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輪廻の扉 ~看護師千代の物語~    作者: ひな月雨音・菜須よつ葉
9/12

009 自殺

 この霊安室に運ばれて来る人の中には、自ら命を絶った方もいらっしゃいます。



「やっと楽になれました」


(何があったの? どんなに辛くても死んだらもったいないじゃない)



 命を絶つ程の理由を、女性は私に話し始めた。



「私、何をやってもうまくいかなくて。出来たと思っても、何かしら怒られて……一生懸命働いても報われないままなら、いっそ死んだら楽になれるんじゃないかと思ったんです」


(何も仕事はそれひとつしかない訳ではないでしょう? 命を絶つ位なら、辞めることだって出来たのではないかしら?)


「……死んでも、怒られるのね」


(そうね。私はナースだから、生きたくても生きられない人を看てきたの。モルヒネでしか痛みを抑えることができない末期の癌患者様だったり。幼い子供を残して死ななくてはいけなかったお母さんなど本当に見ていて辛い事がたくさんあったの。だから、命を軽く考える人に考えを改めて欲しいのよ)


「私だって! 私だって……生きたかったけど」



 女性の瞳から、とめどなく涙が溢れ出る。



(けど、誰にも言えなかった?)



 無言で首肯してみせる女性。


 近づいて背中をポンポンと叩きながら、気持ちを落ち着かせるように私は話した。



(その涙は、命を軽んじた人のそれとは違う。私にはわかるわ。きっと今、あなたの胸の中には、生前とは違うもやもやがあるはず)



 私の言葉を聞きながら、自分の胸へと手を当てる女性。



(亡くなった人間が生き返ることはないけれど、あなたがもしもう一度、与えられた命を全うしたいと思うなら、生まれ変わるという選択肢もあるわよ? どうする?)


「同じ人生をやり直すってこと?」


(同じになるのか、ならないかは貴女次第じゃないかしら?)



 女性は少し考えてから、こう答えた──



「同じ過ちは繰り返したくない。こうして私に対して真剣にアドバイスをしてくれた人なんかいなかった。だから……頑張ってみる!」



 女性の決意と共に、空から一筋の光が差し込んできた。



(さぁ、この道を後ろを振り返ることなくまっすぐ前だけをみて、進みなさい。光が行く道を示してくれるから。さぁ、おゆきなさい)



 彼女は新たな決意を持って、迷わず光の導きに従い歩いていった。



(来世は、もっと幸せな人生でありますように。神のご加護を……)



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