1-1-1-28 グリドラーの思い
シャープロという男の行動。
いつ見ても人は不思議な行動を取る。
アイニーは竜だが、人の身なりをしている。
もしかしたら何か別の種族だと分かっているのかもしれない。私たちは人間から見たら畜生に過ぎないのだろう。それならそれで良い。
アイニーは充分に強い。
今は手出しをしないようにしておこう。
それにしても、クラス5というのは臭いが酷い。身体的な臭いと、精神的な臭いが、酷い。
もし私が魔人であるなら、この臭いこそ、私の餌になるのだろうか?
しかし私はそう感じない。
昔の姿だったら、そう感じただろうに。
私の仲間は多くが命尽きてしまった。
約100年ほど前だったか。
それは、メアリー・ベリーの手によるものだ。
もう覚えているのは、メアリー・ベリーが再び私の元に来た時だった。
私は、メアリー・ベリーにとって、敵に値しないと思われたようだ。
私は、憎悪よりも諦めの気持ちで、彼女を見ていた。
しかし、彼女はあろうことか、私にいくつか魔法を教えてくれた。
守護結界などだ。
すぐに使えるようになった魔法もあれば、何度も練習して、ようやく使えるようになった魔法もある。
それは3年ほどの出来事だった。
「あなた、元は年取った鷲のようね。私と同じ歳くらいみたい。40歳くらいかしら。でも、今はもう鷲ではなく、何者なのか分からないようね。あなたに独り言を話すわね。私はアーリマンを滅ぼしたかった。そうすれば、どこからか滲み出る混沌が少しは減るだろうと思ったから。でも、無理だった。私はもうすぐ死ぬ。私はアーリマンを滅ぼせなかった。混沌はアーリマンには無かった。アーリマンは混沌を作り出したと言っていいかもしれないけど、ふふふ……そんなアーリマンこそ、混沌から生まれた心のある人間みたいな存在なんだよね。魔物は……何だったのかしら? 何で人間はアーリマンを滅ぼせないのかしら……。その原因は私にあった。だから私は私自身を封印する。この世界に作り出した魔神の間に。そこで見ていてね。何もできなかった、アーリマンの最期を……」
何かの結晶が地上に謎の現象を起こした。
地中深くに巨大なダンジョンを生み出したのだろう。
その最下層に魔神アーリマンは封印された。私の父であり母である。
私は、その時の出来事を覚えている。
思い出すと心の奥で涙が出てくる。
父は命を殺し尽くそうとした魔の神アーリマン。
母はアーリマンになるべくしてなったアーリマン。
そう考えたほうが良いだろう。
40歳くらいの鷲。
400年前に父を見つけた魔人。
100年前に母を見つけた魔人。
なんて短いんだ。
人間はその生の中で無駄なことをしすぎる。
アイニーはそれを知ることになるだろう。
竜の寿命は遥かに長い。
シャープロは……人間だ。
シャープロ自身、自分が、自分たちが普通の人間だと、分かってくれないだろうか……。




