」

「や、お前誰だよ。ここは子どもが入ってきて良い場所じゃないぞ」

「えー、いいじゃない。お兄さんだっているし」

「俺は仕事だ」


 いつもの日雇い、いつもの日常、クソみたいないつも。


「ねえ、お兄さんは足りてるの?」

「足りてるもクソもねえよ、足りねえよ金も運もなにもかも」

「ふーん、お兄さんはなりたい?」

「何にだよ」

「妖怪「いちたりない」」

「ようかい? それになれば俺も少しはマシになるかもな」

「なるんだね?」

「ははっ、それも良いかもな」


声だけしか思い出せない子ども、不思議と憎めない声音。どうして俺はこのときこんな事を言ったのか。


「じゃあなっちゃおうか」

「は?」


 足場が消えていく感覚、それと同時に無理矢理刻まれる力の使い方。


「これが妖怪「いちたりない」かぁ。面白い形になったね」

「てめぇ……!!? 何しやがった」

「うん? 君が言ったんだよ。見てよ、これ鏡」

「っ!?」


 鏡で見える俺の身体は右腕が欠けていた。


「腕っ!? 俺の」


 触れる……? あるぞ腕


「どうなってやがる……」

「五体の一つが常に欠けているんだよ、どのパーツを欠けさせるかは君の自由だけど。確かにこれは「いちたりない」よね」

「ふざけてんのか!?」


 戻った腕で掴みかかろうとしたが、足がそれを許さなかった。腕がある分、足が消えていたんだ。


「みぎあしがっ!?」

「あー消えてるね。そもそも触れないけど」


 身体が沈んでいく、何処に行くかも分からない下の方へ。


「じゃあ、僕の代理として裏側マインに行ってきて。大丈夫、君みたいなのがいっぱい居るから」

「お前、絶対にぶっ飛ばすからな……」

「やれるものなら、どうぞ?」

「くそ……」


 全身が沈んでいって、そして、意識が飛んだ。


「……足りねえ」


 何かが足りない、そういう感覚がずっとある。それが何かが分からない、空腹とかそういうものじゃない。なにかが足りない、なにかが、足りない。


「いちたりない……か」


 くそ、今は周りを見ろ、知らない場所で1人、危ないってことだけは分かる。


「……なかなかヘビーな状況だな?」


 あまりにも絶望的な状況だと人はむしろ冷静になるという。全く以てその通りだと思う、なんせ周りには武器を持った男達、完全に敵意むき出し。


「この化物め……!! 俺たちは悪党だけどよ、お前を倒さなきゃならねえってのは分かるぜ」

「そうだ兄弟、悪党でもやらなきゃいけねえ時はあらぁな」

「ああ、そうだ。やろうぜ兄弟」


 うわー、ボス2人がすげえやる気だもんな。これ、圧殺されるって。


「「やっちまえ!!」」


 どうしろって……ん?


「おまえらみんな「いちたりない」な」

 

 足りないところはたくさんある、手っ取り早いところは手だな。癖に古傷、不調に焦り、何でも良い。すぐにでも掌握できる。


「えっ!?」

「なんだ!?」

「獲物が届かねえ!?」

「どうなってんだ!?」


 武器は当たらない、あと少しで当たるけど絶対に届かない。当たるためには「いちたりない」足りなければそれは無意味になる。


「そんで、「いちたりない」相手はどうにでもできる」


 片腕しかない分面倒だが、軽くはたくだけで意識が落ちていく。


「あー、これはなかなか気持ちが良いな」

「化物めぇえええええええええええ!!!」

「お前も……」


リーダー格が来たか。へえ、足りない部分は手下よりも少ないな。それでもある、なら問題はない。


「やっぱり「いちたりない」」

「俺の攻撃が届いてねえ!?」

「まあ、足りなかったんだ。諦めてくれ」

「あぶっ!?」


 軽く撫でればそれで終わり、能力を使っているとはいえ呆気ないな。


「……死ね」

「お?」


胸から刃物が生えてきた、いつの間にか後ろに回られていたようだ。全然気づかなかった、妖怪になっても中身は変わってねえもんな。


「これも「いちたりない」」

「馬鹿……な。心臓を刺したはずだぞ!!」

「俺を化物と呼んだのはお前等だ、化物が心臓を刺されたくらいで死ぬかよ」


 そう、心臓を刺しただけじゃ足りない。死因には「いちたりない」んだ。まあ、もっと具体的に言うと生き残れる要素がある限りは死因にならない。生存確率0%にしてもらわないとほぼほぼ無効化できてしまうようだ。


「じゃ、お前も」

「はぶっ!?」


 倒れ伏す山賊達、立っているのは俺1人。


「ははっ、俺強えじゃん」


 楽しくなってきたな。




 








【いちたりない】

不足する可能性を極限まで拡大することで生まれる最悪の呪い。

いちたりない状態になったものは、何も達成することなく為す術無く倒れ伏す


「お前、「いちたりない」な」



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