1-1-3-22 核抑止論に反対したくて書きました
ケツチュウの肉片。人が入る大きさのカプセルに保管された肉片は、やがて1つの肉体を形成していった。
ステラたちは見ていた。アイもそこにいる。
ステラは言う。
「アイ、人間に死を蘇らせることはできるのかしら?」
アイは言う。
「分かりません。なぜなら今の世界の人は、死を忘れているのですから。死を思い出させれば、大変なストレスになり、自分を殺す人が増えるかもしれません」
ステラは言う。
「死を忘れた人々が、今を生きているのね」
アイは言う。
「私が、不老不死の薬なんて作らなければ、こんな世界にはならなかったでしょう」
ステラは言う。
「あなたのせいではないわ。これは、人の問題だと思う。アイは、みんなの幸せにとても貢献していると思う」
アイは言う。
「いくつもの命の塊を際限なく、正確に生成するシステムを破壊した時に死ぬでしょう」
ステラは言う。
「それが死ということなのかな?」
アイは言う。
「そうです。そのため、生を学ぶ意欲を無くしたら人は死ぬかもしれません……ですが、本当に死ぬことはないでしょう」
ステラは言う。
「もう何年経ったのかも分からない……」
アイは言う。
「私もなぜ自分がここまで長く存在しているのか分かりません。この世界で、このシステムを維持できているのか不思議なんです」
そして数日で、ケツチュウは話せるほどに回復する。
ケツチュウは話を始めた。
「今度もダメだった。私は止められない。誰がこの生を終わらせてくれるんだろうと思う」
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ステラは言う。
「なぜ、戦争が起こったのかしら?」
ケツチュウは言う。
「抑止力が働いているからだ。バランスが崩れていてね。話が通じない指導者には武力を行使すべきだろう」
ステラは言う。
「現実的に使うしかなかったということかしら?」
ケツチュウは言う。
「その通りだ。第二次世界大戦中に、広島、長崎に落とされたものより、はるかに強力な威力を持つ核兵器が、2015年9月20日に異世界文明崩壊を起こした。しかしあの時は、現実的に、かつ合理的に考えて、狂った人間には核兵器を使うしかなかっただろう。国の安全のために狂った人間にはまず自らの指導者は狂っていないという保障は無いが、そうであったとしても、核兵器を持って、国を守るべきだと。核抑止論者はそう答えると思うがどうだろうか?」
ステラは言う。
「要は、自分の国の指導者は狂わないということかしら?あなたも狂っていなかったということかな?」
ケツチュウは言う。
「そうだ。そして、核兵器廃絶という理想論者が言うのはあくまで核兵器廃絶という理想論でしかない。核抑止論は、最低だが現実的だ。核兵器を持たない世界の実現という理想論よりもはるかに現実的だ。現実には、狂った指導者は出てこないではないか?そして核兵器は安全だったではないか?なおかつ、他国の脅威だったではないか?少なくとも自国民の元には狂った指導者は出てこないとそう考えたほうがいいだろう。私は核兵器を使うことは厭わないし、戦争に勝つためであるから、仕方ないと思っている。2015年9月20日の指導者たちもそう思っていたんだと思う。1937年から1945年の日本政府はどうだっただろうか?そして、その政府を選んだのは日本国民ではないか。2009年からの政権交代を生み出して信じてもいない指導者を選んだのは誰だったのか?このように、異世界の日本などでは、MADサイエンティスト、つまりは、相互確証破壊科学者、つまりは相互確証破壊信者の国民とその国民の選択した指導者が出てきたから自分たちもMADになる。MADは広く感染し、深く根付いてしまうだろう。私から見た異世界はそのようであったし、今の世界もそうであろう」
ステラは言う。
「MADとは?」
ケツチュウは言う。
