第1話 その顔面に右ストレート
よろしくお願いします
☆☆☆☆☆は場面転換です
「ウィナーァッ!!! チャンピョンッ!!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」
歓声が、称賛の声が私に浴びせられる。これこそが最後まで立っている者のみに許される、勝利の美酒というやつだ。
ここは裏社会の闘技場。表社会とは隔絶した強者たちがしのぎを削る。私はその女子チャンピョン。無敵の女王、人類最強の女として君臨している。
「嘘だろ……、“シベリアの赤き荒熊”が瞬殺だと!?」
私の目の前でのびているコイツ、そう言えばそんな異名を持っていたんだっけ?
まあ、私の敵じゃなかったね。
私が何故こんな裏社会で生きているか?
理由はシンプル、金を稼げるからだ。
私は孤児として生まれ、孤児院で育った。そして格闘家としての才能を今のコーチに見出された。多くの金が動き、ファイトマネーをたんまりと稼げるこの闘技場は私にとって好都合だ。表の格闘会と違ってクリーンな縛りはないからね。ただ敵をぶちのめせばいいこっちの方が私には向いている。
「女王、サインしてください!」
「ああずるい! こっちもお願いします!」
「わかったわかった、並んだ並んだ」
強さこそが正義の裏社会。無敵の女王の私にはファンが多く、毎度こうやって裏社会を生きるいかつい男女が列をつくる。
「チャンピョン、花束をどうぞ」
「ああ、ありがと――」
私に花束を差し出した女の瞳が怪しく光った。
――コイツ、ヤバい。
だが、さすがの私も試合直後で気が緩んでいたのか反応が遅れる。女はその隙を見逃してはくれなかった。
――パン、パン。
乾いた音が二度響き、私の腹のあたりから温かい液体があふれ出す。見れば目の前に突き出された花束の中央から、鈍く黒く光る物が突き出ていた。銃だ。
「きゃあああああああああっ!!!」
「チャンピョンが撃たれたぞ!!!」
気がついた周囲の人間が女を取り押さえ、私の下へと駆けよる。
ああ、痛い。痛いと言うより熱い。腹に二発食らった?
クソっ、畜生、油断するなんて私もドジ踏んだものだ。
「あはは、あははははははは!!! ざまあないわね!!!」
私を撃った女は取り押さえられながらも、狂ったように笑う。
私に恨みをもつ人間?
生まれてこの方、恨みと喧嘩はアホみたいに買ってきたから、心当たりが多すぎてわからない。
「クソっ……、畜生……」
もう声もまともに出ない。医者を呼ぶ声が聞こえる。
畜生、銃なんてつまらねえもの使ってくれやがって……。
恨みがあるなら殴りにこいってのよ……。
嗚呼、欲しい。
何者にも撃ち抜かれない、鋼の身体が――。
嗚呼、欲しい。
どんな壁だってぶち破る、鉄の拳が――。
そう考えたのが、私の人生最後の記憶となった。
☆☆☆☆☆
「――!」
……なんだ?
私は確かに撃たれてそれで……、つまりここは病院?
いや、少なくともベッドの上じゃない。私は立っている。
「――でしたか? 貴女のその下劣な行いが――」
私は落ち着いてゆっくりと目を開けた……が、どこよここ?
――パーティー会場だ。
いや、比喩表現じゃなく。
ドレスや燕尾服で着飾って飲み食いするあのパーティー。間違いなく私の周囲でパーティーが行われている。そして私も何故かドレスを着ている。
なんじゃこりゃ、夢かな?
それともここがあの世なのかしら?
「――よって僕は貴女の様な女性とは――」
そして目の前でさっきから喋り散らしている男は、輝くような金髪にエメラルドグリーンの瞳、すらりとしたスタイルに整った容姿。どっからどう見ても日本人には見えない。外国人モデルか?
いや、目の前の男だけじゃない。私たちを囲むように立っているパーティー服の男女は、みんな日本人には見えない。全員十五、六くらいの外国人だ……って待て――、
――私の身体も私じゃないっ!!!
え? なによコレ!?
いつから私はこんなちょい肥満気味の女になった!?
いつから私の髪の毛は長ったらしいプラチナブロンドになった!?
いやいやいや待って、これは夢?
今頃私は病院で生死の境をさまよっているとか?
「聞いていますか? 僕はあなたに言っているのですよ、イザベル・アイアネッタ!」
イザベル・アイアネッタ……それが私の名前なのか? どうも人違いですって雰囲気じゃないみたいだし、なんか薄っすらとそんな名前だった気がするような……?
「だいたい貴女はですね――」
目の前のモデル男は、またくどくどと喋りだす。
なんなんだコイツ? さっきから聞いてりゃ男のくせにネチネチクドクドと、私……というかイザベル・アイアネッタの悪口ばかり言ってくれちゃって。玉ついてないのかな?
「――性格が――品性が――」
ああもう状況はわけわからんし、私的にはさっき撃たれたばっかりだしでイラついてきた……!
「ゆえに僕、スチュアート・スタントンは貴女との婚約を破――グベシッ!?」
「ごちゃごちゃうるせえ―――――――――――――――ッ!!!!!」
何を言おうとしたかはわからない。けれどなんか知らんけどムカついた。
――だから私は、渾身の右ストレートを目の前のモデル男に叩き込んだ。
モデル男は空中できりもみして吹き飛び、「ぶべっ」とかよくわからない音を上げて倒れ伏した。
ったく、この程度でノックアウトとか鍛え方が足りないよ。
「きゃああああああああっ!」
「うわあっ! 王子!」
「アイアネッタ公爵令嬢を取り押さえろ! 殿下が殴られたぞ!」
会場は阿鼻叫喚の渦に叩き込まれた……というか叩き込んでやった。周囲の男達が、私の身体をガバッと取り押さえる。
さっきとは逆の立場ね。だけど私はムカつくやつは自分の拳できっちり殴る。そういうスタイルよ。武器に頼るハンパな覚悟でリングに上がっていないわ。
「くそっ……、放せッ!」
「反逆者め、大人しくしろ!」
なんか知らんが押さえつけられている以上に身体が重い。クソっ……、こんな男五、六人程度、いつもの私なら楽勝なのに……。そんな事を考えながら、私の意識は再びブラックアウトしていった。
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