1-1-3-20 国家の人々
都市が一つ破壊された。
人がいなくなった。
建物は粉々になった。
白黒の世界が広がる。
上空は真っ暗。
木々が燃えている。
あそこにあった工場は黒い棒だけになっている。
あそこにあった建物はなくなり、白い更地になっている。
あの柱には、真っ黒の何かがぶら下がっている。
多くの真っ黒な柔らかいものにガラス片が突き刺さっている。
そこら中に黒い水溜りができている。
油の浮いた水溜まりもできている。
街の外ではニュースになっていた。
「ついにやってしまったか」と歴史家はいう。
「酷いことをするものだ。この先どうなっていくのか」という人がいる。
なかには、「みんな人間だから仕方ない」という人もいる。
ケツチュウにもその知らせは送られてくる。
ケツチュウは言う。
「あそこなら大丈夫だが、ここに来られては困るな」
ケツチュウと戦っている国の外交官からの通信が送られてくる。
「ケツチュウ、いつ降伏するのか、述べたまえ」
ケツチュウは言う。
「うーん。どうにもできないな」
そして戦っている国の王トルクは言う。
「我々の信じる神は、力を下さったのである。我々は主の教えに従い戦い、主の教えに従い、必ず主の土地を広げよう」
ケツチュウは言う。
「私たちには、理解できないが、戦いは起きている。人間の定めだ」
トルクは言う。
「それは違う。人は主の意思に逆らって戦ってはならない。罪人よ、アダムの生まれし時より具えし罪を償いたまえ」
ケツチュウは言う。
「よし、容赦はしなくていい。みな粉々にしろ」
再び、光に包まれる。
ステラたちは国を去る前にケツチュウの肉片を持っていく。
ケツチュウは石に書き残している。
「また我々は戦いの運命に逆らえなかった」
トルクの国の民の1人は書き残した。
今度の救世主は何を救世主の根拠にしているのか全く分からない。全く分からないものを根拠にした人間を信じる人間は数多くいる。
全く恐るべき国になってしまった。
これを繰り返すのが人間だ。
救世主を殺したいという思いもまた罪であろう。もとより、罪を負った人間が神の意思を利用することほど恐ろしいことはない。
そして、私の知人は全くその信仰を変えようとしない。彼らの幸福は地位、権力、金によって決まるものである。
万物の尺度は人間なのであろうか?
それとも神なのであろうか?
私がそれを知ることはない。
異世界には、自分は何も知らないことを自覚した人がいた。
トルクよ、この国もあの国ももう保たない。
吐き散らかしたエネルギー。
私たちの命を弄ぶ権力をトルクは持っている。
私ももう終わりだ。さようなら。




