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鉄拳令嬢アイアネリオン  作者: 青木のう
第1掌 転生令嬢編
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第11話 鉄の拳アイアネリオン

 楽しみだ。本当に楽しみだ。今日は兄ちゃんに頼んでいた私専用の魔導鎧(マギアメイル)が到着する日だ。楽しみ過ぎて普段六時起きのところ、三時に起きた。


「イザベルちゃん、今日は何だかご機嫌ね?」


 魔導鎧の事は、イアンお父様とアイリーンお母様には一切話していない。絶対反対されるし、兄ちゃんからも口止めされている。


 ここは魔導鎧を手に入れたという既成事実を先に作って、私がどれだけ本気なのかを示すべきだ。


 ああ、でも本当に楽しみだ。前世の子どもの頃は、孤児院にいたから個人の所有という概念は薄かった。おもちゃや自転車、それに運動用具なんかは全部共有の物だった。


 私専用。なんて甘美な響きだ。

 頭の中はそんな事でいっぱいだから、フォークに突き刺したハムの行き先は迷子だ。


「イザベルちゃん!? そこはお口じゃなくてお鼻よ?」


 ああ、楽しみだなあ。



 ☆☆☆☆☆



「まだかなまだかな」

「もうそろそろのはずだよ。ほら」


 アーヴァイン兄ちゃんが指さした先には、多頭立ての馬車が土煙をあげながらやって来ていた。その後ろには荷物を引いている。あれか!


「やあ我が友ローレンス。待っていたよ」

「おお、我が友アーヴァイン。天才たる僕の出迎えありがとう」


 馬車から降りてきた男は、黒髪を整えずにボサッとした頭をしている。まるで今起きました言わんばかりの格好だ。私が言うのもなんだが、身だしなみに無頓着なんだろうな。


 けれど眠たそうにしている顔は結構整っていて、意外に小綺麗にすれば貴公子然とするかもしれない。


「で、彼女が君の妹かい?」

「ああ、紹介するよローレンス。俺の妹のイザベルだ。イザベル、こちらはローレンス・ロアイシーガ。俺の友人の魔導鎧鍛冶師(マギアメイルスミス)だ」

「ただの魔導鎧鍛冶師ではなくて、天才魔導鎧鍛冶師だ!」

「ああすまない。さあイザベル、挨拶を」

「初めましてローレンス様。よろしくお願いいたしますわ」


 何だか変なやつだが大丈夫か?

 とりあえずスカートの端をつまんで、貴族の礼儀に則った挨拶をする。


「ふーん、君がね。噂に聞いていた感じと違うな。もっとエキセントリックかと。堅苦しい挨拶は抜きで良いよ。僕もするつもりはないからね」

「そうか、ならよろしく頼むよローレンス。早速だけど、魔導鎧を見せてほしいんだけど」

「ハハハ、そっちが君の素か。いいねえ、じゃあ早速」


 ローレンスはそう言って、荷台の幌を取り払う。

 するとその下から膝立ちの巨人が現れた。魔導鎧だ。


 グレゴリーの〈ロックザロック〉は紫色でゴツゴツとしていた武骨なフォルムだったけれど、それとはまるで違う。まるで女性用の騎士甲冑を思わせる銀色に輝く本体にを中心に、繊細な飴細工(あめざいく)のような金色のパーツが渦巻くように装着されている。


 ずんぐりむっくりだった《ロックザロック》に比べてすらっとした体形。細く感じる手を持っているが、その割に拳は大きい。


「さあどうだい? これが天才たる僕の造った君専用の魔導鎧さ!」

「……なあこれ大丈夫か? いかにも()()()()()な外見をしてるけれど」


 こんなんじゃ拳一発叩き込むごとに壊れそうだ。


「何を言う、この天才の僕が君の兄さんから貰ったオーダーを間違うはずがないだろう? 君は格闘戦を主体としたい、違うかい?」

「違わねえけど……」

「じゃあ早く、乗って試してみたまえ! さすれば僕が天才たる所以を心の底から味わうであろう!」


 乗ってみろって言ったって乗ったことないし……。

 兄ちゃんはそんな私の心を見抜いてかニコリと笑って、


「イザベルは乗馬の経験があるだろ?」

「はい」


 授業の一つでやった。前世では乗ったことなかったけれど、乗ってみるとかなり楽しいもんだった。


「魔導鎧に乗ることは乗馬に似ている。大丈夫、イザベルならすぐに乗りこなせるさ」

「わかった。やってみるよ兄ちゃん」


 うん。女は度胸、そして根性。ビビらないでやってみる。

 私が操縦席のハッチを開けると、すぐに兄ちゃんの言っていた意味が分かった。まるで乗馬マシーンかバイクのような操縦席。バイクと違うのは、ハンドルに当たるグリップつきの籠手が一本ずつ左右から伸びているところだ。


 私は操縦席にまたがると、籠手に腕を通してグリップを握る。


『聞こえるかいイザベル?』

「あ、うん。聞こえるよ」


 操縦席にアーヴァイン兄ちゃんの声が響く。

 無線通信――じゃなくて風魔法で声を届けているのか。


『グリップを通じて魔力を注ぐんだ。そうしたら足もとのペダルを踏むと立つ。後は直感的にいけるはずだよ』

「わかった」


 言われた通りに魔力を注ぎこむ。

 確かこうやって注いだ魔力を魔導コアが増幅して動かすんだっけか?


