1-1-2-26 リュウ・トウブ
1170字
私は不意に自分の名前を言った。
我慢できなかったのだ。
今この場の空気が、私を決意させた。
スジャータという女性。ケツチュウ王には手も足も出ない私。それと比べて、スジャータには圧倒的な強さを感じた。
この頃女性のほうが強くなっているのではと感じる。隣の女帝クーテは、近いうちにこの国を侵し尽くしてしまうだろう。
そうなった時にケツチュウ王に何ができるだろうか? 彼は私たちを虐げて、王の名で多くの人を殺したり、酒宴で子女たちと戯れたりした。そのケツチュウ王は生まれてこの方3000年と聞いている。3000年も飽きずに人殺しや酒宴を重ねる。そんなことを繰り返して、民が付いてくることなどあるわけがない。
これが王というものに流れる血なのかもしれない。
私はケツチュウ王の虐殺や酒宴をずっと見ていた。
見ている私もどうかしているのかもしれない。あまりにも力が無かった。力が無ければ、どれほど残酷な悪意に対しても抵抗した人々は敗北するのが流れだ。
正義とは、それを遂行する上で、力を持たなければならないのだ。その力が正義となる。クーテは強い女性だ。しかし、私はクーテのことを深く知らない。国を正しく導く力はあるようだが、隣から流れてくる人々もいる。彼らは口々に「なんであっちに行ってもこっちに行っても、体が痛めつけられるんだ!」と言う。
クーテもケツチュウ王とやり方が違うだけで同じなのかもしれない。
そう思いながら、疲れたのか眠ってしまっていた。
私が目を覚ますと、男がいる。
「リュウさん、こんにちは。私はルンルンと言います。私も彼らの戦いに共感とまでは言いませんが、協力したいと思いました」と彼は言う。
「私もそうです。こちらの少年も昔からのお仲間なんですよね」
「少年か。ぼくはアーリマンだ。ぼくたちはまだ会って間もないよ。ただ、大人材国だけじゃなく、ちょっと世界にテコ入れしないとまずいことになるからね。ぼくはどっちかと言うと、向こう側の存在だったけど、色々あって変わったんだ。少し違和感はあるけど、裏切らずに協力しあっていけると思ってほしいな」
そうか、アーリマンか。確かビンサール王国には3000年前にアーリマンという魔神がいたそうだが、この子がそうなのかな。そうは見えないが……。
私が生まれたのが精々30年ほど前。もしかしたらとんでもなく年下なのかもしれないな。言葉に気をつけていかないと……。
すると女性がご飯を持ってくる。どこで作ったんだと思ったが、この人たちのことだ。何かを問うてはいけない気がする。
「起きましたか? 私はスジャータと言います。突然連行してすみません。あなたはあのままでは、あなたが傷つくと思ったの」
「そうですね。私は、あの時、腕と脚を切られていたかもしれません。ありがとうございます」
ケツチュウ王の沸点は低い。
助けてくれたことに感謝しなければ。