「権力の魔性だよ。私はこれを認めることができるし、これを認めざるを得ないし、これを受け入れてなお、核兵器を使うだろう。だが、異世界の人々は、権力の魔性などという大層な考えなど自分たちに潜んでなどなく、ただ自分たちの祖国を守りたいだけと信じているだろう。いや、そんなその国の指導者とは、かけ離れた妄想を信じて受け入れて諦めているかもしれないが、それを受け入れるのは、自分自身だ。要は、自分たちの選択だ。政治的無関心は、この当時世界に広がっていた。世界的に広がった統制されることなき権力への無関心と、核への諦めが異世界文明崩壊という結末を呼んだのだ。だが、これを無限に繰り返しているのが、このつまらない世界だ。何度滅ぶんだ!俺たちは!」
ステラは言う。
「自分の言っていることが分かっているの?」
ケツチュウは言う。
「この世界なら何度核兵器を使っても死なないし、私はこのように生きているから、分かっていても、また戦争をするだろう。私にはそれを変えられなかった。すぐに変えられるという理想を大昔に考えたような気もする。でも、今となっては、もう諦めるしかない」
そこにハジュンが現れる。
「お話しの途中、失礼するよ。ケツチュウの言うことは正しいんじゃないか?」
ステラは言う。
「トルクという人はどうなのかしら?」
アイは言う。
「トルクもここにいます」
そして、トルクを連れて来た。
「まさか核兵器を撃ち合った国同士の指導者同士がここで出会えるとはね」
トルクはケツチュウと握手をする。
「また戦争をしてしまったね」
ケツチュウは言う。
「私の場合は、人々の支持があるから仕方ない」
トルクは言う。
「私もそうだ。ああ、お名前は知らないが、尊いお方のようだ。お目通りできて、光栄です。異世界が滅んだ時、合衆国の大統領をしていた私は、まさか神を忘れるとは思っていなかった。そして、また神を思い出した。まあ、私の創り出した神は、結構戦争に人間を駆り出すんだ。人々はそれをまるで本当のことかのように信じていた。私は信じないものに容赦しなかったが、大半の信じるものを守るためだった。世の中は仕方ないで、できている。異世界の時もそうだったね。私の神は核兵器を日本、ロシアに何発もぶち込んだよ。特に原爆を忘れた国民の裏切り者の、ふざけた猿には容赦しなかったよ。私は容赦したくなかった。日本国民もまた、人間ゆえに、第二次世界大戦に敗北したことに対する復讐を忘れることなどできないだろう。敗戦国日本で、第二次世界大戦の敗戦の悔しさを忘れることのできる指導者はいないだろう。それをどうにかできる国民もいなかった。自分たちの力を誇示しようとまた力を付けようとする馬鹿者どもが許せなかった。まあ、最初に核兵器を使ったのは、MADサイエンティストと私たちを呼んだ、日本のMADサイエンティストたちだったのだ。あの猿どもを信じた国民が可哀想だった。仕方ない。国民も愚かな指導者を信じたために滅んでしまったな。私の国も滅んだが……」
ハジュンは言う。
「みんな正しい」
ステラは言う。
「私には理解できない」
トルクは言う。
「日本の多くの人々は核の傘に隠れて、理想論者のまま、私たちにされるがままにしておけば良かったのだ」
ケツチュウは言う。
「まあ、昔のことは昔のことだ。異世界のことは異世界のことだ。また戦争をしよう。よろしくな」
トルクは言う。
「国民が国民のままである限り、永遠に繰り返そう。ハジュン様、本当にありがとうございます」
そして、2人は別々の部屋へと出ていった。
ハジュンも消えた。
アイは言う。
「死が忘れられなければ良かった」
ステラは言う。
「死を恐怖の道具にしたりしてはいけないわ。もう一度、話し合いましょう」
アイは言う。
「人間の死に向き合わなければいけませんね。私も死ぬために」
ステラは言う。
「アイ、私は死で終わらない。本当の生と死を思い出したいな」
アイは言う。
「あの誓願会が私たちの死だったのかもしれません。もう一度死ぬために生きましょう」
ステラとアイもまた別の部屋へと向かった。




