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輪廻の扉 ~看護師千代の物語~    作者: ひな月雨音・菜須よつ葉
8/12

008 不倫

「あの人はどこなの!」



 藤井絢子はもの凄い剣幕で誰かを探していた。



(誰を探していらっしゃるのかしら?)



 私は絢子に声をかけた。



「ここにはあなたしかいませんよ」



 血走った目を私に向けると、辺りを見渡し、置かれた状況を理解しようといているようだった。



(彼とは、もう会うことはないと思いますよ)


「どうしてよ! 彼に会わせなさいよ! そうしたらわかるわよ!」



 絢子は生前、不倫相手を自分だけのものにしたいと思い、男の元へと向かった。


 バッグの中には、ナイフを忍ばせて──



(男を家族から奪い、独占欲が抑えられなくなったあなたは、命をも奪う覚悟だったのね)


「あの人、必ず別れるからもう少し待ってくれって言ったのよ」



◇◆◇◆◇



 ただの口約束を可能性と思い込み、絢子は“その日”が来るのを待っていた。


 しかし……。



「いつになったら別れてくれるの? このままじゃ私……」


「なんだよ?」


「……あなたの家族……殺しちゃうかも」



 男は絢子のその言葉を聞き、別れることを決意した。


 絢子との別れを選んだのだ。



「何よ! 何よ!!  私のこと愛してる。絢子可愛いよって囁いてくれたのは嘘だっていうの? 絶対に許さないんだから! 」



 バッグから出したナイフを振り上げ、男へと駆け寄る絢子。


 男は咄嗟にナイフを持った方の腕を掴むと、脳裏によからぬ思いがよぎった。



『このままもみ合いになって、偶然を装えばこいつを……殺せる』



「1人で逝かせはしないから。あなたを殺して私も直ぐにあなたの元へ行くから。そうしたら私とあなたは永遠に一緒にいられるのよ。素敵ね」



 絢子がいくら本気を出したところで、男との力の差は埋まることはなく──



「じゃあ、先に逝けよ! 安心しろ。俺もちゃんと……寿命を生きてから逝くからよ!」


「……えっ」



 二歩三歩と、男が後ずさる。



「私……だけっ……私だけ死ぬの?」



 その言葉を最後に、絢子は動かなくなった。



「いいか! 付き合ってる女は、お前だけじゃねぇ! 本気にしやがって! お前は5番目の女だよ!」



◇◆◇◆◇


(あなたも男も、私に言わせたら最低ね)



 絢子の話を聞いていた千代は、つい感情的になっていた。


(あなたにぴったりな道を教えてあげるわ!)



 直後、絢子の足元がふにゃふにゃになり、突然床に穴が開いた。


 それと同時に、絢子は強制的に地獄へ落ちでいった。


「地の底からでも、呪ってやる!」



 瞬き程の時間で、床は元に戻った。



(まぁ、当然の報いね)



 その後、男がどうなったかと言うと、現場を目撃していた人の証言により逮捕され、複数の浮気相手からも裁判を起こされ、家族にも見離されたのだった。



「これが、あの女の……呪いか……ははっ。はははっ。ははははは!」



 こうなることを予期していたかのような千代。



(生きて地獄をみると良いわ。そう簡単に許されないでしょうけどね)



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