1-1-1-20 グリドラー
アイニーは、グドラクータについて話した。
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グドラクータ。
かつて人の王なる人が人々を集め、この世界の法則性を説いた場所。
そこで、何百万、何千億の世界の住人が一瞬のうちに法則性を理解したと言われる。
しかし、時が経ち、忘れられた法則性。多くの人の平穏な日々が不思議なことに呪いと憎悪を生みだした。魔神アーリマンは内なる世界から外へと進出し、世界の混沌を深め、地上に魔物を生み出した。かつて生きていた生き物は多くが命を染められている。
この山はその1つ。
何百年も前に魔神アーリマンに侵されてしまった山。
原型を留めた生き物が、襲ってくる場所。
本当か嘘か分からないけれど、その生き物たちは知性を持ち、世界の混沌を深めるために生きているとも噂されている。何百年も何も起こってないから、何も起こらないだろうけど。
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「そんな山があったんだ」
幼い頃からステラはダンジョンにいた。
学園に通ったのも、何週間。
まだ知らないこともあった。
「この山を越えないといけないんだよね。大丈夫な気がする」
ステラは落ち着いていた。
「ステラと一緒なら大丈夫な気がするわ」
アイニーは、ステラの手を強く握り、山の中へ入っていく。
グドラクータはその周辺にある高い山とは比べものにならないほど小さかった。
その山には草が生えているだけで森も無かった。
小さな人影が出てきた。
「ここに生き物が生きているとは思えないけど、あのハゲた鳥のおじさんは何かを知ってそうだね」
アイニーは驚いていた。
「ステラ、あれはおじさんではなく少年だし、ハゲてなんかないわよ」
「おお!ぼくの姿が見えるのか!?」
ステラとアイニーは少しずつ近づいていく。それはステラより背の低い少年だった。
「君たちは何者なんだい?」
「私はステラ。今、この子の家を探しているの」
「私はアイニー。あなたは何者なの?」
「ぼくはね。グリドラーという名前の人間だよ。まあ、君たちには姿が見えるから教えておくけど、ぼくはアーリマン様を父とする魔人なんだ。元はハゲた鷲だったけどね」
「グリドラーさんは、この世界を混沌にしたいですか?」
ステラはストレートな質問を投げかけた。
アイニーは、ステラを見ていた。
「ステラ!?」
「いい質問だね。ぼくがいなくても世界は混沌だ。混沌が生み出す命の営みに、いや、混沌をもたらす命の営みに、ぼくは不用意に関わろうとはしていない。この400年の命も、何のための命なのか分からない。ただこうして、世界を見つめているだけの人生で、いいみたいだ。アーリマン様はどういう目で見ているか分からないけどね。こうして見ていると思うんだ。
何秒から、何百、何千、何万、何億年とかいう単位で変わる、生命の生き様は、まさに、命そのものだと思うね」
「生命の命が歴史……」
アイニーは頷いた。
「うわあ、難しいこと言うなぁ」
ステラは頭を押さえて考えていた。
グリドラーは言った。
「ステラ、アイニー、君たちはどこから来てどこへ行くんだ?」
「まだ探索中です」
「私もです」
「 確かここに法則性を書いた本があるんだ。誰が書いたのかは分からない。そして、誰かが取り出してしまったんだ。その人は笑っていたね。『現実世界にもこんな本が名だたる宗教に用いられていたような。誰かが、ただ誉めるだけで、価値のない本だと言っていたような。漢字ばかりで読めなかったけど、何となく俺もそんな感じの本なんだろうなと思ったなあ。まあでも、この本でみんな魅了されるかもな。そこに神秘性と階級を設ければ、この世界なんて楽に支配できる』と。その子は南の方から来て、ぼくは呆気なく倒されてしまったんだけどね」
アイニーは泣いていた。
ステラもアイニーを見て泣いた。
「何で泣くことがあるんだい?」
アイニーは言った。
「そうね。誰かに何かを奪われるのは自分で何かを無くすことより辛いと思ったの」
ステラは頷いた。
「そうだよね」
「まあ、恨まれる真似をしていたのはアーリマン様だからね。アーリマン様は、たくさんの人を殺した。それを知っているから強く尊敬できない。でも、ぼくを生んだのはアーリマン様だ。そこだけは変えられないんだ。安心して。アーリマン様が魔神と呼ばれるようになったことをぼくはしないから。魔神から生まれたから魔人と名乗るけどね」
グリドラーはアイニーとステラに言う。
「君たちと一緒に行かせてくれたら何もしないよ」
アイニーとステラは悩んだ。




