1-1-3-11 死会の名前
休み時間に入る。
ラージュは地上の様子を見ていた。
そこへ桜がやって来た。
ラージュは言う。
「俺は、どうしてクラス4なんて作ってしまったんだろうな……」
桜は言う。
「もう仕方ないよ」
ラージュは言う。
「そうだなあ……」
ラージュはそれ以上何も言わなかった。
ラージュは思っていた。
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何で、こんなにも長く、クラスを分ける制度の考え方が忘れられずに残っているんだろう。
あの子は特別なんだろうか。
いやそうじゃないと思う。
俺も人を分ける。
そういう人間だ。
差別する。
人間は人を分けるから人間と言うのかもしれない。
使う人と使われる人。
こんな考え方自体は古いと思うが、形を変えて残っているんだろう。
俺が生まれたあの村も、人は大人材国の皇帝に使われていた。
使われない人間はいないし、使わない人間もいない。
人を信じるって難しいな。
ステラはいいな。
みんなを信じられていいな。
信じることも俺にとっては戦いだよ。
敢えて信じることを続ければ、俺はどうなるんだろうか?
敢えて信じることをやめれば俺は楽になるんだろうか?
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ラージュは桜の元を離れた。
桜は思った。
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ラージュ……どう声をかけたら良かったんだろう。
クラスを分けることは、正しくないと思う。
でも、私も人を好き嫌いで分けてしまうと思う。
それにしても、地上で起きている戦争を、ここで解決することはできないだろうな。
私が死んだ世界と何も変わらないのかな。
何年経っても何も変わらない。
年を取らないし、このまま死なずに生きていくんだろうか?
でも死にたくないな。
この世界で何もできないけれど、生きていきたいな。
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ラージュは桜の元を離れて考えていた。
「もう無理なのかな」
死会がそこへ近づいて来た。
「ぼくたちは何か勘違いをしていることには変わりないよ」
ラージュは言う。
「どういうこと?」
死会は言う。
「君はクラスを分けると言った制度をどうしたらいいか考えているね?」
ラージュが言う。
「ああ」
死会は言う。
「ぼくたちは平和を信じられなかった。
だから人も信じられなかった。
多くの政治的な野心があった。
イデオロギーによる違いもあった。
資本主義的な野心を持った人。
社会主義的な野心を持った人。
共産主義的な野心を持った人。
保守なのか革新なのか、よく分からない主張をする人。
ぼくは資本主義的な野心を持った人々と生きることにした。
結局は、みんな同じ目的を持っていたけどね」
ラージュは言う。
「政治のことはよく分からないんだが……」
死会は言う。
「あの時、あの世界で、ぼくは若い頃に勉強で思想を頑固にして、中年男性になって行動も頑固になった。
そのために政治のことがよく分からなくなったんだ。
国民のための政治を目指していたはずなのに、1000万人以上を処刑した。
日本で起こった出来事だと思うかい?
ぼくはそれをやったんだ。
ただそれと同じようなことをみんな考えていてね。
そのために犠牲になるものもあったように思う」
ラージュは黙っていた。
何も言えなかった。
死会は話し続ける。
「もっと分かりやすくしよう。
ある考え方を受け入れられないグループがあったとする。
そのグループにとって、ある考え方を受け入れさせない方法があるとしたらどんな方法が考えられるだろうか?」
ラージュは言う。
「それは無理だよ」
死会は言う。
「本当にその通りだよ。
だから敢えて推し続けることもある。
それはもう相手がその考え方を嫌いになるほど強引に推すんだ。
目的はみんな同じだから。
ぼくは本当に気づいた時が遅かった。
無限の時に思える集会の時にようやく分かったんだからね。
ぼくたちは、みんな同じことを考えていたんだって。
あの時代に中年男性に潰された若い人たちは何人もいる。
ぼくは潰した人の数を覚えていない。
それと同じように国民一人一人の考えを理解する必要なんて無いと考えていた。
実際全部聞けるわけでもないからね。
みんな同じことを考えていたんだ。
憲法の改正や、国民を支配したいと、思っていたようだ。
ぼくは、自分のやり方を通そうとするために、みんながそれを望んでいると薄々気づいていたのかもしれないけど、気づかないふりをしていたのかもしれない。
これはおじさんやおばさんの運命なのかもしれない。
だが、今は異なることもある。
ぼくはここで何かよく分からないが学ぶことができる。
地上の戦争はいつ終わるか分からない。
でも、今は待つ時だと思いたい。
こういう時に、極端な思想を持った人々が敢えて自分たちの考えとは異なることを主張する世界に生きていたが、今は違う」
ラージュは言う。
「今は待つ時なのかもしれないな。
もどかしいけれど何もできない。
待とう。
死会、全然話変わるけど、君の名前は死とか書いてあるけどどうしてそんな名前なの?」
死会は言う。
「いやあ、それがよく分からないんだ。
だが1000万人以上を殺してしまった自分の罪を表しているのかもしれない」
ラージュは言う。
「でも今は違うじゃないか。
ここに生きているんだし、学ぶ人と書いて学人とかいいんじゃないかな」
死会は言う。
「いい名前だが、名前負けしてしまうんじゃないか?」
ラージュは言う。
「死会よりは良いと思う」
死会は言う。
「4月に生まれたぼくは、学校の入学式と共にあったからね。
名前が付けられたのは5月みたいだけどね。
あの時の名前は何だったかな……。
まあいいや。
分かった。
死会というのは名前を変えたいと思っていたんだ。
これからは学人と言うことにするよ」
ラージュは言う。
「名前を採用してくれるんだ。
ありがとう」
死会は学人となった。
学人は言う。
「いつまでも怨念のようにこの名前を持ち続ける意味は無いと思う。
学人には前向きさがある。
良い名前だ。
こちらこそ、ありがとう」
こうして学人は、教室で、みんなに死会から学人と名前を変えたことを伝えた。