 魔力を注ぎこむと、目の前の景色が見えるようになった。前世で言うマジックミラーみたいになっているはずだ。そして足元のペダルを思い切り踏み込む。


「よし、立った」


 ぐっと目線が高くなった。

 私は直感の赴くままに操作して、魔導鎧を荷台から下ろし、大地に立つ。


 手も動く。足も動く。顔も動く。グレゴリーが人機一体と言っていた意味がなんとなくわかる気がする。まるで自分が巨人になったみたいだ。


『どうだい? 普通の魔導鎧と違って、君の手足のように動くだろう?』

「悪いけれど他の魔導鎧を動かしたことがないからわからない。けれどキッチリ動いてくれている」


 そう返しながらも私は、拳を突き出してみたり、蹴りを入れるモーションを試してみる。私が生身で動くのとそん色のない動きだ。


『なんて言ったって君に合わせてこの僕が造ったんだからね』

「なんだよ。今日会うのが初めてじゃんか」

『僕程となると会わなくても合わせられるのさ。だって天才だからね』


 うん、まあ天才を自称するだけはあるんだろうな。


『さあ次は性能評価といこうか。僕の放つ魔法に対処してね。《巨岩大砲(きょがんたいほう)》!』

「えっ……うおっ!?」


 言うが早いか、ローレンスの方から巨大な岩石が飛んでくる。

 避けられる距離じゃない。私は拳を突き出し、岩は砕けた。


「危ねえじゃねえか!」

『でも君の言う()()()()()の魔導鎧は大丈夫だっただろう?』

「あ……」


 そうだ。金色のぐるぐるがついていかにも壊れそうなこの魔導鎧は、少しもダメージを受けていない。


『その渦巻き状のパーツはね、君の光の魔力を感じて硬化するのさ。さらに――《天地灼熱(てんちしゃくねつ)》!』


 今度は炎が迫ってくる。私はそれを手で振り払う。すると炎は霧散して消滅した。


『さらにそれは、ある程度の魔力なら拡散して消滅させることができる。遠距離から放たれた魔法なら防御魔法も必要ないし、接近する時もある程度なら耐えられる』

「おおっ!」

『やっと理解したようだね。敵の魔法を撃ち消し、高速で接近、自慢の拳を叩き込む。君のバトルスタイルに合わせてこの僕が設計した機体の芸術性が!』


 す、すげえ!

 すごすぎるこの変態――天才!

 まさに私にピッタリの魔導鎧だ!


『さあ、その素晴らしい芸術作品に名前をつけたまえ。かくして君の専用機は完成する』

「わかった! じゃあ私専用のデカいやつだから……〈デカイザベル〉で!」

『ぬわんだそのネーミングセンスは!? もっと僕の作品に相応しい名前があるだろう!』

「じゃあ……〈ウルトライザベル〉?」

『自分の名前から離れたまえ!』


 ええ……、でも私専用機だから私の名前をいれたいし……。


『じゃあイザベルの鉄の拳とアイアネッタの家名からとって〈アイアネリオン〉はどうだい?』


 と、提案したのは兄ちゃん。


「〈アイアネリオン〉か……。うん、気に入ったよ兄ちゃん!」

『さすがは我が友アーヴァイン。いい名をつけるじゃないか』


 ローレンスも納得したみたいだし、めでたしめでたしかな?

 その時、屋敷に一台の馬車が入ってきて、降りた男が一直線にやってくる。

 お父様だ。お母様と出かけていたけれど、帰って来たのか。


「アーヴァインこの魔導鎧はなんだ?」


 お父様は〈アイアネリオン〉をいぶかし気に見ている。

 ここはもう覚悟を決めるしかない。私はハッチを開けて顔を出した。


「お父様! 先日お話した通り、欲しかった物を買いましたの!」

「イザベル!? それを……買った? いや、なんで私の娘が魔導鎧に乗って……うーん」

「うわっ! 父上!」

「お父様!」


 お父様は目の前の現実を受け入れることができなかったのか、ドサッと倒れてしまった。慌てて助け起こすお兄様。これは緊急家族会議の予感だな。


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