006 花嫁
「これからだったんです。皆に祝福されて。余命宣告された私を、大切にしますって……」
花嫁衣装のまま運ばれてきた女性は、私の前で泣き崩れた。
(医師の余命宣告はあくまでも目安。それよりも長く生きていく方もいらっしゃるし、急に進行してしまう方もいらっしゃるのが現状なのよ)
花嫁にゆっくり話しかける。
「……私が最期に見たもの、何だと思います?」
(皆さんの涙かしら?)
顔を左右に振ると、少しだけ瞳に優しさを宿し、こう答えた。
「それは……あの人の笑顔です」
女性が亡くなることは分かっていたはずの男性は、この世の最期に自分の笑顔を見せるなんて、心が張り裂けそうな思いだっただろう。
(素敵な男性に愛されたわね。彼の優しさに包まれて、光の導く道を真っ直ぐに進んで行きなさい)
一歩踏み出した女性は、最後にこんなことを聞いてきた。
「私……生まれ変わったら、またあの人に出逢えるかしら?」
前世の記憶を持ったまま生まれ変わることはないが、個人的には、そうなってもらいたいと思い……。
(ええ。きっと)
その言葉を聞いた女性は笑顔で一礼すると、光の中へと姿を消した──




