1-1-2-60 前耳の夢だったもの
倒れた後で思い出した。今の自分は、2015年に世界が滅んでしまう世界とはまた別の2020年に感染症が流行り、世界が変わってしまったという記憶もある。
その時は仕事が無くなり、絶望感に打ちひしがれていた。実家暮らしの自分は、親に恵まれなかった。だからちゃんとした学校も、ちゃんとした仕事にも就けなかった。親というものが憎い。そしてある日、親を殺した。その後、通勤時間に大きな駅のホームで本来混ぜてはいけない洗剤を混ぜ合わせて自殺しようとした。みんな仕事をしたり、学校に通ったりしている。ちょうどその時は赤ちゃんを背負った女性も近くにいた。お母さんを線路に突き飛ばして、赤ちゃんの上に乗ったな。そして洗剤をかけた。赤ちゃんは泣くこともなかった。
自分はなんて最低な人間だろう。
ここで思いとどまれなかった。
何人かの男がぼくと赤ちゃんを離そうとしていた。小さな顔に洗剤をかけることに集中した。周囲のみんなは必死だった。何を混ぜているのか分からなかったのだろう。みんなが倒れる姿を見て、ぼくは倒れまいと思った。
だが……死んだ。
立派な夢もあった。
その時の自分は日本を守る人になりたかった。子どもたちの笑顔を守りたかった。それは夢でしかなかった。何でもっと良い家に生まれることができなかったんだろう。
今覚えている限り2度目の人生での2015年にも同じことが起きた。貧乏で引きこもりの自分には何もできなかった。その後、何が起こったのか分からないうちに世界が滅んでしまった。
前世があるならその前世もある。それ以上の前世もあるのかもしれない。ぼくには、どうしてこんな人生が続いているのか?
何のために生まれなきゃいけなかったんだ。貧乏で何もできない親になるくらいなら、胎児になる前に堕胎してほしかった。
どうすれば生まれる前に親を選べるんだろう。自分なんて生んでほしくなかった。こんな風になるんだったら殺してやると恨んでしまうじゃないか。
悔しがっても仕方ない。
今の自分は能力がある。
親ガチャに失敗しても、才能ガチャに成功した自分。
ステラたんを誘拐して自分色に育てて、子どもを生ませよう。
そういえば、ステラたんはどうなんだろうか……。
ステラたん……小学生くらいに見える女性に何を言っているんだろう。
目を開けるとステラたんの顔が見える。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です……」
優しい声だ。ぼくはこんな声を聞きたかった。
「ここで安心して寝ていてください」
心配してくれてたのか。ありがとう。
「前耳さん、落ち着いたら、話したいことがあります」
「今は言えないことですか?」
「あなたを不思議に思ったんです……でも疲れることなので、あとでお話ししませんか?」
何なのだろう。気になるがまずは寝よう。




