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鉄拳令嬢アイアネリオン  作者: 青木のう
第2掌 軍人令嬢編
19/45

第17話 無法な侵略者も一発KO

「イザベル。社交界に顔を出さなくなったのは気になっていたけれど、まさか君が騎士団に入るとは驚きだよ」


 このカリナとか言う女、私を知っている……?

 イザベルの記憶から探すか……、えーっと、えーっと。あ、思い出した。


 カリナ・ケインリー。ケインリー侯爵家の娘で、イザベル――というよりアーヴァイン兄ちゃんの知り合いだ。どうやら兄ちゃんとカリナは幼い時から切磋琢磨してきた間柄で、彼女も兄ちゃんに負けず劣らず優秀だ。


 カリナはイザベルのことを友人の妹として可愛がっていたけれど、当のイザベルからは兄にひっつきまわる悪い虫と認識していて、一方的に敵視されていた。ま、優秀なカリナはそんなこと歯牙にもかけていなかったのだが。哀れイザベル……。


「あ、ああ。私には身体を動かす方が向いているかなと思って」

「ん? しばらく会わないうちにだいぶ口調が変わったかな? まあいい。イザベル、君の部隊に出撃してもらうよ」


 出撃……つまり実戦か。だがこいつらの訓練を始めてまだ一ヵ月。正直言って、統率のとれた戦闘集団とは言い難い。それに魔導鎧(マギアメイル)だって〈アイアネリオン〉一機だ。無茶言うな。


「知り合いに告げるのも心苦しいが、これが私のハートの騎士団団長としての仕事だ」


 このスタントン西方王国には、四つの騎士団が存在する。それぞれがトランプのマークになぞらえて、ハート、クローバー、ダイヤ、そしてスペードの四つの騎士団だ。私の率いるアイアネッタ隊はその中のハートの騎士団所属、そして最下層かつ最前線の部隊になる。


「君はこの部隊の隊長に着任してよくやっているようだが、ここはそういう部隊だ。君がこの部隊を望んだ以上、私は出撃の命令を下さねばならない。もっとも、君が後方の部隊を希望するのなら、私はその意向を尊重するけどね?」


 ……もしかしてでもねえ。こいつ、私を試してやがる。私がここでビビって、お飾り部隊への配属を希望するかを試してやがる。


「いや、いい。命令を承りました、ケインリー騎士団長殿」

「へえ、本当に大丈夫かな?」

「えー、ご心配痛み入ります。ですが結構。私にお任せください」

「……わかった。ではこれが命令書だ。武運を祈るよ」


 なめんじゃないよ。私が戦いの道を選んだのは、他でもない私自身の意思だ。最前線、最下級上等だ。私は私の拳で壁をぶち壊して見せる。



 ☆☆☆☆☆



「よろしかったのですか団長?」


 団長執務室。生真面目な副団長が、心配の色を顔に浮かべて問いかけてくる。


「いいのだよ。これで我が友アーヴァインへの義理は果たした」

「ですが王国の重鎮であるアイアネッタ家のご息女(そくじょ)を、最前線で使い潰すなどと……」

「選んだのは彼女自身さ」


 アーヴァインから頼まれたのは、妹であるイザベルを我がハートの騎士団に迎えいれてほしいということだけだ。それにアイアネッタ公爵の意向を忖度(そんたく)して、なるべく安全な部隊に配属しようとも試みた。義理は果たしたと言える。選んだのは彼女自身の話だ。


