~虹の麓へ~
今日も雨が降っている。季節的に梅雨なのだから仕方ないとは言え、長すぎる気がする。TVのニュース画面では降り続く雨の映像と、その原因を専門家が難しい言葉を並べて解説している。それに対して、分かっているのかどうなのか微妙な司会者が頷いている。「そうですか…」「へー…」等とたまに言葉も発している。
そんなTVを消して、僕は今日も雨を見ている。同じことの繰り返しだ。
「つまんない…」
思わずそんな言葉が出てくる。その時、外から親友で幼馴染の蓮華が大きな声で僕を呼んだ。今日の蓮華のファッションは、青色のワンピースと赤い傘、おしゃれな長靴、という具合のとてもシンプルな格好だった。
「おーい、一樹!降りて来いよー」
雨降ってるのにか?と言う顔で蓮華の顔を見た。それが通じたのか、大きく何度も頷いている。僕はため息をつきながら、下に降りて行き外に出た。すると、勝手に庭に入って来ていた蓮華が嬉しそうに言った。
「面白いもん見つけたんだ。一緒に見に行くぞ」
僕が返事をする前に、僕の腕を掴んで走り出した。傘も差していないから、僕はずぶ濡れだ。
「ちょっと待ってよ。せめて傘差させてよ」
必死で言ってやっと止まった。振り向きざまに蓮華の長い髪が、僕の顔に触れた。
僕はゆっくりとため息をつき、傘を差そうとした。その時、「早く、早く!」と、蓮華が地団太を踏んでせかす。その様子を、僕は若干呆れながらもう一度ため息を吐いた。
ようやく差すことのできた傘を片手に、僕は蓮華に連れられて走る。僕は歩きたいが蓮華が走るからだ。
「で、どこに行くのさ」
僕は走りながら蓮華の後ろ姿に声をかけた。すると、また振り返り(今回も髪が当たる)嬉しそうに笑いながら、この町の大体真中らへんにある小高い丘を指さした。
「あそこに大きな木があるの知ってるだろ?で、根元近くに大きな穴が空いてたんだ」
「ふーん。でも、大きな穴が出来てたら大人たちが騒ぐんじゃないの?なんで、誰も何も言わないの」
蓮華がふふっ、と不敵に笑い大きく胸を反らせた。
「私が穴を隠したからだ」
どうだ、と言わんばかりの自慢ぶりに僕はまた呆れた。
「蓮華、もし誰かがその穴に落ちたらどうするんだよ。それに、穴の何が面白いのさ」
蓮華は大きく目を見開き、心底ビックリしている。
「穴だぞ!しかも大きくて、急に出来たんだぞ!それだけで面白いじゃん」
その理屈に戸惑いながらも、僕はとりあえず「ふーん」と言った。蓮華は、にっしっしと笑いながら再び僕の腕を掴み走り出した。