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テキスト×テクスト  作者: 冬石
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我が家族


 世界はいったい何でできているのか。


 その問いはずっと昔からあり、ある時代はエーテル、ある時代は思考、ある時代は粒子、様々な答えが出ては新たな見解が発生しいつの時代も世界は人々の好奇心で成り立っているのだと、僕、キア・エレインは考える。


魔法テキストに決まってるじゃん」


 頬にジャムをつけたままパンを食べる妹サリタは、父親の最新魔法(テキスト)に目を走らせながら素っ気無く言い切った。


「誰かバターをとってくれないか」


 食卓の斜め向かいに座っている父親が半分眠ったままの目で頼むが誰もとろうとはしない。 母も妹もさきほどからパンを片手に端末ブラウザに表示された文字列を食い入るように見入っている。


 一方の父は時折、眠気に勝てずかくんと首を崩しては、はっとし、バターを求めていた。


 冠絶の魔法使い(テキストエディタ)、レオ・エレインの記述した新たな定義言語列、文法、がつい先ほど世界共用サーバーで公開された。アクセス数を示すカウンターの数字は狂ったかのように増えていく。


 世界は日々魔法(テキスト)により変化をする。まるで生き物のようだとサリタは例え、僕もその考え方には賛同している。昨日までの常識が今日には時代遅れになる、魔法テキストによって。 僕らの暮らしと魔法テキストは密接な関係にあり、生活する上で意識せずとも使用している。

 過去、エーテルで世界は満たされていたそうだが、現在の世界は魔法テキストで構成されている。


 僕らは魔法テキストを書き換えたり、新たに作成した文法や言語列で世界を生きている。


 たとえば、バターが欲しければ「バター」という概念を魔法テキストで記述し実行すれば生成することが可能である。

簡単な魔法テキストだが父のレオはそれをせず食卓を囲んでいる家族に頼む。

なぜかというと、面倒だからだ。

父 ほどの魔法使い(テキストエディタ)になればバターの生成など他愛もないことであるが、机の真ん中に置かれたバターを誰かが席を立ち、手を伸ばせば済む。だが母と妹は世界の根本を構築することになるであろう新たな定義文法に夢中で、バターを取りたがらない。


 僕はしかたがなく、バター容器を父の方へ押しやる。


「すまない」


 たっぷりとバターナイフですくい雑穀パンに塗る。

 父が発表した定義文法は、実に父らしい形式を持った魔法テキストだと最初の数行を読み感じた。 行儀良く丁寧で律儀さがあり、けれどもどこか人懐っこさがある。


 僕は最恐の魔法使い(テキストエディタ)である母の教室で日々、魔法テキストを研究しているが、決して父のようなタイプの魔法テキストが嫌いなわけではない。

 けれども母の記述する嵐のように荒々しく刃物のように研ぎ澄まされた魔法テキストが、好きだ。


「つまらない」

 パンを憎そうに千切りながら母のアリサが口を開いた。眉間に深くシワがよっている。不機嫌そうな目は相変わらず端末のブラウザに向けたままだ。

「ありがとう」

 父は嬉しそうにまたバターを塗りパンを食べる。

「君が感想を言ってくれることこそが、なによりの賞賛だよ」

 もぐもぐと口を動かし、母に向かって言う。しかし母は聞いちゃいない。それでも父は愛おしいという感情を含めた目で母を見ていた。理解しがたい夫婦である。


「ところで僕は、世界は愛でできていると思うんだ、キア」


 脈絡のない発言に、父のロマンチストな所は遺伝しなくてよかったとつくづく思う。ここ最近精神をすり減らすようにして今回の文法言語列に取り組んでいた。疲れているのだろう。


「愛か、さすがパパね」

 隣からサリタの弾んだ声。こういう所で父と妹はよく似ている。


 魔法学校で教鞭を取る、父のレオ・エレインと母のアリサ・エレイン。

まだ魔法使い見習いの僕、キア・エレインと同じく魔法学校に通う妹のサリタ・エレイン。


 四人が揃っていれば、不可能など存在しない。そう思えるほどに、僕は口に出して言いはしないがこの家族という繋がりが、信じられた。


あの黒猫エラーが現れる日までは。

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