「ですが――」

「おっと、この話はもう終わりだよ。女が決めた男と生き方には口を出さないものさ」


 あのイザベルの目には確かに闘志が宿っていた。ちょっと前までそんなもの、彼女とはもっとも似合わない言葉の一つだったのに。


「それに、見てみたいじゃないか」

「……何をですか?」

「妹のイザベルの潜在能力ってやつをさ。兄であるアーヴァインはあれほどの男なのだよ? 同じような才能をもっていれば、あるいは……」


 品性劣悪の無能扱いされていた彼女が、騎士団へと入った。

 養豚場がお似合いだった体形は、格闘家のそれへと変貌していた。

 あとは彼女に才能と運さえあれば、戦場で生き残るかもしれない。


「武運を祈るよ」


 混じりっ気のない、本心からでた言葉だった。



 ☆☆☆☆☆



 私たちが命じられたのは、国境近くの山間部にしんとーしてきた敵部隊の迎撃だった。


「で、しんとー部隊ってのはなんなんだ?」

「我が王国へと越境侵犯してくる敵部隊の事ですわお姉様。つまり攻めてくる敵ですわ」

「お、そうか。サンキューアンナ」


 つまり単純に、攻めてくる部隊を撃破すればいいってことね。難しい言葉じゃなくて最初からそう言え。言葉は伝わらないと意味ないって言ってたぞ?


「偵察が戻りやした。敵は七十人ほどの歩兵です」


 こっちが私をいれて三十人ちょいだから、ざっと倍以上か。


「魔導鎧は?」

「ありませんでしたが、まず間違いなく後方にいるかと」

「ならこっちも魔導鎧は使わない」

「いいんですかい?」

「こっちが魔導鎧で目立てば、相手は確実に複数機やってくる。ロメディアスのやつらは多対一に持ち込む戦術なんだろう?」


 与えられた任務はしんとー部隊の撃破。魔導鎧は私たちの任務の対象外。なら最初から相手をしなければいい。


「なら夜襲ですかね? それとも隊長の魔法でまずは牽制を?」

「いいや、善は急げだ。今から突撃するぞ!」

「へ?」

「行くぞ突撃ー! 私に続けー!」

「えー!?」


 夜まで待っていたら敵が他の部隊と合流するかもしれないし、ここは早めに叩くに限る。大丈夫、人間の腕は二本あるんだ。なら両手を使って殴れば倍の敵とも戦える。


「お姉様ー! (わたくし)も行きますわー!」

「どうするジャン? このまま放って、あの凶暴な女が死ぬの待つかい?」

「馬鹿かカルロ! 大貴族の令嬢をほっぽって殺したら、例え俺たちが生きて帰っても縛り首だぜ!」

「そ、そんなあー!?」

「わかったら俺達も行くぞ! 絶対にあの野獣を死なすな。カルロの班は回り込め!」



 ☆☆☆☆☆



 ちょっと後ろを確認。……よし、ついて来ているみたいだね。集団の敵を相手する時は頭を狙う。目立つ服装――あいつか!


「《光の加護》よ! オラあああああ!」

「なんだ? 奇襲か!? 西方の蛮族共、まずは魔法で牽制するというセオリーすら知らないバカ共と見える。よい、まずは手本を見せてやろう|《火――キュオ!?」

「能書きばかり垂れて、バカは貴様だオラあああああ!」


 魔法を放とうとしたチョビ髭の指揮官を殴り飛ばす。魔法を唱えるより殴る方が早いんだよ。


「た、隊長殿ー!?」

「隊長殿が負傷された!?」


 狙い通り、敵の集団は浮足立つ。


「隊長! ご無事ですかい!?」

「ジャンか! 当たり前だ。それより敵は頭を失って浮足立ってる。攻めろ!」

「へい! 野郎ども、攻撃開始だ!」


 ジャンの掛け声で、部隊は動き出す。なんとか軍隊の体はなったかな。


「よし、さっさと蹴散らして魔導鎧が出張ってくる前に帰るよ。カルロは?」

「カルロの班は回り込ませて側面を守らせてやす!」

「わかった。アンナは魔法で援護!」

「わかりましたわ!」


 頭を失って大混乱に陥った敵兵を、私たちは散々に打ち破った。

 そして、引き際を見誤らずに撤退に成功した。


 結果、私の率いるアイアネッタ隊はこの初戦において、敵隊長の捕縛を含む戦果多数で損害ゼロと、赫奕たる戦果を挙げることになった。


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― 新着の感想 ―
[一言] つまり両脚と頭(物理)を使えば五倍の敵とも戦えるって言う寸法ですね隊長?
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