1-1-1-30 アイニーの決意
私は、竜の娘だ。
お父さんは湖の主と呼ばれていた。サガラと呼ばれていた。
大海の主に与えられた名前だそうだ。
大海の主もサガラと呼ばれていた。
お母さんはリュネと呼ばれていた。人間だったが、強い絆でお父さんの前に生まれて生きてきたそうだ。
お父さんとお母さんは、幼馴染だったそうだ。
そんな両親から私が生まれた。
竜は切られても死なない。病気もしない。
竜は竜魂が破壊されると死ぬらしい。それか寿命。まさかあの時、父が食われてしまうとは……。竜魂も砕かれた。母も食い殺されてしまった。
-----
シャープロは去った。
治療をしてくれた女子生徒のモンシュと共に、私はクラス5に向かった。すると、誰かが槍を構えて襲ってきた。
人間は私のほうへ来て、お腹へ槍を刺してきたが、深く入ってこなかった。
「私に刺したいの?」
「くそっ! シャープロ先生がクラス5の畜生を連れて行ったから殺そうと思ったのに。全然……ひえ! どうしてそんなことをする!」
私はグリグリと槍を回して奥に入れた。
「私は平気だから」
「あー! そんなことするの!?」
モンシュは治癒を行なった。
「モンシュ。大丈夫だよ。私より、あなたが心配だわ」
槍を引き抜いて、生徒に返した。
「あなた、名前は?」
「いやいやいや………ぎゃーっ!」
生徒は逃げてしまった。
「君はあの時ステラと一緒にいた子だね」
聞いたことのある声だ。ワタルとか言ってたか。
「ワタルですか?」
「そうだよ」
「クラス0の生徒様じゃないですか……」
モンシュの後ろにいた女の子が震えた。
「ああ、この紋様ね。後ろの君たちの反応が本来正しいんだけど、洗脳が効かないみたいだ。どうしてだろう」
「あなたがこの世界をめちゃくちゃにしたんですか⁉︎」
モンシュ?
すごく怒っている。
優しそうな目が怒りでつり上がっている。
「絶対に許さないんだから!」
モンシュを止めようとしたが、私は自分を抑えた。
人間は脆い。
私が無理に力を加えたら、腕が取れるかもしれない。
「いや、すごいな。俺の技が効かない人がいるんだね。この世界を回ったけど、君みたいなのと顔合わせさせてくれなかった創造主を恨むよ。今更なんなんだろう。このクソ設定……」
ワタルも怒っていた。
モンシュが腕を上げて平手打ちをしようとしたが、ワタルはそれを止めた。
「これ、モンシュの物語じゃダメなのかな……ステラといい、お前といい、何なんだよ。全く! 俺は早く消えたいね」
「何でこんなことをしたの!」
「俺は別に何も考えてないさ。俺が主人公になって無双できると思ったら、もっと強い奴が出てきて、困ってるんだよ。現実も異世界も俺はもうどうでもいいよ」
この人は何で人生を諦めているんだろう?
異世界とは何なんだろう?
私の取るべき行動は、まずはこの人を救うことなのかもしれない……。
「大丈夫。危害は加えないから。ただ、見にきただけ。竜の娘か。確かあの本にも竜の娘のことが書いてあったな。もう破り捨てたけど……現実は男も女も別々で何でもかんでも別々で、別々のことをしているだけでいいからね」
「この先どうするの?」
「まあ、気ままに生きるよ。適当に人を殺したいときは派手に殺させて、良いことをしたいときは良いことをするよ。それが人間だよ。本来のね」
ワタルの歪みは向こうの世界で作られたもののようだ。
「異世界とは何?」
「俺は別の世界から来た。ここの世界とは別に世界があるんだ。向こうの世界では自殺した」
「そうだったの。そういえば、私、あなたに感謝してる。あの竜を殺してくれてありがとう。でも、この世界の平穏を奪ったことは許せない」
「あー、あの竜ね。うん。まああそこにステラを置いていきたかったからね。あんな竜でも、ステラは瞬殺かもしれないけどね。すごい世界だよ。ここを創ったのは何者なんだろうね。向こうの世界ではあり得ないことが起こせるから楽しいけどね」
「そうでしょうね」
モンシュが泣いている。
「何でいきなりお前は泣いてるんだ?」
「あなたが1番可哀想だからよ!!」
「俺が? ……また会いに行くよ。俺が主人公になるためにね」
ワタルは風のように消えた。
モンシュは今も泣いている。
ワタルは可哀想だ。
何もこんなことをしなくても良かったのに……。
この世界を歪ませるわけにはいかない。
みんなと一緒にこの世界を取り戻す!




