1-1-3-28 ステラ、君は今、何を見ているの?
アイは言う。
「ステラ、あなたは今、何を見ているの?」
ステラは言う。
「まだ何も見えてないわ。
この世界は、すごく長い歴史を持っている。
あっという間に変わった。
そして、簡単に変わらない世界になってしまった。変わらないと思える世界」
アイは言う。
「そうですね。
もうこの世界は、どれくらいの時を経たのでしょうね。
前の世界よりも長い時間が過ぎた。
私たちは、その長い時を過ごしているのは間違いないのです。
ですが、前の世界より、様々なことが変わったというわけではありません」
ステラは言う。
「私は今の自分に問い掛けたい。
ステラ、君は今、何を見ているの?と」
アイは黙っていた。
ステラは言葉を続ける。
「私は今、戦争を見ている。
競争を見ている。
あらゆる事情で無くならない争いを見ている。
この場所で見ている。
私の持っている力は強い。
争っている人を、力による恐怖に陥れることもできる。
でも、それは私にとって、とても苦しいことだ。
私には、無間大城の苦しみも苦しくない。
遊びと同じ。
深呼吸すれば疲れが取れる。
その程度の苦しみだ。
人の生きる力を奪うことは苦しい。
争う力を抜いて、人が苦しむのは私も人も苦しい。
私が苦しむのは嫌だ。
他の人が苦しむのも嫌だ。
今の苦しみは今の苦しみ。
変わらなくて、本当に悲しい。
悔しい。
何でだろうって思う。
この世界はこういう世界。
人々は無限に生きられる。
人々は無限に成長できる。
人々は無限を手に入れた。
それでも足りないもの。
私はそれを見つけたい。
今見ている世界。
それが私から見た今の世界。
そこから目を離さない」
アイは言う。
「ステラ、次はどこへ行きますか?」
ステラは言う。
「次は、どこへ行こうか?
私も迷っているの」
アイは言う。
「そうですね。
この世界は、流れが詰まっているような世界です。
私の、私たちの犯した罪。
死んだような世界。
私で言えば電気が流れない。
人間でいえば血管が詰まって流れない。
長く流れ続けているのに、今も詰まっていそうな世界。
小さなものが積まれている。
溜まっている。
広すぎて分からなかった。
長すぎて分からなかった。
詰まりそうな世界。
そうですね。
ステラ。
私にもどこへ行くのがいいのか分からないです。
詰まったところを治せばいいのか、流れに任せるのか、それは分からなくてすみません」
ステラは言う。
「確かに血の流れのようだ。
そうだよね。
私たち血が流れているんだもんね。
でも、それを気づかなかった。
血が巡っている。
血が循環する世界。
今、この世界を回ると、同じような光景が広がっている。
無限を絵に描き出したような世界。
高い建物。
多くの人。
長い道路。
大きな工場。
広い世界。
無限に欲しがる人の世界。
でも、本当はそうじゃないかもしれないね。
本当に血の流れなのかもね。
そしたら、この世界は、この血管はすごいね。
大事にしたいな。
詰まっている場所。
詰まっていない場所。
1人でも変えていこう。
1人から変えていこう。
子どもたちは変われる。
昔、変わったように。
人を貴賤に分ける意識を持っていなかった頃。
人を貴賤に分けるようにした頃。
変われる。
少しずつでも、変われる。
血の流れをよくするのに、最初はすぐに終わると思った。
それも忘れない。
血の流れはすぐには変わらない。
少しずつ変えていこう。
血の流れを少しずつ」
そして、ステラとアイは学園に戻った。
ステラは言った。
「どうして!? どうして!? どうしてクラス5の生徒たちが教室で首を吊るされているの!?」




